政治・経済

最も成功した「レント・シーキング」

 読者は「レント・シーキング」という言葉をご存じだろうか。今後の日本の経済政策において、キーワードの1つになる可能性が高いため、これを機にぜひ、覚えてほしい。

 レント・シーキングとは、直訳すると「地代を探す」になるわけだが、現実の定義は「企業が独占利益や超過利益を獲得するためのロビー活動」となる。地主が農家に土地を貸し出す。農家はその土地で農作物を育て、収穫、販売し、所得を得る。この時、農家が農作物を販売した代金が、土地から産み出された付加価値の合計、すなわちGDP(生産面)になる。GDP三面等価の原則により、付加価値と所得の合計金額は必ず一致する。

 農家は、土地から獲得した所得(=付加価値)の一部を地代として地主に支払う。これが「レント」である。レントを受け取った地主は、別に新たに付加価値を生み出したわけでない。地主は単に、農家が生み出した「所得=付加価値のパイ」から分配を受けただけである。農家の所得の一部が、地主に移転されたと表現してもいい。既存の所得のパイから一定金額が分配されるように「新たなレント」を探し求め、政治家を動かし、法律を改正させるのが今風のレント・シーキングである。新たに所得のパイが増えるわけではないため、レント・シーキングで誰かが得をしたとき、必ず反対側で別の誰かが損をしている。

 昨今の日本において最も成功したレント・シーキングは、再生可能エネルギー特別措置法である。太陽光、風力など、いわゆる再生可能エネルギーを「固定価格」で電力会社に買い取らせ、負担を消費者に押し付ける再生可能エネルギー固定買取制度ほど、レント・シーキング色が露骨な制度は他に思い付かない。

 そもそも、蓄電技術のブレークスルーがない限り、日本のエネルギー供給の分野で、太陽光発電や風力発電が電力供給の主役になる日はやってこない。理由は、発電の技術的特性やわが国の国土的条件による。日本は欧州のように、一定な西風が吹くわけではない。さらに、台風も来襲するため、風力発電を大規模に展開できる国土ではない。風力発電の拡大には「安定的に風が吹く」ことが必要なのだ。太陽光パネルにしても、太陽が陰ると発電されないのに加え、そもそも発電容量が小さ過ぎるという問題もある。電力とは「在庫」ができないタイプの商品だ。発電、送電、配電はほぼ同時に行われる。ユーザー側が「電気を使いたい」と思った瞬間に、発電所で発電し、供給しなければならないのが電力サービスなのだ。太陽光や風力では、発電可能性が自然環境に左右されてしまう。蓄電技術が大々的に発展すれば話は別だが、現時点では電気とは「顧客が必要な瞬間」に発電し、送電するしかない。自然環境に発電能力が依存してしまう太陽光や風力で原発を代替するなど、現実には全く不可能なのである。

市場の判断を無視した制度

 日本の電力安定化にほとんど役に立たない再生可能エネルギーについて、日本の民主党政権は固定価格買取制度を導入してしまった。しかも、首相官邸のホームページには、再生可能エネルギー固定価格買取制度の説明として「再生可能エネルギーはコストが高いなどの理由により、なかなか普及が進みませんでしたが、この制度によりコストの回収見通しが立ちやすくなり、より多くの人が発電設備を導入し、普及が進むと期待されています」

 と、書かれており、筆者は唖然としてしまったわけである。「コストが高いから、普及が進まなかった」ということは、それこそ「市場」が、「そんなものは不要だ」と判断したという話だ。政府の「規制」で電力会社に固定価格での買い取りを義務付けなければ、普及が進まないような技術を、なぜ利用しなければならないのか、理解不能である。

 しかも、日本の再生可能エネルギーの買い取り価格は「高い」。例えば、太陽光10㌔㍗以上の単価は、1㌔㍗当たり38円である。再生可能エネルギーの固定買取制度で先行したドイツは18~24円だ。風力発電は、日本が23・1~57・75円に対し、ドイツは5~9円だ。

 この高い再生可能エネルギーの固定買取代金を誰が支払っているかといえば、もちろん日本の消費者である。すなわち、読者だ。何しろ、電力会社は再生可能エネルギーを買い取った代金を、政府の代わりに消費者から回収している。

 要するに、再生可能エネルギー特措法は、福島第一原発の事故というショックを利用し、「誰か」が固定買取制度を政府(菅政権)に推進させ、投資利益を電力料金の一部として回収するために成立したのだ。日本の消費者の電気代として、不要な太陽光や風力の発電費用として「誰か」におカネが支払われる、完全なレント・シーキングである。「誰か」には、日本の投資家はもちろんのこと、外資も含まれている。

 太陽光発電や風力発電は、典型的な設備産業だ。一度、設備を据えてしまえば、その後はほとんど雇用を産まない。さらに、日本で使用されている太陽光パネルの八割は台湾・中国のメーカー製であり、日系企業の所得が増えるわけでもない。

 国民は本来必要のない再生可能エネルギーの買取代金を負担させられ、雇用もほとんど生まれない。得をしているのは、再生可能エネルギーに投資をした企業、投資家だけだ。再生可能エネルギーの固定買取制度とは、投資する余力がない一般国民から、投資余力を持つ投資家に強制的に所得を移転させる制度なのである。しかも、本制度は一部の企業、投資家と政権(菅直人政権)が結び付き、再生可能エネルギー特別措置法を成立させることで実現した。まさに、典型的なレント・シーキングだ。

 こんなバカげた制度は、即刻、中止するべきである。

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