国際

副業があり、子ども1人でも家計を支えていけない現実

2013年9月、2年目を迎えた格差反対運動「オキュパイ・ウォール・ストリート」も縮小したが、格差はなくならない(写真:津山恵子)

2013年9月、2年目を迎えた格差反対運動「オキュパイ・ウォール・ストリート」も縮小したが、格差はなくならない(写真:津山恵子)

 クリスマス商戦が真っ盛りの中、ニューヨークでは日々、デモが繰り広げられている。

 12月4、5日と続けて、ニューヨークでは、ファストフードレストラン従業員のストライキがあった。5日は全米で100都市の従業員がそれに加わった。要求は、「時給7・25㌦を約2倍の15㌦に」というものだ。

 7・25㌦は、連邦政府が定める最低賃金だが、マクドナルドやウェンディーズ従業員の訴えは切迫している。これでは、家賃などが払い切れず、副業を持っても、ホームレスでシェルターや地下鉄で暮らす家族もいる。クリスマスの物入りの時期はさらに切実だ。

 具体的に彼らの家計を見てみよう。

 ファストフード最大手マクドナルドは今年7月、最大手として業界の低賃金に対する批判に応じて、家計のやりくりを支援する従業員向けウェブサイトを立ち上げた。「プラクティカル・マネー・スキル」というサイトは、家計簿をつけ、支出を抑えるというのが狙いだ。

 しかし、公表された「サンプル家計簿」に、メディアが注目した。

 収入の部は、マクドナルドからの月給が1055㌦、さらに「セカンドジョブ」という項目があり、マクドナルドとほぼ差がない955㌦を受け取ることになっている。これは、マクドナルドだけでなく、フルタイムの副業をも当てにしている。

 支出の部では、暖房費を入れた光熱費はゼロ、食費・衣料費の項目はなく、ゼロ。計算すると1日27㌦で生活し、月100㌦の貯金ができるが、家族構成は不明だ。

 AOLニュースは、サンプル家計簿と同額の収入の男性が妻と子ども1人を持つと仮定した試算を出した。すると、医療費や学費、生活用品代が加わり、1日約50㌦、つまり月に1500㌦以上の赤字を抱える結果となった。

 副業を持っても、子どもが1人しかいなくても、家計を支えていけないというのが、実態だ。

 英BBCテレビによると、ニューヨーク州レストラン協会のスポークスマンは、こう反論する。

 「ファストフードの賃金体系は、長年働くことを前提にしていない。このビジネスモデルを変えると、これだけ多くの雇用を全米に提供している業界が、雇用を支えきれなくなる」

 世界恐慌以来という金融危機を経て、失業率が一時10%に達し、ファストフードを家計の柱とする「定職」にせざるを得ない人が増えた。こうした異常な米経済が低賃金労働者を多く生んできた。

新規就業者は20万人を超えたが経済拡大の足取りは遅い

 英紙ガーディアンも最近、ミズーリ州のウエートレスの驚く投書を載せた。アップルビーというファミリーレストランで働いていた彼女の時給は3・50㌦だったが、最近クビになった。宗教上の理由でチップを払わなかったお客のレシートの写真を、ソーシャルメディアでシェアしたというのが理由で、店のマネジャーまでが解雇された。

 しかし、彼女によると、時給は3・50㌦で、客案内係、食器係、バーテンダーとチップをシェアして9㌦、法定最低賃金の7・25㌦をやっと上回るという。全くの違法な賃金体系だ。

 「チップをやるかやらないかは任意と考えるのではなく、レストラン従業員にとっては『賃金』の一部だということを分かってほしい」と彼女は訴える。

 11月の米雇用統計によると、失業率は、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、量的緩和の縮小の目安とした7%に低下した。新規就業者数は20万3千人で、20万人を超えた。

 これで、量的緩和の縮小開始を探る金融政策の論議は活発化しそうだ。しかし、雇用統計の数字だけでは、この先、確実な速度で米経済が拡大するのかどうかは、不透明だ。

 オバマ大統領は、雇用統計発表に先立ち、演説でこう指摘した。

 「貧富の差は、アメリカン・ドリームに立ちはだかる、現代の決定的な問題だ」

 12月17、18日に金融政策を協議するFRBの連邦公開市場委員会が開かれる。当然、量的緩和縮小に動くかどうか、マーケットが注目しているが、「縮小に動く可能性は小さい」とみるエコノミストは少なくない。

 大統領が「決定的」という言葉を使って、悲観視する所得格差、そして経済拡大の足取りの遅さは、米市民にとっていまだに死活問題だ。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る