政治・経済

マルハニチロホールディングスの連結小会社アクリフーズで勃発した農薬混入事件。事件の真相究明が急がれるのは当然のことだが、一方で明らかになったのは、同社の驚くべきコンプライアンス意識の欠落だった。 (本誌/大和賢治)

甘かった状況判断

お詫び会見で頭を下げる久代敏男・マルハニチロHD社長(左)と田辺裕・アクリルフーズ社長(右)

お詫び会見で頭を下げる久代敏男・マルハニチロHD社長(左)と田辺裕・アクリルフーズ社長(右)/写真:時事

 世間が正月準備に追われていた昨年12月29日、突如としてショッキングなニュースが飛び込んできた。水産最大手マルハニチロホールディングスの連結子会社アクリフーズの群馬工場で生産された4品目の冷凍食品から、含まれるはずのない農薬「マラチオン」が検出されたというのだ。今や冷凍食品は家庭内食では必須カテゴリーとも言えるだけに業界内外は言うにおよばず、一般にも大きな衝撃を与えることとなった。

 本来、含まれるはずのない農薬が検出されたことは事故ではなく事件。誰かが意図をもって農薬を混入させたことは明白であり、真相究明が待たれるところだ。

 問題視されるのは、アクリフーズおよび親会社のマルハニチロHDの一連の対応。後手に回った対応が被害を拡大させたと言っても過言ではない。本誌ではマルハニチロHDの3つの過失を検証する。

 まず1つ目は、事態発覚から自主回収を発表するまでに要した時間。11月13日以降に消費者から「異臭がする」という通報が複数件アクリフーズにあったにもかかわらず発表までの約1カ月半、結果的には状況を放置していたことである。

 ここ数年間を見ても食品分野では産地・表示偽装等の不祥事が頻繁に顕在化、その度、食品関連の業種・業界では食の安心・安全性の担保という観点から再発防止策が打ち出されてきたのは周知のとおりだ。そんな環境下にありながら、今回のアクリフーズおよびマルハニチロHDの対応の甘さは際立っている。

 繰り返しになるが、消費者から最初に異臭通報があったのは11月13日。アクリフーズは、この時点では単なる品質苦情という認識で、親会社であるマルハニチロHDへの報告はしていない。マルハニチロHDが情報を把握したのは12月10日。主要関連会社の品質保証担当者が定期的に集まる会合の中でのことだという。しかし、この席上アクリフーズの責任者が「12月4日に外部に調査を依頼している」と述べたことで、マルハニチロHDは、当該工場だけの個別案件ととらえ、具体的な指示は何も出していない。

 本来であれば、少なくとも情報を共有したこの会合時点で、製造ラインを止めるべきではなかったのか。品質保証のプロが多く集まりながら、誰一人として製造ラインの停止を進言しなかったというのには違和感を覚える。今回の対応は適切であったと考えているかという問いに対しマルハニチロHD広報は、「異臭の通報があった11月13日にさかのぼって、あらゆる危険性を疑うべきだったと指摘されれば、まさにそのとおりです。以前から異臭に対する通報はまれにありましたが、それらは危険性の低いものでした。今回の事案をそれと同様のものとして処理してしまったことがすべての間違いでした」と述べ、すべての目が〝真相究明〟に偏ったことで製造ラインの停止に踏み切れなかったことを反省する。

 仮にラインを止めれば、風評被害により他工場で生産された商品にも影響が出る懸念もある。〝見たくないものは見ない〟、〝臭いモノには蓋〟という思惑が働いたと言われても仕方あるまい。話は多少それるが、今回、事件の渦中にあるアクリフーズの前身は雪印冷凍食品。2000年、集団食中毒事件を起こした雪印の子会社である。当時の雪印社長の石川哲郎氏が混乱のさなか、追及する報道陣に対し「私は寝ていないんだ」と逆切れし、多くの国民を唖然とさせた子会社が何を隠そうアクリフーズ。まさかと思うが、そうした負のDNAが引き継がれているのではと邪推もしたくもなる。

 2つ目は毒性の過小評価である。当初、アクリフーズ側では農薬濃度が最も高かった商品でも「体重20㌔㌘の子どもが60個食べないと中毒症状を発しない」と発表したが、厚労省から不適切という指導を受け、新たに体重60㌔㌘の大人がコロッケ3分の1を食べることで発症すると訂正する大失態を演じた。

「恥ずかしい話ですが、農薬に関して新しい評価方法が導入されていたことを知見として持っていませんでした。会見時に健康被害が報告されていなかったこともあり、厚労省への相談を怠ってしまったことが原因です」(マルハニチロ広報)

 マルハニチロと言えば老舗の一流企業、よもやこんな根本的なことすら認識していなかったとは、にわかには信じがたい。コンプライアンスの欠落を指摘されても逃れられない。一連の迷走に業を煮やした森消費者担当相は、1月8日、アクリフーズの田辺裕社長を呼び出し、「消費者に正確に伝わるよう情報提供の方法を検討してほしい」と要請した。特定秘密保護法に関して、国民への正確な情報提供を怠たり、強行採決した当事者の森消費者相に「あなただけには言われたくない」と感じたかどうかは知らないが、田辺社長は、つながりにくくなった相談窓口の電話回線の増設を約束した。

躍進するPBにも打撃

 さらに3つ目は、プライベートブランド(PB)の信用失墜を招く危険性をもたらした点。近年、大手流通が仕掛けるPBが消費者から高い支持を受けている。拡大の背景にあるのは、製造から販売まで大手流通が商品に対し責任を持つという姿勢、いうなれば消費者との信頼が根底にある。

 しかし、今回のような対応では、この信頼関係をも揺るがしかねない。PBには、「セブンプレミアム」のように消費者が商品の製造者と販売者が認識できるものと、「トップバリュ」のように製造者が固有記号で表示され、一見して製造者を特定できないもののおおむね2種類がある。

 製造から販売まで責任を持つはずの大手小売りのPBも、信頼をもって委託した企業のずさんな管理体制によって、安全性を担保できないことにもつながる。まさにPBブームに冷や水を浴びせる事態ともなっている。

 真相究明も重要だが、マルハニチロHDには、消費者第一という原点回帰を期待したい。

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