政治・経済

地方議員の政策を考える会では、各地域の問題や課題をテーマにした勉強会を開催している。その勉強会には、日本を変えるべく立ち上がる地方議員が多数集まっている。本特集では、地方議員から見た各地域の問題や課題の本質、それらを解決するための政策、成功事例と失敗事例、各地域の現状など、さまざまな事例とそこに挑んでいく地方議員のドラマを追っていく。(聞き手=吉田浩)

 

樋内優子氏プロフィール

ひうち優子1

(ひうち・ゆうこ)東京都世田谷区出身。東京学芸大学教育学部数学選修卒業。慶応義塾大学法学部卒業。2007年世田谷区議会議員初当選、現在4期目。自転車政策や教育政策、公園の有効活用などの政策に力を入れる。司書教諭、行政書士資格を保有。

バラエティに富む世田谷区のカラー

 

―― 世田谷区はファミリー層が多いイメージですが、目下の課題は何でしょうか。

樋内 ピンポイントで問題になっているのは、保育園の待機児童問題や特別養護老人ホーム(特養)の待機者の問題ですね。世田谷区の人口は東京23区で一番多い91万人で、そのぶん他の区と比べるとケアが行き届かない部分があるのも事実です。それでも、以前は1千人超えていた待機児童数が今は500人弱に減るなど、努力の成果は出ています。

世田谷区には支所が複数あって5つの区域に分割できるんですが、支所によって地域のカラーが違ってきます。たとえば、都市農業などが盛んな烏山地域と街づくりが盛んな二子玉川地域では雰囲気が全然違いますし、保育園が足りている地域もあれば、そうでない地域もあります。烏山地域では人口急増のため学校のクラスが不足している一方で、環状七号線より内側の北沢地域や三軒茶屋周辺の地域では学校の統廃合が進んでいるといった現状があります。

―― 区内におけるそうした格差は、他の区と比べても顕著なのですか。

樋内 面積が広く人口も多いので、確かにそれはあります。世田谷区は以前、畑だったところを開拓して発展した地域もあれば、そのまま農地が残っているところもあるなど特徴が分かれています。ただ、そういう部分が好きで、住み続けている方もいるのです。

―― それだけバラエティ豊かだと、区議としてはどんな政策を優先して行うか悩ましいところでしょうね。

樋内 そうですね。確かにそれは思います。

 

樋内議員が取り組むまちづくりとは

 

―― そうした中で、樋内さんが特に問題意識を持っていることは何ですか。

樋内 もともと区議になったのは、教育の世界をもっと市場開放したいという気持ちがあったからです。私自身、行政書士の資格を持っているので、他に法律や経済の専門家などを、学校教育の現場に呼びたいと思っていました。今もそれは継続して取り組んでいます。

もうひとつ、関心が強いのはまちづくりです。学生の時に欧州に1年ほど住んでいたのですが、まちづくりの姿が日本と全然違うところに驚きました。

―― 具体的にどんな部分が違ったのでしょうか。

樋内 まず、環境に対する意識が違いますね。欧州では自転車と公共交通機関の連携がすごく取れていて、かたや日本は自転車に関する政策が凄く遅れていました。日本は自動車産業が経済を発展させてきた経緯があるので、なかなか自転車に舵を切ることができなかったんじゃないかと思います。でも、自転車と車が何とか共存できる方法を考えて、自転車の専用レーンを作ったり、それが難しい場所ではナビマークやナビラインを引いたりといったことに力を入れてきました。あとはシェアサイクルの拡充や学校での自転車教育にも注力しています。自転車政策はかなり進みました。

―― 世田谷はマイカー族が多いイメージです。

樋内 車も多いですが自転車も多いです。世田谷区内には、京王線、小田急線、田園都市線が横方向に走っていますが、路線の間に住んでいる人たちは縦方向に自転車で移動することが多くなっています。

街づくりに関しては、公園を有効活用して敷地内にカフェやレストランを誘致したり、保育園や福祉施設、スポーツ施設など、不足している公共施設をつくっていったりということを仕掛けています。人が集まるところで収益を生みだして、できるだけ区の持ち出しなしでもできるようにしていきたいです。

―― インフラや環境整備に重点を置いている感じでしょうか。

樋内 そうですね。ただ、環境整備と福祉はセットだと考えていて、もちろん環境も整備するのですが、病院や高齢者用のマンションを建てるだけでなく、高齢者が徒歩で行動しやすい街づくりであるとか、環境と福祉が一体化している状況が理想的だと考えています。

「環境と福祉が一体化したまちづくりが理想的」と語る樋内氏

欧州のまちづくりをモデルに

 

―― 欧州のまちづくりに影響を受けたとのことですが、世田谷のモデルになるような場所はありますか。

樋内 私が住んでいたのはベルギーですが、たとえばデンマークのコペンハーゲンが良いなと思いました。そこでは国を挙げて自転車政策を推し進めているのですが、トラムと自転車とバスがしっかり連動している感じを世田谷区でもできればとイメージしています。

―― さしずめ、トラムにあたるのが世田谷線ですかね。

樋内 そうですね。

―― 産業振興の部分で、特に力を入れたいのはどの分野ですか。

樋内 最近では、観光部門が元気ですね。世田谷区の馬事公苑が東京オリンピックの馬術の会場になるので、その周辺は電線を地中に埋めたり、民間と提携してシェアサイクルも増やしています。

あと、三軒茶屋にベンチャー企業が増えてきているのですが、ここも区としてもきちんと補助していくことが必要だと考えています。今は補助金は出していないのですが、世田谷区が音頭を取って、日本政策金融公庫、行政書士会、商工会議所などと、ベンチャー企業を繋ぐネットワークを作っています。そこで、コワーキングスペースを作るとか、登記に関して行政が支援するといったことなどいろいろと提案しています。

 

世田谷ブランドを守っていく必要性

 

―― 世田谷区の人口は年々増えているんですよね。

樋内 議員になった13年前は84万人でしたが、今はそこから7万人増えています。二子玉川の再開発や、あとはマンションが環状八号線の外側などに増えた影響もありますね。保育園はまだ不足していますが、先ほど述べたように以前より増えたので、それを聞いて移住してくる人も増えています。

―― さらに人口が増えると、サービスが行き届かなくなる懸念はないですか。

樋内 人口が増えると税収源も増えるという良い面もあるので、高額納税者にずっと住み続けていただくための施策を打つことも大事だと思います。それだけ魅力ある区にするためのケアも必要です。

―― 地域によってカラーが違うと、区としての特徴を出しにくい部分はないですか。

樋内 世田谷のブランドをしっかり保つとことが必要でしょうね。住みやすさや緑の多さなどが、子育て世代には好評だったりするので、そうした部分をしっかり強調していきたいです。ただ、いろんなカラーがあるという部分では、ミニ国家としてのモデルケースにはしやすいかも知れません。

世田谷ブランドをしっかり維持していくことが地域の発展につながる

文化力の高い地域づくりを目指す

 

―― 今後の政治家としての目標は。

樋内 自転車政策では今後も継続してもっと走りやすいレーンを作りたいということと、ベンチャー企業支援の強化、そして図書館改革が柱になりますね。

図書館改革は自転車政策と同様に私のライフワークです。今は三軒茶屋駅と二子玉川駅に図書館カウンターをつくって、借りたい本をスマホで取り寄せて図書館で受け取るといったことを始めました。今度、下北沢駅にも作る予定で、図書館が駅の近くにないところには全部作りたいと思っています。一方で、滞在型の図書館では、コワーキングスペースや学習室や自習室や個室や会議室など、地域の核となる文化施設として充実させていきたいです。

―― お話を聞いていると、生活や文化といった部分を重視している印象ですね。

樋内 すごく大事だと思っています。文化力の高さは地域住民の教養の高さを表すと思っているので、目には見えない部分ですが、そこを整備することが非常に重要だと考えているんです。

 
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