マネジメント

税務調査における「一筆」と「聴取書」の違い

 第16回の連載で申し上げた一筆(リスクヘッジのためあらかじめ納税者に提出を求める反省文)について、近年非常に興味深い資料が出されているので、紹介します。この資料は、去る平成23年12月、大阪国税局が行った税務調査が「威圧誘導」という強権的なもので違法、と判断された事例を受けて作られ、税務調査官が税務調査先から一筆などの書面の提出を要請する場合に守るべき業務処理マニュアルです。ここでは、提出を強制したと判断されないように、税務職員に慎重な処理が求められています。

 非常に目を引く記述は、「(一筆は)調査関係者が自主的に提出するものであるから、調査担当者等が強要し作成したと疑われないように言動、文言の記載等には注意する。」というものです。一筆は納税者が任意に提出するものとされていますが、納税者の思うように文章を書いてもいい、となると、法律的に税務署に有利な内容が記載されるとは限りません。このため、一筆は「隠ぺい」や「仮装」という、税務署に都合のいい税法の専門用語を紛れ込ませ、税務調査官が文章の下書きをした上で、(半ば強制的に)その通りに書かせて署名押印させることが通例でした。

 しかし、「隠ぺい」や「仮装」という用語は、税法の専門用語で、一般人はあまり使わない言葉です。仮に一筆にこのような用語が書かれていれば、多くのケースで税務調査官が強制した、という判断がなされる可能性が高い、と言えます。

 次に、このマニュアルでは、一筆を「確認書」というタイトルで表現しています。事実関係の確認を行うために、納税者から提出するものだから確認書、という趣旨なのですが、こうなると反省文としての一筆は不適正、という判断がなされることになります。結果として、このマニュアルの内容を税務調査官がきちんと理解していれば、一筆に係わるトラブルは相当程度減ることになる、と考えられます。

 このマニュアルには、一筆に代えて今後増えると見込まれる、「聴取書」と言われる文書の作成についても記載されています。「聴取書」は、税務調査官が納税者などにヒアリングをしながら作成される、質疑応答録をいいます。インターネットで「聴取書」を検索していただくと、「犯罪の捜査に当たり、検察官・司法警察職員などが被疑者・証人・参考人などの供述を記録した書面」という説明が見られます。税務調査は犯罪捜査ではありませんので、税務調査官が作成する「聴取書」は同一のものではありませんが、イメージとしてはほぼ同じです。事実、裁判における証拠能力、という観点からは、税務署の「聴取書」と検察官等の「聴取書」は大きく異なるものではないとされています。語弊がありますが、一筆の証拠性を強化させたものが「聴取書」です。

 実務上、このような「聴取書」は従来、極めて悪質で、金額の大きな不正取引を発見した場合に限り作成される、とされていました。「聴取書」はヒアリング内容を正確にボールペンで手書きするなど、作成に非常に大きな手間がかかりますので、多くの場合、税務調査官の手間がかからない一筆で代用していたからです。しかしながら、一筆の内容に大きな制限がかかり、リスクヘッジの効果が期待しにくくなることもあって、今後はこの「聴取書」を作成する局面が増えざるをえないのでは、と思われます。

「聴取書」の作成が行われる場合に注意しておくべき点は、税務調査官が作成した後に、その内容のチェックと署名押印を求められることです。一筆と同様、聴取書の署名押印を拒否しても問題はありませんが、本人がチェックをしたことは聴取書に明記されることとされています。結果、異議を申し出なければ、書かれている内容は正しいことになるのです。一筆とは異なり、聴取書の証拠能力は極めて大きいので、事実との相違はないか、不利な文言が書かれていないかじっくり確認する必要があります。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る