政治・経済

モバイル用途が需要を牽引し、世界の半導体市場および製造装置市場は回復基調にある。そうした世界の潮流に日本の半導体業界は乗り切れていない。業界の構造が大きく変わろうとしつつある中、日本のモノづくりも変革が求められている。 (本誌/村田晋一郎)

半導体業界における日本の地位が相対的に低下

 2013年末、米国の調査会社IHSアイサプライが13年の半導体売上高の予想ランキングを発表した。

 1位の米インテル、それを追う2位の韓国サムスン電子、3位の米クアルコムという構図は変わっていない。一方、日本メーカーはと言うと、東芝が孤軍奮闘で売り上げを前年から伸ばしてはいるものの、前年の5位から6位に順位を落とし、トップ5位から日本メーカーが消えた。また、前年6位のルネサス エレクトロニクスと前年11位のソニーは売り上げが減少し、それぞれ10位と15位へと順位を落とした。現在トップ20に名前を連ねる日本メーカーはこの3社のみだが、そのいずれも順位を落とした。

 東芝のNANDフラッシュメモリ、ルネサスのマイコン、ソニーのCMOSイメージセンサーは、世界トップクラスのシェアを誇る製品だが、各メーカーとも、かつてのように総花的な製品展開ではなく、個々に局地戦を挑んでいる状況だ。好調な東芝にしても、ロジックは規模を縮小し、NANDフラッシュに注力している。

 逆に経営破綻したエルピーダメモリを買収した米マイクロンテクノロジーが前年の10位から5位に躍進したのは、日本の半導体業界にとっては皮肉な結果だ。モバイル需要の取り込みで、世界全体での半導体市場は回復基調にある。各調査会社の予想でも14年の半導体の世界市場は1桁台半ばから後半の成長を見込んでいる。

 東芝のNANDフラッシュにしろ、ソニーのCMOSセンサーにしろ、スマートフォンのキーデバイスであり、高い競争力を有しているが、日本の業界全体が世界の成長の潮流から取り残されつつあることは否めないだろう。

 そんな状況の中で、12月上旬に千葉の幕張メッセで半導体製造装置・材料業界の展示会「セミコン・ジャパン 2013」が開催された。かつては幕張メッセの全館を使用する大規模な展示会だったが、日本の半導体市場の低迷と共に開催規模を縮小。今回は幕張メッセの1〜6ホールのみの開催で、次回は東京ビッグサイトでの開催となる。製造装置や材料メーカーにとっての顧客である半導体メーカーのデバイスエンジニアが減少している状況では来場者も減り、展示会の規模縮小は致し方ないところだろう。

 半導体製造装置の13年の世界市場は前年比マイナスとなったが、半導体市場の活況に伴い、14年は23%の成長を見込んでいる。また、半導体材料の世界市場も製造装置市場と同様に13年はマイナスとなったが、14年は3%の成長を見込んでいる。市場環境を考えると、展示会場から14年に向けた成長の期待に満ちた雰囲気があふれていてもおかしくなかったが、そうした空気は希薄だった。

 半導体デバイス業界に比べると、製造装置・材料業界では日本メーカーは高い競争力を有している。トップメーカーの所在地として、日本は業界での発信力を高めていこうとしており、今回のセミコンでもその方向付けを明確に打ち出した。ただし、それも今後はどうなるか分からない部分がある。

 昨年発表された東京エレクトロン(TEL)と米アプライドマテリアルズ(AMAT)の経営統合は、今回のセミコンでも来場者の多くが口にする話題だったが、「実質的にはAMATによるTELの買収で、TELはもはや米国メーカーになったと見るほうが妥当」というのは今回セミコンに来場した業界関係者の弁。実際に統合を見据えて、日本国内のTELの拠点再編が始まっており、12月には仙台とつくばのテクノロジーセンターの閉鎖を決定した。

 TELを除くと、日本メーカーで世界市場シェアの装置を有するのは、洗浄装置の大日本スクリーン製造などに限られる。製造装置業界においても相対的な日本の地位低下を招きかねない事態となっている。

モノづくりの革新が日本の半導体業界には必要

「セミコン・ジャパン 2013」の会場で注目を集めるミニマルファブ

「セミコン・ジャパン 2013」の会場で注目を集めるミニマルファブ

 半導体製造装置・材料業界でも日本を取りまく状況が変わりつつある。その中で、日本独自の取り組みが進められている。近年のセミコンで一際注目を集めているのが、産業技術総合研究所が中心となって進めている「ミニマルファブ構想」だ。

 半導体デバイス製造は、シリコンウェハーを大口径化し、1枚のウェハーから取れるチップの個数を増やして低コスト化を図る方向で進化してきた。ウェハー口径は現行の300㍉㍍から、450㍉㍍への移行が計画されているが。450㍉㍍対応の製造装置開発には莫大なコストを要することや、450㍉㍍ウェハーを必要とする半導体メーカーはトップ数社に限られるため、開発は進みつつも業界の足並みは揃ってない。

 こうした大口径化の動きとは異なり、ミニマルファブは、12・5㍉㍍の小口径ウェハーで1チップのデバイス製造を行い、低コストかつ収益性の高いデバイス製造を実現する試みだ。すべての製造装置は、幅30㌢㍍のサイズに小型化され、ファブの規模も10㍍四方程度まで縮小。設備投資を従来の1千分の1に抑える。1ウェハー1チップの生産でも、1分間の処理速度が実現できれば月産4万個以上のチップ生産が可能で、多品種少量生産のビジネスが成り立つ。ミニマルファブにより、日本においても半導体生産が事業としての経済合理性を確保できる可能性が出てくる。

 ミニマルファブは10年から研究開発が始まったが、「年々完成度は高まっており、実用化はかなり近い」(業界関係者)との声も挙がってきている。

 ミニマルファブはこれまでの半導体の進化とは真逆の発想だが、これくらいのモノづくり構造転換が、今の日本の半導体業界には必要なのだろう。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

立志財団

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る