政治・経済

ルネサス エレクトロニクスがここに来て、経営再建に向けた動きを加速している。収益改善のための製品プログラムを実施する一方で、さらなる人員削減をはじめとする構造改革を進めるが、その中には国営企業としては疑問が残る施策もある。 (本誌/村田晋一郎)

EoLプログラムで過度な要求に歯止め

作田久男・ルネサス エレクトロニクス会長兼CEO

作田久男・ルネサス エレクトロニクス会長兼CEO

 ルネサス エレクトロニクスは1月から、半導体の供給期間を定めるサービスを開始した。自動車や産業機器向けに長期間の安定供給が求められるマイコン、ミックスドシグナル半導体およびパワー半導体などで、汎用製品の半分の約5千品目が対象。プログラム登録日を起点に10年以上、15年以上、20年以上の3パターンの供給期間を設定し、製品ごとの製品ステータスと供給予定期間の情報をルネサスのウェブサイトに掲載する。

 ルネサスの収益悪化の要因のひとつは、ユーザーの求めるままに製品の供給を続けたことにある。ルネサスの主要製品である自動車用半導体は、劣悪な環境でも正常に稼働できるように要求仕様が高い。

 民生機器用半導体と自動車用半導体の要求仕様を比較すると、温度条件は民生機器用が0〜125℃であるのに対し自動車用はマイナス40〜175℃、振動は民生機器用の5Gに対し自動車用は50Gが求められる。また、不良率は民生機器用の5千分の1に対して自動車用は百万分の1で、製品寿命は民生機器用の10年に対し自動車用は20年。さらに製品供給は民生機器用の1・5〜2年に対し自動車用は10年以上が要求されている。今回の情報提供サービスは、製品寿命や供給期間に対して制限を加えるサポート終了(EoL)プログラムであり、こうしたユーザーからの高度な要求の歯止めになると見られる。

 自動車用半導体で高い品質が要求される理由は、まず自動車が人命に大きくかかわるシステムであるということだ。半導体の故障で自動車が制御不能に陥ると、簡単に事故を引き起こし、人命を失わせる可能性がある。

 また、自動車は生産数量が極めて多い。トヨタ自動車だけでも年間900万台以上の自動車を生産する。1台の自動車で仮に10個の半導体を搭載すると、9千個以上の半導体がトヨタ向けに必要となり、不良率が百万分の1だとしても、90個の半導体が不良品になる計算だ。百万分の1という不良率の要求は建前で、自動車メーカーや自動車部品メーカーの本音は欠陥ゼロを求めてくる。

 このため、自動車用半導体は、民生機器用半導体とは比べ物にならないほど高度な製造プロセスを整えることが必要になる。本来ならこうした工程が価格に反映され、自動車用半導体は高収益のデバイスとなるはずだ。実際に自動車用半導体を手掛ける外国の競合メーカーの営業利益率は10%以上となっている。それがルネサスの場合は、ユーザーである日本の自動車メーカーの厳しい要求に応える形で、過剰品質の製品を過剰に高価な技術で作る結果となり、結果的に利益が上がらない結果となっている。マイコンのシェアが世界1位にもかかわらず、営業利益率は数%にとどまっている。

 ルネサスの出資者となった自動車メーカーがすんなり受け入れるかという問題は残るが、今回のEoLプログラムは、現状を是正し、ルネサス本来の価値を取り戻すためには適切な施策だと評価する向きも多い。

組織再編が進むが、その施策には疑問も

 EoLプログラム開始の一方で、組織再編の動きも進んでいる。まず人員削減については、15年度末までに国内の従業員5400人を追加削減するという。ルネサスは過去3回にわたる早期退職優遇制度で約1万1200人を削減。今回は現在の従業員2万8500人のうち2割をさらに削減することになる。

 今回の5400人の追加削減は、昨年9月末に締め切った3回目の早期退職優遇制度が目標に達しなかったためとみられる。しかし過去3回の早期退職優遇制度でルネサスを離れる意思のある層はすべて会社を去ったとみられる。3回目の目標未達は、産業革新機構などの出資が決まったことから、ルネサスの将来に希望を抱き退職を踏みとどまった層がいた結果でもある。それだけに、追加で早期退職優遇制度を実施しても経営陣が意図したとおりに募集が集まる見通しは薄い。今回も目標未達の場合は、整理解雇に至る可能性もあり得るという。

 もともと作田久男会長自身は就任以来、ルネサスの問題点として膨大な固定費を指摘。さらなる人員削減を匂わせる発言を行ってきた。それだけに追加の人員削減自体は驚くことではない。しかしルネサスは今や産業革新機構などから1500億円の出資を受けており、税金が投入された国営企業である。税金で救済した企業で社員のクビ切りが行われるとなると、産業政策の在り方そのものが問われるだろう。

 また、人員削減と並行して、15年9月までに国内拠点の大規模な再編を実施するという。対象拠点の人員の半数を超える約6千人の配置転換を行い、設計開発拠点は那珂や高崎、武蔵などに集約。玉川、相模原の2つの設計拠点を閉鎖する。旧NECエレクトロニクスの切り離しの傾向が強いルネサスの再編において、玉川、相模原とまたしても、旧NECの拠点が切り離される。かつて隆盛を誇った日本の半導体メーカーの中でも売上高で世界1位になったのは、1986年〜91年のNECだけだ。旧NECの拠点がまた1つ葬り去られることになる。

 その一方で、生産新会社設立の動きもある。那珂や西条などの製造工場を分社化し、前工程の専業会社と、後工程の専業会社に再編成し、前工程専業会社は那珂に、後工程専業会社は高崎にそれぞれ本社機能を置くというもの。しかし、これまでルネサスは設立後の4年間で、村田製作所にパワーアンプIC事業を譲渡したように、さまざまな事業を売却してきた。そしてその多くが本体の事業ではなく関連会社だった。このため、生産部門の分社化は売却の前段階であるとの見方も少なくない。

 さらなる人員削減、設計拠点の閉鎖・縮小、製造部門の切り離しが立て続けに進むと、果たしてルネサスに何が残るのか。これで再生に進むのか、その道筋はまだ見えてこない。

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