国際

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

 

高橋陽平氏プロフィール

高橋陽平DEAN & DELUCA HAWAII社長

(たかはし・ようへい)1974年生まれ。東京都出身。成蹊大学経済学部卒業後、日米での小売業界、食品業界含む、各種業界のビジネス経験を経て2015年DEAN & DELUCA HAWAII LLCを設立。

 

高橋陽平氏がDEAN & DELUCAをハワイで始めるまで

 

イゲット:高橋さんがハワイに来るまでのいきさつを教えてください。

高橋:大学卒業後は日本でデパートのマルイで長く働いていました。その後、オハイオ州の大学院でビジネスの勉強をし、ニューヨークにて元々興味のあった食品業界で働くことになりました。ニューヨークでは2年半ほど経験を積み、またオハイオに戻り自動車業界の商社で働きました。ここではホンダさんやトヨタさんをはじめ、日米の大手自動車メーカーやその一次下請けや二次下請けメーカーなどを担当し、日本・ヨーロッパ・メキシコ・カナダを行き来しながら製造設備や資材の取引、また工場建設といったことに携わりました。

 それから今度は北カリフォルニアのサンフランシスコサウスベイエリアに引っ越しました。ここではスタートアップ企業や、有名大学の教授や研究員による細胞や遺伝子・DNAといったライフサイエンスの世界最先端研究や事業を実現するためのツール開発に携わっていました。私はセールスエンジニアだったので、クライアントと自社のエンジニアとの間に立ってプロジェクトを推進していく役割でした。ミクロの世界の話をしているこの業界では、まさに物作りの真髄を勉強することができましたね。シリコンバレーではIT関係はもちろん盛んなのですが、実はライフサイエンス関連も結構盛んな場所なんです。

 そしてハワイに来てからは4年くらいで、アメリカ在住歴は17年以上になります。

イゲット:DEAN & DELUCA始められた経緯は?

高橋:4歳からの付き合いの幼馴染の親友と一緒にニューヨークに住んでいた時の話なのですが、当時僕はAJINOMOTO USAに勤め、彼はニューヨークの伊藤忠商事で働いていました。

 その頃、彼はDEAN & DELUCAを日本に持って行くプロジェクトをしており、その時に「いつか一緒にDEAN & DELUCAをやろう」と約束をしていたんです。それ以来、高校生の時に初めてニューヨークで訪れて衝撃を受けたDEAN & DELUCAに携わる日を待ち望んでいました。

イゲット:なぜハワイを選んだのですか。

高橋:その幼馴染の彼が、DEAN & DELUCAのハワイリージョンにおけるライセンスを持っていたからです。DEAN & DELUCAでは文化や風土もアメリカ本土とは異なるハワイという場所を、同じアメリカ国内でありながらもひとつの独立したリージョンとして捉えていました。そういった経緯から、DEAN & DELUCA HAWAII LLCという名称の米国法人を設立し、米国本土とも日本ともその他どこの国のDEAN & DELUCAとも異なるハワイ独自のコンセプトでビジネスを展開しています。

イゲット:だからハワイのオリジナルグッズなどが沢山あるんですね。

 

ハワイらしい、ハワイの物を提供する

 

イゲット:ハワイではお土産産業が盛んですが、売る時の商品の決め手、商品開発の秘訣を教えていただけますか。

高橋:DEAN & DELUCAは「世界中の美味しい物を取り扱う食のセレクトショップ」というのがメインコンセプトなのですが、それに加えて「(各リージョンの)独自の食文化をフィーチャリングしてお客様に届ける」というのも大切なコンセプトの一つなんです。例えば日本のDEAN & DELUCAで言えば、日本発祥の伝統の技法で作られた美味しい食べ物がそれに相当します。

イゲット:それぞれのリージョンのDEAN & DELUCAが、オリジナルの商品を取り扱っているという感じなんですね。

高橋:我々の場合は当然ハワイという事になるので、まずはハワイの美味しい食べ物。特にハワイでもまだ一般に知られてないものをフィーチャリングして紹介したいと考えています。それをDEAN & DELUCAの商品として紹介する事もあれば、そのままベンダーさんの名前でセレクトショップとして店に並べる場合もあります。

イゲット:バッグも行列ができるほど人気ですよね。

高橋:DEAN & DELUCAのブランドイメージの範囲内で「ハワイらしい、ハワイならではの商品」を提案できたら良いなと考えています。そういった中でハワイ限定トートバッグを作ったところ、たまたま多くのお客様に気に入っていただけたという感じですね。

イゲット:バッグは何個あっても良いですからね。

高橋:ここでしか買えないという事が良いのだと思います。またハワイ全体で「プラスチックバッグ(レジ袋)を減らそう!」というエコの動きが広まってきたこともあり、皆さん買われた後にすぐに滞在中のショッピングバッグとして使う事が多くなりました。

 人気のバッグはメイドインUSAにこだわって作っているためなかなか生産量が上がらず、いまだに時期によっては生産が追いつかず店頭から数週間消えてしまうこともある状況です。

高橋陽平氏

「ハワイでもまだ一般に知られてないものを紹介したい」と語る高橋氏

 

DEAN & DELUCAハワイ2店舗のコンセプトとは

 

イゲット ハワイの2店舗のコンセプトは?

高橋:2店舗でまったく異なるコンセプトに分けています。

 ロイヤルハワイアンショッピングセンター店は、ハワイを感じていただけるようにハワイのプランテーションスタイル(伝統的な建築様式)をモチーフにしたデザインで、木の暖かさにビンテージ感をプラスし、それをDEAN&DELUCA風にアレンジしています。また、できるだけ多くのお客様に気軽く立ち寄っていただけるようにとオープンコンセプトの作りにしています。立地条件もシェラトンホテルとロイヤルハワイアンホテルの目の前なので、多くの日本やオーストラリアからのツーリストが来店されます。こちらの店舗では、まさにお土産にもってこいの、ハワイの美味しくてめずらしいパッケージ商品を数多く取り扱っています。

 一方、リッツカールトン店はエレガントでラグジュアリーな空間を演出するために、マーブルやサブウェイタイルといった素材を使ったモダンニューヨークスタイルの店舗デザインになっています。この店舗ではデリやデザートといったその場で食を楽しめるようなものを中心に取り扱っており、それらの多くはハワイでしか手に入らないローカル食材を使って作られています。デリメニューやデザートは、店内はもちろん外のラナイ(テラス)にてハワイの最高の気候の中で食べていただけるようになっており、時間のない方でも楽しんでいただけます。

 また、10月からはリッツカールトン店2階の「The Artisan Loft」 にて午前10時からのブランチもスタートしました。午後4時からのワインラウンジメニューとあわせて、他では味わえないDEAN & DALUCA風にアレンジされた創作ハワイメニューを世界のワインとともにご賞味いただけます。

イゲット:内装もすごく気持ち良い感じですね。

高橋:リッツカールトン店の立地は、ワイキキですが良くも悪くも端の方なのでトラフィックも少なく静かですし、素敵な空間を味わえるという売りがあります。以前はこの店舗はロイヤルハワイアン店と比べて認知度が低かったのですが、1年くらいかけやっとここにDEAN & DELUCAがもう1店舗ある事を認知して貰える様になりました。

 また、2022年にはカカアコ に3店舗目のオープンも予定しています。3号店も現行店舗とはまったく違ったコンセプトのお店にしようと思っていますので、是非ご期待ください。

 

ハワイならではの人材確保の難しさ

 

イゲット: 2つのお店で、従業員は何人くらいいらっしゃるんですか?

高橋:合わせて50人くらいですね。

イゲット:人材の確保などはどうされていますか。

高橋:皆さん悩まれている所だと思うんですが、ハワイでは人材を定着させるのが非常に難しいです。初期の頃はハワイではDEAN & DELUCAの名前はまったくと言っていいほど知られておらず、人員募集をかけても「ここで働けばタダでコーヒー、食事が食べられるかも」的な感じで応募してくる人も多く、またそのような人材はたとえ50セントでも時給が高いところがあればすぐにそちらに移ってしまうので本当に苦労しました。

イゲット:ハワイは24時間365日みたいな営業体制ですが、スタッフの時間帯やシフトなどはどう組んでいるのですか。

高橋:開始から数年経って、今では現地スタッフの中にも日本人のようなハードワーカーが何人も育ってきてくれました。彼らは本当にDEAN & DELUCAが好きで一生懸命働いてくれています。会社を好きになってくれているスタッフが軸となって、日々若い子を教育しながら店を回しているというのが現状です。

イゲット:良いスタッフを引き留めておくコツは何かありますか。

高橋:それこそ本当に、自分や会社を好きになって貰うしかないかなと思っています。

イゲット:採用する時のポイントは?

高橋:ハワイでの経験で、残念ながら採用の段階では解らないということが解りましたね(笑)でも、強いて言えば、働き始めて2ヶ月すれば必ずその人がどういう人かが解ります。

高橋陽平氏、イゲット千恵子氏

 

DEAN & DELUCAハワイの今後の展望

 

イゲット:高橋さんはご家族でハワイに来ているんですか?

高橋:妻と2人暮らしで子供は居ないです。妻はフォトグラファーをしています。彼女の仕事のメインはウエディング業界なのですが、弊社のパンフレットやポスター、ウェブサイト等の会社が必要とするすべての媒体の写真を撮ってもらっています。彼女には日々助けて貰っていて本当に頭が上がりません(笑)。

イゲット:ハワイでの生活はどうですか?

高橋:今のところは本当に365日、朝から晩まで仕事ですね。仕事が面白いのもあるんですが、4年経ってつくづく思うのはハワイという場所で海や空・山からエネルギーを貰えているからこそ、こんなに無尽蔵に気力が湧いてくるんだなと思います。

イゲット:今後の夢や展望を聞かせてください。

高橋:今は2店舗ですが3店舗目の出店も決まりましたし、ゆくゆくはハワイ内の他島も含めて5店舗から8店舗ぐらいにしたいなと思っています。

次のステップとして、会社のフィロソフィーやコンセプト、会社としてどのように社会貢献するかといったことについて、多くの人たちに理解していただけたら良いなと思っています。

あとはハワイのローカルの方にもっともっとDEAN & DELUCAを知っていただき、来て貰いたいですね。DEAN & DELUCAがあるんだったらワイキキに行こうかなと思っていただけるようなお店にしたいです。

イゲット:ここにはパーキングがあるんですよね。

高橋:リッツカールトンレジデンスワイキキホテルに停めていただければ、バリデーション(駐車料金の割引、利用時間などによって無料になるシステム)できます。ロイヤルハワイアン店も、ロイヤルハワイアンショッピングセンターに停めていただければ、バリデーションできるのですが、あまり知られていない気がします。

 ハワイ人は、美味しいもののために並ぶことも厭わないし、代金が多少高くても払う価値があれば払って下さるイメージがあるので、我々の存在をより知ってもらえれば、より多くのローカルの方に来てもらえるようになると信じています。そして可能な限りハワイのローカル商業活性化に貢献したいと考えています。ハワイでビジネスをやらせて貰っているので、やはり何らかの形で恩返ししたいですね。

イゲット:人生の夢はありますか?

高橋:今の目標はハワイでDEAN & DELUCAを成功させる事ですね。最終的な目標としては、妻と2人で楽しい人生だったねって思えるような人生を送れたら良いと思っています。

 

イゲット千恵子氏(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

イゲット千恵子氏の記事一覧はこちら

 

 

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る