政治・経済

日本再生に向けた安倍政権の目玉政策の1つ「教育再生」。英語、理数に並ぶ柱の1つが教育のICT(情報通信技術)化だ。小中高生1人ずつにタブレット端末が配られる予定があるなど、見逃せない市場になりそうだ。 (本誌/古賀寛明)

市場規模は1千億円

「小学生の65%は、今は存在しない職業に就くかもしれない」

 このような研究結果が米国で発表されている。確かに、20年前にグーグル、フェイスブックなどのIT企業の隆盛を予見できた者などほとんどいなかっただろう。様変わりする時代の中で、今後ますます増えるのが、ITに関連する仕事であるのは間違いないはずだ。

 一方で、黒板にチョークと以前より変化が少ないのが教育業界であったが、その教育の現場にも今、ICT(情報通信技術、ITとほぼ同じ意味)化という大きな変化が本格的に訪れている。ある試算では市場規模は1千億円ほどになるという。

 政府も「世界最先端IT国家創造宣言」や「教育再生の柱」などと掲げて積極的に推進する意思があり、教育分野への投資は、現実世界を考えれば自然の流れだといえる。同時に、教育は投資効果が高いといわれており、その面からも拡大に拍車が掛かりそうだ。

 現場はどのような変化が起きているのかを探ろうと、教育のICT化を推進する主要企業のひとつ日本マイクロソフトに尋ねてみると、意外にも「一部の地方や私立の学校が率先して進めているというのが実情」(広報部)で、国の主導で大規模な投資というのはまだまだのようだ。

 しかし、既に総務省を中心にした「フューチャースクール推進事業」や、文科省を中心の「学びのイノベーション事業」など、実証実験を積み重ねており一気に普及する可能性は高い。

 日本マイクロソフトが後押しする佐賀県では、今春から県立高校に入学する新入生にタブレット端末が1人1台導入される。

 具体的には、英語の授業ではリスニングを、数学の授業ではグラフ化や空間図形などの視覚認識に利用する。面白いのが体育にも活用する予定があることだ。例えば、ハードルを飛ぶ際のフォームを撮影し、自分のフォームを客観的に観ることができるなどその用途は幅広い。学習用のタブレット端末には、「ウィンドウズ8プロ」が搭載されたものを使用し、そこに「ワード」や「エクセル」といったソフトやデジタル教材、電子辞書なども含まれる。保護者として気になるのは費用だが、上限を5万円とし、超える場合には県が負担する予定だという。

 もう1つ、先進して取り組んでいるのが、京都市にある私立の立命館小学校。「将来、世界の舞台で活躍し、これから先の世界をその手で創る」という高い理想を掲げ、その実践として、既に一部でタブレット端末を導入し授業に役立てている。

 注目すべきは、ICT機器を利用した教育では、情報を閲覧するだけでなく、価値ある情報を自ら生産できるようになることを目指しているところだ。

 現在の子どもたちは、携帯端末やパソコンのソフトなど出来上がったものを使いこなすことはできるが、新たなものを生み出すことは、いまだ専門家とよばれる人たちに頼っている。それでは真に使いこなしているとは言えないということだ。

 現状、ビジネスの世界では、ソフトをつくる人材が圧倒的に不足している。そういう意味でも、この立命館小学校の取り組みは新たなビジネスの創出のためになるはずだ。具体的には、プログラミングができる人材を生み出すことになる。これもひとつのグローバル人材育成に直結するといえるだろう。

 政府は2020年までに小中高生に対し、1人1台タブレット端末を持たせるとしている。

 米国では既に企業やNPOが積極的に協力し、プログラムを書く授業を進める。北欧の小国エストニアに至っては、小学1年生から必修でプログラムを書き始めるというから驚きだ。実はエストニアはインターネットを利用した電話サービス「スカイプ」を生んだ国であり、科学技術立国として知られる。ICT化は国家戦略なのである。

変化は現場外から!?

「アプリゼミ」を発表する守安功/ディー・エヌ・エー社長

「アプリゼミ」を発表する守安功/ディー・エヌ・エー社長

 日本の変化も一層加速することが望まれるが、当然ながら問題もある。

 関係者によれば「職員室のICT化が遅れている」ことが挙げられる。先にも述べたが、黒板とチョークでの授業が長年続き、デジタルな授業など縁遠いのが実情だ。もちろん教師によっては、データや映像を駆使し、興味深い授業を行っている場合もあるが、バラツキがあるのが現状で、ICTリテラシーが高いイコール優秀というわけではないことが問題を複雑にする。当然ながら、実証実験を行った学校でも一部には上手くいっていないという話も多い。

 ただ、あえて無理やり導入するのではなく、副次的に利用し、プログラミングなど新たな教育の授業での使用を検討することが、将来的な人材育成に効果があるのではないだろうか。

 新たな教育は、学校教育以外から生まれるのかもしれない。例えばモバゲーで知られるディー・エヌ・エー(DeNA)も先日、スマートフォンやタブレット端末に教育ソフトを配信するサービスを始めた。

 会見で守安功社長も「ゲームのように爆発力はないが、将来は楽しみ」と将来性に期待を寄せる。

 教育ソフトの「アプリゼミ」は、教育分野でのノウハウが豊富にあるNHKエデュケーショナルが企画・監修したもので、小学校に入学予定の子どもを対象に、国語や算数の簡単な内容を提供している。ひらがなの書き順を、画面をなぞって覚えるなど、ICTの特長を生かすことで学びの楽しさを伝えている。

 今春には小学1年生用の国語、算数、英語のソフトを導入し、今後、小中高と順次拡大していく予定。配信することで印刷や郵送費のコストも抑える。

 ゲームを扱う会社だけに、学習を子どもが楽しみながら行うこと、自主的に学ぶことなどをがうまく表現できれば、いずれ学校教育にまで拡大されることがあるかもしれない。教育をめぐるICT化はまだ始まったばかりだ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年8月号
[特集]
パナソニック新世紀

  • ・総論 家電事業でもB2Bでも根底に流れる「お役立ち」
  • ・樋口泰行(コネクティッドソリューションズ社社長)
  • ・B2Bに舵を切るパナソニック
  • ・パナソニックのDNA 家電事業の次の100年
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・パナソニックの家電を支えた“街の電気屋”の昨日・今日・明日
  • ・テスラ向け電池は量産へ 成長のカギ握る自動車事業
  • ・パナソニックとオリンピック・パラリンピック

[Special Interview]

 津賀一宏(パナソニック社長)

 変化し進化し続けることでパナソニックの未来を創る

[NEWS REPORT]

◆商品開発に続き環境対策で競い合うコンビニチェーン

◆サムスンを追撃できるか? ようやく船出する東芝メモリの前途

◆スバル・吉永泰之社長はなぜ「裸の王様」になったのか

◆「ニーハオトイレ」は遠い昔 中国を席巻するトイレ革命

[政知巡礼]

 木原誠二(衆議院議員)

 「政治が気合を持って、今のやり方を変えていく覚悟を」

ページ上部へ戻る