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経団連次期会長をめぐるサプライズ人事の舞台裏

ニュースレポート

混迷が続いていた経団連の次期会長人事は、東レの榊原定征会長に決まった。6月に開く定時総会で正式就任する。経団連にとっては副会長OBを起用するという過去に例のない人事。決定までの経緯をレポートする。 (ジャーナリスト/根島隆明)

背景に米倉会長と財界人の亀裂

経団連次期会長に内定した榊原定征・東レ会長

経団連次期会長に内定した榊原定征・東レ会長

 企業規模で見ると、財界総理を出すには東レでは、いささか荷が重いようにも見える。財界内で孤立した米倉弘昌会長(住友化学会長)はなぜ、後継者に榊原氏を指名したのか。経団連には副会長が18人おり、そのほかに会長の諮問機関である審議員会には、議長のほかに17人の副議長がいる。いずれも大企業のトップばかりで、本来ならこの中から後継会長を選ぶはずだ。

 米倉会長の意中の後継候補は、筆頭副会長で日立製作所会長の川村隆氏だった。米倉会長は昨年秋から複数回、禅譲を川村氏サイドに打診している。しかし川村氏はこれを固辞。その代替策として選んだのが副会長OBの榊原氏である。

 榊原氏は、日立の社外取締役を務めていて、川村氏とは親しい。その関係で川村氏が自分の代わりとして榊原氏を推したかどうかは分からないが、榊原氏が経団連会長を受ければ、日立が支援すると約束することはできたろう。

 日立は1月8日に社長交代を発表した。川村氏は会長ポストを中西宏明社長に譲り、自らは相談役に退くとともに財界活動を引退すると明言した。その直後に榊原氏の経団連会長内定が発表されたことは、2つの人事が密接な関係で動いていたことを暗示するものだ。しかし、経団連会長の座は財界人なら誰もが憧れるはず。川村氏が固辞したにせよ、他の副会長には候補はいなかったのか。なぜOBまで候補を広げる必要があったのか。その背景には、米倉会長と財界の長老らとの確執がある。

 話は一昨年の民主党政権時代にさかのぼる。12月の総選挙が決まり、野党第一党の自民党は政権奪還が確実視されていた。当時の安倍晋三総裁は、大胆な金融緩和を軸とした経済政策を公約に掲げた。それを米倉会長は「財政規律を損ない、国債の信用も損なわれる懸念が非常に大きい。無鉄砲だ」と痛烈に批判してしまったのだ。

 怒った安倍氏は、政権の座に就いてからも米倉会長を許さなかった。経団連の公式行事には出席しても、米倉会長と個別に会おうとは決してしない。そんな関係が今も続いている。

 財界にとって、政界とのトップ同士のパイプが詰まってしまったことは衝撃だった。見かねた財界の長老たちが和解を働き掛けたが、安倍首相の米倉会長に対する不信は収まらない。そうなると財界の中には「健康問題を理由に米倉会長に退陣してもらうしかない」という意見が台頭した。実際に、少なからぬ財界人が「米倉おろし」に賛同したといわれる。

 しかし今度は、これを知った米倉会長が激怒した。長老らとの関係を絶ったばかりではない。現役の経団連副会長をはじめ「ポスト米倉」と目される一部の有力財界人まで敵視するようになったのだ。

 財界の有力企業の多くを敵に回した米倉会長は孤立したが、意気軒昂だった。後継者の指名権は現職会長にある。経団連の名誉会長ら財界の長老にはなんら相談せず、自分の意思だけで後継を選ぶと周囲に宣言。こうして、財界の歴史にはない異例の後任選びがスタートした。

就任を固辞した日立・川村会長の事情

東原敏昭専務(中央)の社長昇格と同時に自らは会長を退くことを発表した川村隆会長(左)。右端は中西宏明社長

東原敏昭専務(中央)の社長昇格と同時に自らは会長を退くことを発表した川村隆会長(左)。右端は中西宏明社長

 川村氏は、米倉会長に敵視されなかった数少ない現役副会長だった。また出身母体の日立の企業規模は申し分なく、業績も順調だ。米倉会長が有力な財界人を無視する強気な姿勢でいられたのも、「後継トップは製造業から選ぶ」と何度も発言していたのも、川村氏という候補がいたからである。

 一方、川村氏の側に立てばどうだろう。確かに経団連会長の座は魅力だ。川村氏も一時は受諾に傾いた節がある。しかし米倉会長と有力財界人の深刻な亀裂を埋めるのは、後継会長の仕事だ。それを負担に感じても不思議はない。

 また経団連の会長会社となれば、世間の注目度は飛躍的に高まる。出身企業のわずかな不祥事も大々的に報じられ、批判の矢面に立たねばならない。日立の業績は急回復しているが、万全とはとても言えないというのが川村氏の認識。経団連会長の任期は通常なら4年間。その間に日立の業績が急降下することも考えないわけにはいかなかったろう。川村氏が会長の就任要請を固辞した理由は高齢だといわれる。それも事実だろう。しかし、それ意外にも理由があったからこそ後継選びは難航したのだ。川村氏を断念した米倉会長には、後継候補がいなくなった。そこで副会長OBに対象を広げ、ようやく東レの榊原氏を見つけたというのが真相だ。

 では、なぜ榊原氏なのか。出身企業のトップとしての経営実績とか、人物・識見に優れるとかいう理由なら、他にも候補者はいる。最大の理由は、榊原氏が政府の産業競争力会議の民間議員であることだろう。安倍首相との関係は良好で、政権との太いパイプが期待できる。

 米倉会長は、自分に対する財界の長老の批判をしっかりと理解していた。自分1人で決めると宣言した後継会長についても、どういう人選が望ましいかを十分に分かっていた。東レは経団連会長を出す会社としては規模が小さいが、榊原氏であれば財界の長老の納得が得られる。発表の前日、榊原氏を選んだと米倉会長から告げられた長老たちは、反対しなかったということである。

 米倉会長が、もっとわがままに後継会長を選んでいれば、財界の亀裂は修復不能になったかもしれない。榊原氏起用という異例の人事によって、ギリギリのところで財界の結束を守ったというわけだ。

 
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