政治・経済

日本の空から日本エアシステムが消えて早10年、ついに東急とANAの提携カードが誕生した。さらに、かつて「箱根」で争った西武沿線の名所を車内でPRするなど、過去のしがらみを超えて協働する東急電鉄の姿勢から見えてきたのは「日本一住みたい沿線」というキーワードだ。 (本誌/古賀寛明)

東急電鉄、ANA、JALの関係と歴史

パスモ機能も付いたマルチなカード「TOKYU×ANAカード」

パスモ機能も付いたマルチなカード「TOKYU×ANAカード」

 「東急カードでANAのマイルが貯まる」このニュース、東急沿線のANAマイラーにとっては待ちに待ったニュースであったのだが、同時にちょっと感傷的な話でもあった。

 10年前まで、日本の航空業界にはANA、日本航空(JAL)と並んで、日本エアシステム(JAS)が大手3社として空を飛んでおり、今はなき日本エアシステムこそ、東急グループの一員だったことを思い出す。

 1971年に日本国内航空と東亜航空が合併した東亜国内航空として誕生し当初から東急グループが大株主として、JALとANAの狭間でローカル線を主場に戦い続けてきた。

 他の2社がボーイング機を使用するなか、欧州製のエアバス機A300や、マクダネル・ダグラス社製の航空機を使用した。機体ペインティングも凝ったデザインを採用する社の方針は独自色を出していた。88年には国際線にも就航し、中国路線をベースに拡大するかと思われたが、景気の落ち込みとともに経営が悪化、2002年にJALとの経営統合が決定、04年にはついに名称が消えた。

 顧客囲い込みの一環として日本の航空会社でマイレージサービスが生まれたのは97年で、東急カードは00年にJASのマイレージと、JALグループ入り後はJALカードと提携、現在の形となった。

 ところが、10年のJALの破綻で大株主であった東急電鉄との縁が切れた。しかし、株主関係はなくなったものの、JAL×東急カードでのつながりは残っており、今回のANAとの提携に関しては、当然驚きを持って受け入れられた。

 この件について、東急電鉄の生活サービス事業本部リテール事業推進部でカード企画を担当する小室正課長に話を聞くと、「以前よりお客さまから、ANAさんと提携しないのですか? という声が挙がっていたこともありますが、沿線で働き、住まわれているANAのカードをお持ちの方々にも、東急ポイントのメリットを享受していただきたいということから提携する流れになりました」とのこと。

 また、過去の歴史を踏まえながらもANAとの提携については、顧客サービスの観点から躊躇はなかったとするが、破綻から4年もたっての提携は、ある意味「決断」であったと思われる。ANAとしても「驚きはしたものの東急沿線の方々に対してアプローチできていなかった面もあることから、喜んで提携を結んだ」(ANA広報)とのこと。

 一方、圧倒的に有利であったJALの反応を聞いてみると「来るべき時が来た」(JAL広報)と、意外に冷静な対応。何かしらの抵抗があったのではないかと思っていただけに肩すかしの印象だ。

 ただ、JALカード側がうかうかしていられないのが、マイルの交換率で、14年1月現在、誕生するANA×東急カードが、1千東急ポイントで750マイルのところ、JALカードでは2千東急ポイントが1千マイルにしかならない。さらに新カードには、定期券機能も備えたPASMO(パスモ)やANAの国内線搭乗時にチェックイン不要な「SKiPサービス」も利用できるなど1枚で幾通りの使い道があるというのだ。ただ、ANA×東急カードもいまだマスターカードだけの発行となっており、VISAなどの発行予定がないことは顧客の獲得の面で影響があるのではないかと思われる。公共料金を含めて生活消費のほぼすべてが、ポイント特典に直結する昨今、貯めたポイントをすべてマイルに移行する人も多いそうだ。

 今後も、激しい顧客獲得の争いが続く限り、過去にとらわれてはいられない。日本エアシステムという名前がなくなって10年、幾ばくかの寂しさが募るが、まさしく「十年一昔」ということなのであろう。

ANAカード以外でもライバルと手を結ぶ東急電鉄

 恩讐を超えてとは大げさすぎるが、ANAカードとの提携以外にもかつてのライバルと手を結び集客につなげているプロジェクトがある。

 渋谷と横浜を結ぶ東急東横線が、東京メトロ副都心線を通じた相互直通運転によって関係を深めているのが、東武東上線と西武池袋線だ。

 特に西武鉄道とは、かつて箱根や伊豆で堤康次郎氏と五島慶太氏という両グループの総帥がそれぞれ「ピストル堤」、「強盗慶太」という異名をとって覇を競った過去がある。

 時は流れ、今では東急電鉄の車内ビジョンで、「東横線で行く日本百選の旅」と題して、西武鉄道沿線の主要な観光地である秩父、長瀞や東武、西武ともに乗り入れ、城下町の風情が残る川越の街の見どころが流れる。

 もちろん、埼玉方面の集客も渋谷、横浜に出掛けることが容易になったため、相互に誘客し、横浜の中華街などは人があふれかえるようになった。会社の垣根を越えた顧客の創造は競争よりも共生で成功しているようだ。

 沿線内でも、電車を利用すると東急の商業施設を訪れるだけでポイントがもらえる「乗ってタッチ」など新たな施策で顧客の満足度を上げる。東急電鉄生活サービス事業本部リテール事業推進部カード企画担当の牧野彩氏は「沿線の方々には東急トップ&クラブQカードを持つことが一番お得だと思っております」と自信を示す。

 「日本一住みたい沿線」を目指す東急グループにとって、沿線顧客により深く関係することが経営の安定化につながる。そう考えれば、過去のしがらみなどにこだわっていられないのかもしれない。

 

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