文化・ライフ

遺伝子検査で分かる乳がんの生涯発生率

 米女優アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がんの予防のため、両乳房を切除したというニュースは、日本にもさまざまな議論を巻き起こしている。

 報道によれば、彼女の母親は乳がんのために57歳で亡くなっており、遺伝子検査の結果、彼女自身も87%の確率で乳がんになることが分かったため、今回の手術に踏み切ったのだそうだ。その結果、乳がんになる確率は5%未満に低下したという。

 現在、乳がんは世界的に増加傾向にある。日本でも近年増加し続けており、今や1年間で新たに乳がんと診断される女性の数は約6万人。患者数では女性のがんの第1位(2008年国立がん研究センター調べ)だ。日本人女性が生涯で乳がんにかかる確率は16人に1人ともいわれている。そんな中、注目されているのが遺伝子検査だ。

 両親や兄弟姉妹などの血縁者内で多く発生しているがんは「家族性がん」「遺伝性がん」と呼ばれる。

 乳がんや卵巣がんの場合、それぞれ全体の5~10%、10~15%が遺伝的なものといわれており、近年の研究で、乳がんや卵巣がんの遺伝性がんには、「BRCA1」「BRCA2」と呼ばれる2種類の遺伝子の変異と深い関係があることが分かっている。この遺伝子変異の有無を血液で検査するのが「BRCA1/2遺伝子検査」だ。

 アンジェリーナさんの場合、検査の結果乳がんになる確率は87%、卵巣がんになる確率は50%と非常に高い確率だったと報道されているが、米国立がん研究所(NCI)などの調査によれば、BRCA1あるいはBRCA2のどちらか一方、あるいは両方に変異のある女性が一生のうちに乳がんを発症するリスクは約60%。一方、変異がなかった人が乳がんを発症するリスクは12%だそうだ。

 また、米スタンフォード大の研究報告では、BRCA1に変異がある女性の場合、将来乳がんになる可能性は65%、卵巣がんになる可能性は39%。BRCA2の変異がある場合、それぞれ45%、11%の可能性があるという。

 ただ、遺伝子検査でBRCA1やBRCA2に変異が見つかったとしても、必ず発症するというわけではない。そのため、まだがんを発症していない健康な乳房を切除することに関しては、遺伝子検査先進国の米国でも賛否両論ある。実際、遺伝子検査で変異が見つかった人の多くは、こまめな定期検診で対応しているそうだ。

日本でも実施への動きが始まっている乳がんの遺伝子検査

 日本でも、乳がんの遺伝子検査は09年から実施されている。また、聖路加国際病院では、既に遺伝子変異が見つかった人を対象とする乳房の切除・再建手術が院内の倫理委員会に承認されている。また、がん研有明病院でも院内倫理委員会への申請を表明しており(5月20日現在)、乳がんの新たな予防法として注目されている。

 米国では、遺伝子検査でBRCAに変異がなかった人が乳房切除手術を受けたり、病巣の摘出だけですむ初期段階で乳房切除するケースも増えているそうだが、恐らく日本では、まだ健康な乳房にメスを入れることに抵抗感を持つ人のほうが圧倒的に多いだろう。

 今回のニュースを聞いて、僕は眼科のレーシック手術のことを思った。レーシックもまた、近視や遠視を治すために健康な角膜にメスを入れる術法のため、その是非をめぐっては16年前の日本導入当初からさまざまな議論があった。だが、今では需要も高まり、特に珍しい手術ではなくなっている。乳房切除も、将来は乳がん予防の一般的な選択肢のひとつになるのだろうか? もし僕が女性だったらどうだろう?

 もちろん、医療が進歩して選択肢が増えるということは非常に喜ばしいことだと思う。ただ、身体にメスを入れるということ自体、決してノーリスクとは言えない。

 また、たとえ全く同じ遺伝子を持って生まれた一卵性双生児でも、生活習慣や環境によって遺伝子の発現状況は異なってくるわけだから、定期的に検診を受けつつ、食事や運動に気を遣い、乳がん遺伝子が発現しないように管理するという選択肢もアリだな、と個人的には思う。さて、もしあなたならどんな選択をするだろう?

 ちなみに、遺伝子検査や予防目的の乳房切除・再建手術は基本的に保険の適用外で、決して少額とは言えない。ともかく、女性の皆さんには、ぜひ毎年乳がん検診を受けていただきたい。愛する娘や奥さんにも検診を勧めよう!

★今月のテイクホームメッセージ★

 乳がんは増加傾向にある。女性のみなさんは、ぜひ毎年乳がん検診を!

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