政治・経済

国内アルコール総市場の縮小に歯止めがかからない中、サントリーホールディングス(HD)が米国の蒸留酒(スピリッツ)大手のビーム社の買収合意を発表した。1兆6500億円という巨額買収額を決断した背景とは。 (本誌/大和賢治)

ビーム社の買収はサントリーにとって最後の優良案件

 

巨額買収を決断した佐治信忠・サントリーHD社長

巨額買収を決断した佐治信忠・サントリーHD社長

 1月13日、サントリーHDが米蒸留酒大手のビーム社と買収を合意したと発表した。

 これによりサントリーHDは蒸留酒(スピリッツ)メーカー10位から3位に浮上、名実ともに世界のトップメーカーに躍り出る。国内アルコール飲料総市場の縮小が避けられず、海外に活路を見いだすことが酒類メーカーの至上命題と言われる中、同社は国内競合メーカーに先行する格好となる。

 驚くのは、約1兆6500億円という買収金額。単純計算でもビーム社の利益の20年分に相当する。

 この買収額は巷間〝高い〟という意見も多い。それこそ大きなお世話だが、少子化により歯止めのかからない国内アルコール市場への危機感が、同社の佐治信忠社長の背中を押したということだ。

 「ビーム社のM&Aというのは、酒類メーカーに最後に残された優良ビッグディールと言えます。同社は、バーボンの『ジムビーム』『メーカーズマーク』、スコッチの『ティーチャーズ』、カナディアンウイスキーの『カナディアンクラブ』な038_20140218_06ど日本はもちろん世界でも高い認知度を誇る強力ブランドを多数保有しており酒類メーカーにとっては垂涎の的と言えました。しかし、それゆえ買収額は莫大、サントリーHDのようなオーナー社長が決断する以外、このディールは成功しなかったと言えます」(業界関係者)

 国内アルコール総市場が縮小しているのは前述したが、一方で、世界レベルで市場を見れば決して悲観的というわけではない。

 今回、買収に合意したビーム社の基盤であるスピリッツ市場は国内では微増、世界では6%前後の増加傾向にある。特にインドや移民が流入し続ける米国では人口は増加傾向にあり将来的なマーケットのポテンシャルは低くはない。そうした点からもサントリーの決断は理に適っていると言える。

 一方、サントリーHDの国内スピリッツ事業の動向は、1月9日に開かれた同社の2014年酒類事業方針会見によって詳細を把握することができる。

 前期、同社のスピリッツ事業は「角瓶」「山崎」「白州」といった主要ブランドとRTD、RTSといったカテゴリーが堅調に推移し、対前年比103%(金額ベース)と健闘。ウイスキーへの接点の拡大を目指し、今や定番商品となったハイボールのさらなる拡大、プレミアムウイスキーの価値訴求、バーボンウイスキーのマーケティング強化に注力した結果とも言える。

 特にハイボール拡大を牽引した「角ハイボール」は対前年比103%。さらに国産プレミアムウイスキーでは、一昨年発売した「新山崎」「新白州」、昨年4月に500㍉㍑サイズを発売した「響12年」が好調に推移し同年116%と大きく伸長した。

 昨年1月から取り扱いを開始した世界のナンバーワンバーボン「ジムビーム」はソーダやミントで割った新しいバーボンの楽しみを訴求する〝クールバーボン〟をキーメッセージに積極的に展開し、その結果、対前年比8割以上の販売実績を残した。日本におけるバーボンでもナンバーワンに躍り出た。

 「今期は『角ハイボール』では〝食中酒〟としての魅力を訴求し需要拡大を図りたい。さらには『響』『山崎』『白州』といったプレミアムウイスキーでは品質の高さと露出を高めて訴求することで新規ユーザーの開拓を目指す。一方、バーボンでもマーケティングを強化し市場の活性化を図り需要を創出したい」とサントリー酒類の執行役員スピリッツ事業部長の小泉敦氏は述べるなど、今期も前期同様スピリッツ各カテゴリーの拡大を目論んでいるものの、同社が掲げている目標は対前年比101%と国内市場を楽観視していないことも見て取れる。

 「サントリーは、08年以降、『ハイボール』を食中酒として提案すると言う新展開で、縮小し続けてきたウイスキー市場の歯止めに成功しました。市場の活性化に貢献したことは確かですが、さらなる拡大に向けた次の一手となれば容易ではありません」(酒類担当アナリスト)

 こうした厳しい環境も、今回の買収決断の背中を押したのかもしれない。

 

販路拡大の可能性を探るサントリー

 

 同社のスピリッツ輸出実績は昨年度、約18万ケース(標準瓶換算)。今期は約20万ケースを見込んでいる。

 また昨年は、「響21年」が世界的な酒類コンペティション「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2013」の「世界のウイスキー」部門でカテゴリー最高賞の「トロフィー」を受賞するなどジャパニーズウイスキーに対する評価が高まっていることに加え、ビーム社を買収することで販売流通網の拡大も可能となり、世界最大のスピリッツ市場に楔が打てる。「響」「山崎」「白州」といった国内プレミアムブランドが世界的にブランドとして認知される日が来るのか注目したいところだ。

 ビーム社との買収合意を発表したサントリーHDの事業会社であるサントリー酒類は、1月23日、日本限定商品「ジムビームプレミアム」を4月1日から発売するなど早くも始動するなど並々ならぬ意気込みを感じる。

 近年、サントリーHDと言えば「ザ・プレミアム・モルツ」を擁し黒字化に成功。以降、ビールのシェア争いに関心が向けられがちだが、本来、同社の生業は粗利の高いウイスキー。

 ウイスキーで同社の製品が世界的ブランドとして認知されることこそが、本来の姿かもしれない。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る