文化・ライフ

坪田一男

(つぼた・かずお)慶応義塾大学医学部教授。1955年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、日米の医師免許取得。米ハーバード大学にて角膜フェローシップ修了。角膜移植、ドライアイ、屈折矯正手術における世界的権威。再生角膜移植のほか、近視・乱視・遠視・老眼などの最先端の治療に取り組む。近年は研究領域を抗加齢医学=アンチエイジング医学に広げ精力的に活動。日本抗加齢医学会理事、日本再生医療学会理事など。著書に『老けるな!』(幻冬舎)、『長寿遺伝子を鍛える』(新潮社)、『ごきげんな人は10年長生きできる ポジティブ心理学入門』(文春新書)ほか多数。

 

眼科医療支援車両の活用のため台風ヨランダの被災地へ

台風ヨランダで甚大な被害を受けたフィリピン・レイテ島の被災状況。(写真:坪田一男)

台風ヨランダで甚大な被害を受けたフィリピン・レイテ島の被災状況。(写真:坪田一男)

 2014年の年明け、米国中西部では大寒波が続き、3500以上の航空便に遅延や欠航が出たとか。一方、その頃僕は、気温30度以上のフィリピンにいた。

 残念ながらビーチでバカンスというわけではない。昨年11月にフィリピン台風30号(=台風ヨランダ)で甚大な被害を受けたレイテ島を視察するためだ。

 僕は3年前の東日本大震災の時、被災地を巡る眼科医療支援車両「ビジョンバン(Vision Van)」を米マイアミ大学の友人から借り受け、3カ月間、被災地で移動診療を行うというプロジェクトを実行した。実に3700人の方へ眼科医療を届けることができたことは、本当にうれしく思っている。

 災害時には、生死を分けるような大けがや症状を救うための医療が最優先される。これは当然のことだ。しかし、被災から一定の時間がたち、環境が落ち着いてくると、「見る」ことができないことの不便さを痛感するようになる。

 例えば、被災によって眼鏡やコンタクトを失った人は、日常生活でもいろいろと不便を感じるだろうし、復興活動はもちろん、新聞やテレビで情報を得ることさえ難しいだろう。

 実際、僕たちが届けた老眼鏡を掛け、震災後初めて新聞を読んだおばあさんの笑顔を忘れることはできない(この活動記録はYouTubeにもアップされているので、ぜひご覧ください。 http://www.youtube.com/user/MissionVisionVan)。

 この活動の実績を受け、日本眼科医会では国家予算を獲得し、日本製のビジョンバンも完成。今も東北の避難所を回って活動を続けている。これは、アジアでの災害時には医療支援に派遣することを視野に入れて開発された車両だ。  

 そこで、11月の台風ヨランダの被害報告を受け、さっそくビジョンバンの活用をフィリピン側に打診していたのだが、やっと救急医療の時期は終わり、眼科にもその需要がありそうだということで、視察に行くことになったわけだ。

被災地で十分な眼科診療を届けるために

 マニラから、飛行機で約1時間。レイテ島で僕たちを出迎えてくれたのは、アメリア先生というフィリピンの女性眼科医。耳鼻科の旦那さまと一緒に車で島のあちこちを案内してくれた。

 被災前は11人いたというレイテ島の眼科医は、現在1人。他の先生はマニラやセブに一時移住してしまい、唯一残った眼科医が、アメリア先生だ。彼女1人だけでは、避難者すべてに十分な眼科診療を届けるのが難しいのは明らかである。オペ室のある病院にも足を運んだが、施設にしても、医師の数にしても、全く足りてはいない。

 僕たちのビジョンバンは、高度な検査機器もしっかり搭載している。ぜひ、レイテ島でも活用してほしいと心から思った。

 そして、実際に現場に足を運び、自然が起こすパワーの大きさに、またもや言葉を失った。10㍍くらいの波が沿岸部に押し寄せ、木造建築はすべて押し流されていた。コンクリートの建物でも、窓ガラスはすべて破壊され、中にはコンクリートなのに土台しか残っていないものもある。

 事前に約6千人が避難していたというタクロバンのホールも例外ではなく、何と半数の約3千人が押し寄せた海水に沈んで亡くなったそうだ。その建物では、今でも多くの人が避難生活を送っていた。

 膨大な数の避難者を前に、僕もどのような支援ができるのか、アメリア先生や現地の病院のディレクターと多くのディスカッションをした。

 これから、日本サイドでの調整も続け、2月には活動が開始できればと考えている。

 最後の日。フィリピン眼科学会の先生方と食事会をした。フィリピンでは、多くの女性が働いている。大統領にも既に2人も女性が就任しているし、食事会にも多くの女性医師が参加していた。

 みなさんとお話をしてみると、それぞれ子どもが3人か4人いて、子育てをしながら働いているそうだ。おいしいフィリピン料理を食べながら「お家でも、こんなお料理するのですか?」と聞いてみたところ、「もちろんシェフが作るわよ」と一笑に付された。

 女性が生き生きと社会で活躍するには、まだまだ日本にはリソースが足りないな、とも感じた視察の旅だった。

★今月のテイクホームメッセージ★

被災地に眼科旅を!

筆者の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る