政治・経済

ネット社会の急拡大にともない〝リアルとバーチャルの融合〟が小売業の喫緊の課題となっている。しかし、その実現となると各々の思惑が錯綜し、一筋縄でいかないのが実情だ。そんな中で、注目されるのがセブン&アイ・ホールディングスの動向だ。 (本誌/大和賢治)

変化する購買形態

鈴木敏文・セブン&アイHD CEO

鈴木敏文・セブン&アイHD CEO(写真:時事)

 最近、小売り関係者が盛んに口にするのが「オムニチャネル」という言葉。簡単に説明するとリアルとバーチャルを融合させた販売手法、言うなれば、すべて販売チャネルをシームレスに連携させ顧客へアプローチするということだ。

 ネット社会の急拡大を背景に、消費行動も近年、ネットを介した購買へのシフトが顕著になっている。そんな状況の中で顕在化しているのはリアル店舗をショールーミング化。すなわち購入したい商品を実店舗に足を運び選定、その後、PCやスマートフォンで最安値の販売店を検索し、購入するというやり方だ。

 この購買形態は、これまで商品単価の高い家電製品等に傾向はみられていたが、ここ数年は、衣料品にも同様な形態が浸透してきた。そもそも衣料品はメーカーによってサイズ感が異なる上、色調と実際に目で見るのとではイメージが違うということからネット通販には不向きな商材といわれていた。

 しかし、最近ではアパレルのeコマース専業会社もネット上での見せ方に工夫を凝らすなど、リアル店舗に劣らないクオリティーを実現している。

 この潮流は何も衣料品に限ったことではない。ネット通販大手のアマゾンや楽天が売り上げを伸ばしているのは、食品から日用品までありとあらゆる品揃えを実現しているからにほかならない。

 そこでリアル店舗を運営する小売業の生き残りの条件の1つとなるのが自社が主体となるオムニチャネル化である。しかし、これを実現するには専門店に負けない商品調達力が前提となる。

 そんな状況の中、小売り主体のオムニチャネル化に打って出るがセブン&アイ・ホールディングスだ。同社はコンビニのセブン-イレブン・ジャパンやスーパーのイトーヨーカドー、そごう・西武といった百貨店業態を中核とする総合小売業であるが、一方では、ロフトや赤ちゃん本舗、タワーレコードといった専門性の高い業態のほか、セブン銀行、チケットぴあも傘下に収めるコングロマリット型企業で、オムニチャネル化を実現する条件が整っている。

 同社は今年を〝オムニ元年〟と位置付けているだけに13年末、カタログ通販大手のニッセンに対するTOB、高いブランド力を有するバーニーズジャパンの株式取得、天満屋ストアの資本提携など、立て続けにグループ拡大政策を仕掛けるなどして並々ならぬ意気込みでオムニチャネル化の構築を推進する。

「最近の購買形態をみていると主婦層までもネットに移行しています。そういう意味では、今後はさらに店舗のショールーミング化が進み顧客を奪われる危険性もあります。しかし、実店舗を数多く運営していることは決してマイナスとはとらえていません。お客さまがリアルでもバーチャルでもシームレスで購入できる場を提供することができれば、eコマース専業より有利な戦いが可能であると考えています。そういう点から弊社では、オムニチャネル化を今後の事業の中核として位置付けることになります」(セブン&アイ広報)

最大の強みは総合力

 繰り返しになるが、同社の最大の強みは〝総合力〟であり、顧客のニーズに幅広く対応できること、さらには国内で約1万6千店舗を展開するセブン-イレブンをインフラとして機能させられるということが最大のアドバンテージとなる。

 オムニチャンネル化の肝になるのは言うまでもなく品揃えだが、一方で重要となるが配達だ。その拠点として大きな役割を果たすのがセブン-イレブンである。セブン-イレブンのキャッチフレーズは「近くて便利」、国内1万6千の店舗網を利用すれば、宅配を待っているのが嫌だという層や、そもそも自宅に配達されることを嫌う層には、商品の受け渡し拠点として有効に機能する。

 一方で配達という意味では、現在、セブン-イレブン各店舗で実施している食事宅配のセブンミールサービスに受注商品を乗せることができれば、配送コストも最小限に抑えられる。さらには配送時に顧客の要望や注文を〝御用聞き〟のごとく汲み上げることも可能となる。

 オムニチャネル化は小売業として生き残りの条件ととらえ積極推進する同社ではあるが、そこにはシステム投資がつきものだ。

「システム投資において、心掛けなければならないのは、お客さまの利便性は何なのかを追求していくことです。そういう意味では、商品をより検索しやすくするためにグループ会社のお客さまIDを統一していくことも重要です。また将来的には在庫管理の共有化も推進していかなければなりません。これは物流センターだけの在庫管理にとどまらず、究極的には店舗間の在庫情報を一括で管理できる態勢にも着手したい。店舗間で商品を融通できれば、現状に比べ、お客さまのお手元に商品が届く時間も短縮できます」(同)

 話は戻るが、昨年末からのグループ拡大政策だが、意外性を感じるのはニッセンに対するTOB。これまで述べてきたとおり、同グループには、十分な商品ラインアップと盤石な顧客基盤を既に有しているのではないだろうか。

「ニッセンさんの顧客管理は相当なもので、われわれとしても参考になる点は多い。特にオリジナル商品には顧客の意見が最大限反映されています。われわれの顧客基盤と照らし合わせ、商品開発できれば、資材の一括調達による規模のメリットも享受できますから十分に協業できると考えています」(同)

 少子高齢化により国内の消費市場は確実にシュリンクする。多くのメーカー、小売りでは悲観論が強いが、同社では「社会の変化はチャンスであり、対応が早いところが最終的には生き残る」と結論付ける。

 顧客の利便性を追求していれば常に勝機はあるということか。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

自動車産業・産業機械の世界的サプライヤー、シェフラーグループの日本法人で2006年イナベアリングとエフ・エー・ジー・ジャパンが合併して設立。国内4拠点で自動車エンジン、トランスミッション、シャーシなど精密部品、産業機械事業を展開する。文=榎本正義四元伸三・シェフラージャパン代表取締役・マネージング…

シェフラージャパン代表取締役 マネージング・ディレクター 四元伸三氏

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

【特集】2019年注目企業30

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る