マーケティングの第一人者
魚谷雅彦氏に復活を託した資生堂のトップ人事
2014年1月21日

魚谷雅彦氏はマーケティング能力で高い評価
資生堂は4月1日付で、日本コカ・コーラ元社長の魚谷雅彦氏(59歳)の社長就任を決めた。
長い歴史を誇る同社において、取締役でない外部の人材をトップに起用するのは初めてのこと。しかも、同じ最終消費財とはいえ、化粧品と食品では業態がまるで異なる。
前田新造社長兼会長(66歳)は12月24日の記者会見で「マーケティング能力は世界中の経営者の中でもトップクラス」と魚谷氏を高く評価するが、老舗のトップブランドを改革するのは至難の業。日本コカ・コーラでの成功体験はどこまで通用するのだろうか。
前田新造氏が会長から社長兼務に復帰して約1年がたった。
「〝第2次前田体制〟は長期政権になる」--業界筋では当初、こんな見方もあったが、蓋を開けてみればショートリリーフに終わった。前任者が健康上の理由で退任を余儀なくされた後を受けての緊急登板だったが、当時の資生堂は業績悪化に沈んでいた。
2008年のリーマンショックを受けた国内販売の不振、そして中国進出成功のモデルケースとまで言われた中国事業も、12年に沸騰した反日感情の高まりで大苦戦し、抜本的な構造改革を迫られていた。
前田氏は、漸減傾向が続く国内市場の立て直しのため、市場に滞留する流通在庫の圧縮や、専門店のモチベーションが上がるように専門店専用商品の卸値を引き下げたり、リベートを見直すなどの制度変更を行った。
「国内販売でかつては圧倒的だった専門店ルートも今は2割ですが、ここを大事にしたせいで、資生堂はドラッグストアなどの販路拡大に後れを取り、同時にネット通販サイトの導入も遅きに失しました。商流の変化に乗り切れなかった面は否めませんね」(流通関係者)
業界関係者もノーマークだった魚谷雅彦氏
老舗ゆえのしがらみにとらわれない構造改革を急ぎ、「今上期中に成長の行く手を阻む経営課題の一掃に向けてほぼすべての対策を打つことができた」と語った前田氏が後継者に指名したのは、業界関係者もほぼノーマークだった魚谷氏。
昨年4月から同社のマーケティング統括顧問に就任していたが、「構造改革の仕上げは代表取締役専務のC・フィッシャー氏を引き上げるのではないか」(同)との噂を吹き飛ばすほどの意外な人物だった。
魚谷氏は同志社大学を卒業後、ライオンを経て1994年に日本コカ・コーラの副社長に就任。01年に社長となり、日本独自のブランド戦略で「ジョージア」や「爽健美茶」をヒット商品に育てあげた。
メーカーは生産部門、営業部門が車の両輪で、マーケティングはその補佐的な戦術とみられてきたが、魚谷氏は「経営の中核にマーケティングを据える会社にしたい」と語る。
13年3月期は8期ぶりの連結最終赤字に転落して、背水の陣を敷く資生堂。異質なトップの起用はその危機感の表れなのかもしれない。
(ジャーナリスト/上島剣)
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