国際

ホワイトハウスが特定の業界幹部を集めるのは異例

 米国家安全保障局(NSA)が、テロを未然に防ぐため、米国人や外国人の通信記録を一網打尽に収集していた監視システム「プリズム」の存在が昨年6月発覚し、その余波は、半年たった今も米国を揺るがしている。

 NSAは、システムについて内部告発した元職員、エドワード・スノーデンが、どの程度のデータを保有し、持ち出したのか、いまだに全貌を把握しきれずにいる。また、オバマ政権は、国民のプライバシーを侵害したとして、情報機関と活動の在り方について、大幅な見直しを求められている。

 「被告 オバマ、その関係者」と書かれた裁判所の書面。12月16日、首都ワシントンの連邦地裁判事リチャード・レオンが下した判断だ。

 裁判は、保守派の活動家で弁護士のラリー・クレイマンらが訴えていたもの。NSAが、米国民の通信記録を収集していた「プリズム」は、不当な捜索や差し押さえを禁じる合衆国憲法修正第4条に違反するとして、NSAが収集した原告クレイマンらの情報を廃棄することを求めていた。

 これに対し、レオン判事は、システムが違憲であるのはほぼ確実だとする、驚きの判断を下した。理由は、「テロを防ぐという一刻を争う案件に対して、(通信内容そのものではなく、氏名、電話番号といった)メタデータが、有効かどうかは疑わしい」というものだ。さらに、同判事は、「大量の電話のメタデータを収集・分析することは、プライバシーに対する合理的な期待に違反するのはほぼ間違いない」と指摘した。

 オバマ政権は、システムが数十件のテロリズムを未然に防ぐために使われてきたと、国内外で主張してきただけに、これは大きな打撃となる。ホワイトハウスは、判断に対し、上訴する構えだ。

 しかし、判断に先立つこの半年、米国は内外からの批判の目にさらされてきた。

 米有力紙ニューヨーク・タイムズは、スノーデンNSA元職員が、監視システムについて、どの程度の情報を入手し、持ち出したのか、NSAはいまだに把握していないと報じた。スノーデンが勤務していたハワイの施設では、職員が施設でコンピューターシステムにアクセスしたログ記録を取るソフトウエアを導入していなかったからだ。

ハイテク企業の首脳らと会談するオバマ大統領(写真:時事通信フォト)

ハイテク企業の首脳らと会談するオバマ大統領(写真:時事通信フォト)

 また、監視システムがインターネット利用者の情報を得るのに利用していたハイテク企業からの批判も激しい。オバマ大統領は12月17日、これらの企業の不満を緩和するため、グーグル、ヤフー、フェイスブックなどの首脳をホワイトハウスに集めた。

 この問題は、ハイテク企業が、安全性の低いサービスを提供し、政府によるプライバシーの侵害を促したとして、利用者の不信をかうことになるため、死活問題でもある。特に、大手だけでなく、中小企業は、米国に本社があるというだけで、海外の顧客離れにつながり、打撃を受けているという。

 ハイテク企業団体は、オバマ大統領と連邦議会に宛てた書簡を公開し、政府が情報を監視するのは基本的人権の侵害だと批判。同時に、ハイテク業界幹部はオバマ政権に対し、政府による情報収集活動の改革を要請してきた。

 12月17日の会議で、オバマ大統領とハイテク業界幹部が合意を得たという発表はなかった。しかし、ホワイトハウスが、特定の業界幹部を集めるというのは異例で、問題の重大さが浮き彫りになった。

米国の監視システムの問題を忘れるべきではない

 これとは別に、オバマ大統領は、タスクフォースを設置し、情報機関の監視活動に関し、40項目以上の見直しをまとめた報告書を提出させた。現在、ホワイトハウス内で精査し、1月には報告書を公開する計画だ。

 NSAの監視システムの問題は、日本では過去のものとなっているようだが、欧州各国は、オバマ政権への批判をゆるめず、対策を着々と進めている。

 プライベートに使っていた携帯電話が盗聴されていたと報道されたドイツのメルケル首相は、政府内に「情報調整官(仮称)」を新設し、外部からの盗聴・傍受対策を向上させる。もちろん、携帯電話の傍受対策は柱だ。

 EUの欧州議会は、人権と国家間の信頼の問題と受け止め、ロシアに亡命中のスノーデンを議会に招くことまで検討している。これに対し、オバマ政権はあわてて、特使を派遣し、調整に動いた。

 物理的な戦争だけでなく、サイバーテロの危険性も高まる今、政府がどこまで通信を監視できるのか、同盟国や友好国がどこまで協力できるのかを整理するのは、喫緊の課題だ。そのためにも、米国の監視システムの問題を忘れるべきではない。今後の全容の解明や、各国の対策の動きは、2014年も目が離せない。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

Eコマースを中心に成長を続けるBEENOS。その創業者である佐藤輝英氏は、5年前に社長を退任。4年前には取締役を辞任し、経営から退いた。それまで起業家として生きてきた佐藤氏が次に選んだのは起業家支援。BEENEXTを設立し、新しいイノベーションを起こそうとしている起業家への投資を始めた。その中でも投資の中心と…

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る