政治・経済

海上自衛隊でも伝統として引き継がれる五省

 昭和をリードした財界人には、海軍兵学校出身の経営者が多くいた。当社の先代社長も海兵73期卒であり、特攻隊員として祖国のために自らの命を捧げるべく覚悟したが、奇跡的に一命を取り留め生還したという数奇な経験の持ち主である。これら海兵出身の方々には、常に自分自身のこと以上に、国全体、社会全体の利益を考える気概があったように思う。それはノブレス・オブリージュ(高貴なる者の務め)の精神といえようか。

 そんな凛とした姿勢と謦咳に鍛えられつつ、人生について、そして経営について薫陶いただいたときに出てくる言葉が五省である。

一.至誠に悖るなかりしか

一.言行に恥ずるなかりしか

一.気力に缺くるなかりしか

一.努力に憾みなかりしか

一.不精に亘るなかりしか

 広島県江田島の海軍兵学校(現在は海上自衛隊幹部候補生学校)では、夜の自習時間の終了5分前にラッパが鳴り響くと、生徒は素早く書物を机の中に収めて粛然と姿勢を正した。そして当番の生徒が「五省」を次々に問い掛けていく。生徒は瞑想し、心の中でその問いに答えながらその日1日の自分の行動を自省自戒したという。

 今も海上自衛隊ではこの五省が伝統として継承されているほか、戦後来日した米国海軍中将がこの「五省」に感銘を受け、アナポリス海軍兵学校に持ち帰り、英訳されて現在も掲示されているという。

経営者にこそ五省を広めたい

 五省という言葉は辞書には載っていない。自らを省みて何か人間として至らぬ点はないかと厳粛に考える5つの「自戒のことば」だ。今風に分かりやすく言えば、真心に反していなかったか、言行に不一致な点はなかったか、精神力は十分であったか、十分に努力をしたか、最後まで手を抜かなかったか、ということである。

 最近の経済界での不祥事の多発を鑑みるに、この五省を経営者層に「広める要がなかりしか」と自戒している。

 当社の属する業界でも言行不一致の取引が横行しており、海外の同業者から見れば理解され難いビジネスモデルとなっている。今、当社が大きな代償を払ってでも業界の正常化に取り組まなければならないと努力しているところだ。

 日本が再び輝きを取り戻すために、真のグローバル化がわが国の将来にとって重要な課題といわれているが、透明で公明正大なビジネスが重要であることは言うまでもない。

 市場原理至上主義に基づく競争のみが正統化されたようにみえる経済システムの歪みが、食品偽装や不良貸付などの不祥事になっているとしたら、今こそ五省の訓戒を反復すべきであろう。

 不精に亘るなかりしか。五省を胸に、最後まで手を抜くことなくやり抜く覚悟である。

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