国際

20年ぶりにニューヨーク市政を奪還した民主党の意気込み

ニューヨーク市長のビル・デ・ブラジオ氏(写真:EPA=時事)

ニューヨーク市長のビル・デ・ブラジオ氏(写真:EPA=時事)

 ニューヨーク市は気温が零度ちかい元旦、民主党出身の新市長、ビル・デ・ブラジオ氏の宣誓就任式を行った。ジュリアーニ氏(共和党)2期、ブルームバーグ氏(共和党から無所属)3期と続いた保守政権から、民主党は実に20年ぶりにニューヨーク市政を掌握した。

 保守政権からリベラル政権への交替は、ダイナミックだ。日本のように市長が就任しても市役所の組織はそのままというのではなく、ニューヨーク市警本部長などの主要ポストや幹部など数百人が入れ替わる。その人事は、デ・ブラジオ市長就任前の年末から発表され、注目を集めた。

 地元メディアは年末にかけて、市警本部長、教育委員長など主要ポストに誰が就くのか、候補者の予測記事さえ流す。まるで、ホワイトハウス人事のニューヨーク版だ。デ・ブラジオ氏は、記者会見を開いて主要ポストを指名。同氏と指名された本人が、政策の抱負を語り、記者の質問に長時間にわたり、答えていた。

 まず、最大の注目は、市長の次にテレビへの登場が多い市警本部長で、ビル・ブラットン氏が就任した。ジュリアーニ元市長時代の市警本部長で、ロサンゼルス市警本部長も7年務めた「大ベテラン」だ。

 有名人だけあって、チーフ・スポークスマン役に誰がなるかまで取沙汰された。これには、ジョン・ミラー氏が、情報活動担当市警副本部長として抜擢された。ミラー氏は、ニューヨークの地元メディア記者だったが、ブラットン氏がジュリアーニ政権の市警本部長時代、チーフ・スポークスマンに転職。その後、テレビ局ABCの司法担当記者兼アンカーとなったが、このほどABCを退職し、再度ブラットン氏と組むことになった。

 市警本部を監視するべきジャーナリスト稼業と市警本部の主要ポストを渡り歩いている同氏には、賛否両論が寄せられた。が、全米で最大の市警本部のナンバーワン、ナンバー2が入れ替わることは、20年ぶりの政権交代によって可能になったことだと考えると、辞退できる話ではない。

 同時に、注目の教育委員長には、教師、校長、同市教育副委員長の経験があるベテランのカルメン・ファリーニャ氏が就いた。米紙ニューヨーク・タイムズには、校長時代、教員の8割を入れ替えた辣腕ぶりを紹介する記事が載り、高い評価を受けている。

 こうした主要ポストが発表され、元旦に開かれた就任式は、20年ぶりの政権奪還を象徴し、ビル・クリントン元大統領が、宣誓のリードを取った。元国務長官ヒラリー夫人も同席し、民主党の意気込みが感じられる。

 就任スピーチで、デ・ブラジオ市長はこう宣言した。

「選挙公約の富裕層に対する増税は1日約3㌦。スターバックスのソイミルク(豆乳)・ラテより安い。増税分を幼児教育やミドルスクールの放課後のプログラム拡充に当てる」

 富裕層優先と批判された保守政権から、リベラル政権に移ったことを象徴するような公約だ。

有権者とのコミュニケーションを欠かせない米国の政治家

 しかし、その翌日から、デ・ブラジオ政権は試練にさらされた。翌2日、米東部は吹雪と寒波に襲われ、ニューヨークで10数㌢の積雪となった。

 デ・ブラジオ市長は、雪がちらつく前の午前中から記者会見を開き、外出したり運転したりしないように訴えた。また、市役所の除雪の体制を説明。吹雪が去った3日も立て続けに会見を開き、除雪作業が着実に進んでいることや、凍死者が出ないように隣人と連絡を取り合うことなどを訴えた。

 日本人からみると、悪天候中、市長自らがこれだけ頻繁に会見を開くことは異例だ。災害や事故、凍死の防止に備え、細かく指示を出し、至れり尽くせりとも思える。

 しかし、記者の質問や市民の苦情電話の内容は容赦のないものだった。「うちの近所は除雪車が来ない」「休んでいる市職員を見た」といったものだ。

 年末から続いたデ・ブラジオ政権発足と吹雪対策を振り返ると、有権者やメディアが政治家や自治体幹部を常に監視し、鍛え、育てていくのを目の当たりにした。日本のように、選挙が終わり選出してからは何の監視もないのではない。従って、政治家自身も日々、銃規制など国政レベルの話題や、国内で起きた事件事故についてさえ、記者会見で自分の立場を明確に示していく。

 こうした状況から、日本の国会議員にあたる連邦議員も、決して地元軽視はできない。必ず週末に地元に戻り、毎週記者会見を開く議員さえいる。

 米国では、政治家は、有権者とのコミュニケーションを欠かせない仕組みになっている。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る