政治・経済

日立製作所は好業績を花道に中西宏明社長が会長に就任し、後任社長に東原敏昭執行役専務が昇格する人事を発表した。今や電機業界の〝勝ち組〟の地位を固めたかに見える日立だが、前途は必ずしも安泰ではない。 (ジャーナリスト/三浦剣)

海外で稼げない

退任する中西宏明・日立製作所社長(右)と東原敏昭・新社長(左)

退任する中西宏明・日立製作所社長(右)と東原敏昭・新社長(左)

 「〝勝ち組〟なんて気軽に言わないでくださいよ。いつまた落ち込むか分からないんだから」

 中西社長はマスコミに対して、いつも冗談交じりにそう話す。

 無理もない。日本の電機大手はこれまで「勝ち組」と「負け組」がめまぐるしく入れ替わってきた。日立は過去15年間に3度の経営危機を経験し、そのたびに社長が交代。つい数年前には7千億円の赤字という最大の経営危機に見舞われた。この時にショートリリーフを明言して川村隆社長(現会長)が登板。後継の中西社長と二人三脚で、ようやく黒字体質が軌道に乗ったばかりだ。〝勝ち組〟の実感は乏しいだろう。

 周知のように、川村会長は経団連会長への就任要請を断った。その背景には、まだ日立の経営は安定していないという危機感があったと考えられる。

 日立の目標は明確だ。2012年度までの3年間の中期計画では、営業利益率5%が目標だった。これはあと一歩で達成できなかった。15年度までの現在の中期計画では、営業利益率7%を目標にしている。しかし中西社長によれば、これも通過点にすぎないという。日立がライバル視し、自社業績のベンチマークとしている米GEや独シーメンスなどに追い付くには、せめて営業利益率を10%まで高めなければならないという。そこまでいって、初めて〝勝ち組〟になれるというのが経営陣の考えだ。

 しかし日立が過去、安定的な収益を上げていた時代にも、それほど高い利益を稼ぎ出したことはない。14年3月期に過去最高益を更新すれば、ようやく営業利益率が5%を上回る。よほど企業体質が変わらなければ、将来ビジョンを描くことすらままならない。

 日立が変化を志向しているのは事実だが、それが成果を上げているかどうかといえば、疑問である。2つの点から日立の弱点を指摘できる。

 第1点は、日立が日本国内に強いのに対して、海外で稼げないことだ。

 日立の13年9月中間決算では、海外売上高比率は46%だった。この数値は、東芝の61%にも及ばない。日立はもともと海外市場に弱い。目下の好業績は、日本国内のインフラ投資や企業の設備投資に支えられたものなのだ。

 日立は懸案の海外比率を、15年度までに50%に高める目標をたて、積極的な拡販策に出ている。とくに目立つのは英国向けだ。英国の鉄道省から866両の高速車両を受注し、同国内に新たに車両工場を建設。将来の保守サービス費を含めて1兆円近い巨大プロジェクトを手中にした。また同じ英国で原子力発電会社を買収し、同社が建設予定の原発を日立が納入する権利も獲得した。

 問題は、これらの新事業の採算性が見えないことである。現在でも、日立は海外事業の利益率を公表していない。海外展開の加速で無理が生じていないか。輸出とは違って、現地に工場を建設したり巨額の買収費用を掛けたりして獲得した海外案件である。長期にわたって収益をコントロールできなければ、かえって将来の経営を圧迫する懸念もある。

 日立は新社長として、海外事業に強い東原専務を抜擢した。背景には、なんとか海外展開を成功させなければならないという覚悟がある。それだけ前途を楽観視していないということでもある。

成長より安定

 日立の弱点の第2点は、成長分野に弱いことだ。

 川村会長と中西社長の現体制が進めてきた経営再建策は、ひと言で言えば「ボラティリティ(価格変動の激しい)分野の縮小・撤退」であった。半導体分野では、関係の深かったエルピーダメモリとルネサスエレクトロニクスを突き放した。ハードディスク駆動装置事業を米ウエスタン・デジタル社に、液晶パネル事業を政府系ファンドの産業革新機構が主導するジャパンディスプレイにそれぞれ売却。さらにテレビの国内生産からは撤退した。

 つまり成長より安定を志向することで、経営を再建したのである。その上で取り組んだのが、固定費の削減だ。

 「スマート・トランスファー・プロジェクト」と呼ぶ日立のコスト削減計画は、削減額1兆円を目標としている。これまで、本社と個々の連結子会社が独立採算に近い経営を展開してきたのが日立グループの特徴だ。人事も給与も、調達も品質保証も、すべて子会社ごとに基準を作っていたのだから当然、ムダが多い。それを絞り込むことで業績は急速に改善した。

 しかし、当初は大きな効果を発揮したこの手法が長続きしないことは、容易に想像できる。「乾いた雑巾をさらに絞る」ことでは生み出す利益は小さい。ようやく5%台に達した営業利益率を10%に倍増させるには、力不足だ。

 まして電機メーカーは、常に価格下落の圧力にさらされている。売価ダウンを、より付加価値の高い新製品で補うことで利益率を確保しなければならない。スマートフォンのような成長分野に縁遠くなった日立が、どれだけ新規事業に取り組めるのか。未知数の部分が多い。

 現在の日立の中期計画でも、インフラ関連や電力システムなどの従来、日立が得意とした分野は利益率が伸び悩むことを予想している。情報関連のサービスや、海外に強い優良子会社の日立建機などに期待を寄せているのが現実なのだ。

 4月にスタートする東原社長の新体制は、こうした弱点を克服し、利益率10%の道を模索することになる。日立の企業体質が従来のままなら、先行きは険しいと言わざるを得ない。しかし企業体質に大きなメスを入れれば、ようやく安定させた業績が大きく傾く懸念がある。

 冒頭に紹介した「〝勝ち組〟なんて気軽に言わないで」という中西社長の言葉は、決して大げさではないのである。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界9月号
[特集]
人材恐慌 この危機をどう乗り切るか

  • ・企業が脅える人材恐慌最前線
  • ・人材不足の処方箋 働き方改革でどう変わる?
  • ・加藤勝信(働き方改革担当大臣)
  • ・神津里季生(日本労働組合総連合会会長)
  • ・中田誠司(大和証券グループ本社社長)
  • ・若山陽一(UTグループ社長)

[Interview]

 松本正義(関西経済連合会会長)

 2025大阪万博で関西、日本は飛躍する

[NEWS REPORT]

◆第4次産業革命に走る中国、遅れる日本 松山徳之

◆格安スマホに対抗しauが値下げ これから始まるスマホ最終戦争

◆減収続くも利益率は向上 富士通・田中社長の改革は本物か

◆破綻からわずか2年 スカイマークが好調な理由

[政知巡礼]

 野田 毅(衆議院議員)

 「社会保障の安定した財源は消費税しかない」

ページ上部へ戻る