政治・経済

経団連の次期会長に内定した東レの榊原定征会長は「イノベーションを通じた日本経済の再興」へ意欲を示した。だが、経済のグローバル化と多様化で経団連の存在感は低下するばかり。次期会長は歯止めをかけることができるのか。 (ジャーナリスト/梨元勇俊)

 

経団連会長職に意欲満々の榊原定征氏

 

経団連新会長に内定した榊原氏

経団連新会長に内定した榊原定征氏

 1月中旬の内定発表後、27日に正式に会見した榊原氏は意欲満々だった。

 会長就任後の優先課題は「経済の好循環実現によるデフレ脱却と経済成長の実現だ」と述べ、中長期的課題も「2020年東京五輪までに国を挙げて成長路線をしっかり築くことだ」と語った。「成長に最も大切なのはイノベーション」と強調して、昨年1月に発足した政府の産業競争力会議で民間議員として成長戦略の策定にかかわった経験から環境、医療、農業などの分野でイノベーションを発揮することの重要性を説いた。

 炭素繊維の開発など文字通りイノベーションを掲げて東レの業容を立て直した氏の経営手腕は高く評価されており、「日本経済の顔」としての活躍にも期待がかかる。

 

榊原定征、経団連次期会長の仕事は政府との関係修復

 

 榊原氏がまず取り組むべきは政治との関係修復だ。日本最大の経済団体を自負する経団連と安倍晋三政権との関係は必ずしもうまくいっていない。

 12年9月、第25代自民党総裁に選ばれた安倍氏は米倉弘昌会長への就任あいさつのため経団連会館に足を運んだ。当時は野党だったとはいえ自民党の総裁が経団連会長を訪ねるのは異例なことだ。

 23階の会長室で「よろしく」と頭を下げた安倍氏に対し米倉氏はどうした弾みか「あなたはナショナリストでしょう」と言い放った。安倍氏は机をたたいて激高し「このことは私のツイッターで明らかにしますから」と憤然と帰ったという。

 このときのやりとりが下敷きになったのか、米倉氏は自民党が同年12月中旬の衆院選で圧勝し、暮れに安倍政権が誕生してからもアベノミクスの柱である大胆な金融政策を「無鉄砲だ」と異論をはさみ、対中政策を不安視した。

 安倍氏は国の経済政策の司令塔となる経済財政諮問会議や成長戦略を策定する産業競争力会議のメンバー選びで経団連を通さず、官邸の独自判断で1本釣りした。歴代内閣で経済政策を決める重要会議にはこれまで必ず経団連会長が名前を連ねていたが、安倍政権下で米倉氏は加わっていない。

 米倉氏はその後、会見などで安倍政権を持ち上げ、中近東やインドなど首相外遊にも同行して関係修復に躍起だが、安倍氏は今年初めの経済3団体主催の賀詞交換会での来賓スピーチで「無鉄砲と批判されたがアベノミクスはうまくいっている」と皮肉り、いまだにしこりが残っていることを浮き彫りにした。

 首相とのパイプの細さが経団連の発言力低下や会長の求心力減退につながるのではないかと懸念する経済人は少なくない。

 幸い、榊原氏は政権中枢と良好な関係を保っている。米倉氏は会見で榊原氏の次期会長内定を官邸に伝えることを「特に考えていない」としたが、榊原氏は自力で経済閣僚に電話で報告し、官邸にあいさつも済ませた。

 1月下旬には米倉氏が参加を見送ったスイスでの世界経済フォーラム(通称・ダボス会議)に出張して安倍首相をはじめとした国内外の政治家や経済人と親交を深めた。

 経済成長を実現するには、30%台と他国に比べて突出している法人実効税率をアジア諸国並の20%台に引き下げて国際競争条件を揃え、岩盤規制と言われる各省庁の縦割り意識や既存業界の既得権を打破していかねばならない。安価で安定したエネルギーを確保するための政策でも、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)など経済連携の推進でも、さらに中国・韓国との関係改善でも、政権と経済界の連携がこれまでにも増して重要になるだろう。

 

経団連による政治献金再開に含み

 

 究極の課題は「財界パワー」の復権だ。

 20年の東京五輪を前に各種施設や道路の補修などインフラ整備のために必要な資金は最低でも3千億円とも試算される。公的資金では足りず、いずれ財界に資金集めのお鉢が回ってくることは容易に想像がつく。五輪の組織委員会副会長に円安効果などで2兆円も利益を計上したトヨタ自動車の豊田章男社長が起用されたのも財界パワーへの期待があるからだ。大災害に対する義援金や有名寺社への寄進など、日本を代表する企業の集まりである経団連のカネがものを言う場面も少なくない。

 東レは素材産業のリーディングカンパニーとはいえ、かつての会長会社のように膨大な資金力を誇っているわけではない。経団連の資金集めでは会長会社に率先垂範が求められる中、榊原氏が会員企業にどのように旗を振っていくのか注目される。

 かつて経団連会長が財界総理ともてはやされ絶大な権力を誇った裏には政治献金という文字通りのカネの力があった。経団連は1993年に政治家への不透明な資金提供が社会問題になったのを機に、それまで会員企業に行っていた政治献金の斡旋を廃止した。

 その後、04年に当時の奥田碩会長が「カネも出すが口も出す」と会員企業が献金額の目安にできるよう政党に対する政策評価制度を始めたが、それも民主党政権下で中断。昨年末に政権与党に対する評価を再開したものの、政治献金への関与は奥田氏の後の御手洗冨士夫前会長も米倉現会長も行っていない。

 今後3年間は国政選挙がないので当面、政治献金の必要性は表面に出てこないだろうが、榊原氏は政治献金斡旋に対し「重要な問題なので、関係者からの話をよく聞いて判断したい」と再開に含みのある発言もしているのでこちらにも注目だ。

 就任前のハネムーンタイムの常として榊原氏の前評判は上々だ。経団連の副会長は口々に「素晴らしい方」「人格も見識も申し分ない」と持ち上げる。経済同友会の長谷川閑史代表幹事は「誠実な人柄で、経営者としても実績を残している」と歓迎し、日本商工会議所の三村明夫会頭も「最後に引き受けた人が本命だ」とエールを送る。

 好きな言葉は「勇猛果敢」という榊原会長の真価が発揮されるのは、6月3日の定時総会以降になる。

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