政治・経済

関西国際空港は今年夏、イスラーム教徒の観光客らも快適に利用できる空港を目指す新しいコンセプトを打ち出した。東京へのオリンピック招致が決まったり、成長戦略に外国人観光客誘致が盛り込まれたりするなど追い風が吹くが、現状で日本の玄関口になる空港の環境整備は追い付いているのだろうか。 (本誌/宮崎二郎)

ハラール認証取得でムスリム対応を進める国際空港

ムスリムフレンドリーエアポートを目指す関西国際空港

ムスリムフレンドリーエアポートを目指す関西国際空港

 東京へのオリンピック招致決定をうけて、弾みがついたのは外国人観光客の誘致。中でも注目を集めるのは、東南アジアや中東に多いイスラーム教を信仰するムスリムの外国人の受け入れ体制強化で、とりわけ玄関口となる国際路線を持つ空港の環境整備だ。関西国際空港がさっそく「ムスリムフレンドリーエアポート」というコンセプトを打ち出し、他空港も同様の施策を前向きに進める。

 そこで今回は、勢いづく外国人観光客誘致と受け入れ体制について調査した。

 まずは、背景をおさらいしよう。9月上旬、2013年の出来事の中でも大きく印象に残ったのが20年の夏季オリンピック・パラリンピックの東京への招致決定。それに伴い外国人観光客をいかに増やすかが1つのテーマとして注目を集めた。

 さらに、政府が展開する支援策も手厚い。6月に閣議決定された、アベノミクス3本の矢の1つでもある成長戦略で、「30年には、訪日外国人旅行者3千万人超を目指す」と大きな目標を掲げ、ASEAN諸国へのビザ要件を緩和し、観光客が来日しやすい環境の整備が推進されてきたのだ。

 それでは具体的な取り組みを見てみよう。明確なコンセプトを打ち出した関西国際空港は「ムスリムの訪日観光においては特に『食事・礼拝』に不自由されることがあり、安心して空港を利用」してもらうため、14年3月をめどに施設整備を目指すとしている。

 食事については、事前の予約が必要だが、厳格な基準に合格したハラール認証食品の提供を開始する。関西国際空港の担当者は、「ほかにも、空港内にはハラール認証を取得したザ・うどんやグルメ記念館といったレストランが既にある」と解説する。羽田空港の担当者も、ハラール認証の取得については「進めて行きたい」と前向きな姿勢を示す。

 成田国際空港でも、有料待合室にてハラールミールの提供を12月6日から開始した。

 しかし、事はそれほど単純ではない。このハラール認証については、さまざまな認証団体があり、各団体で認証の基準も異なる。

 現在、日本ハラール協会や日本アジアハラール協会、日本ムスリム協会による認証があり、認証基準もまちまちで、統一された品質が保障されるわけではないというのが一般的な見方だ。また、一口にムスリムといっても非常に敬虔で戒律を厳格に守る人もいれば、比較的寛容なムスリムもおり、要求される基準があるわけではないという。ポークフリー/アルコールフリーのハラール認証を受けたお土産を製造、販売しようという動きはあるものの、課題もある。

 ムスリムを対象にしたお土産の開発を他社と共同で進めている食品卸・ムソーの出口裕起社長はこの点について、「認証といってもさまざまなものがあり、難しい部分もある。それに監査には費用が掛かる上に、一度監査を受けて合格しても、認証を維持するために更新料などが発生するため、それを上回る収入を見込めるかという問題もある」と指摘する。

 記者も以前、日本アジアハラール協会の認証の監査に同行したことがあるが、製造装置に禁忌に触れる素材が使われていないかに確認を要するなど、意外に細かい懸念事項もある。

ムスリム用の礼拝施設を設置した関西国際空港

 他方で、第三者機関による認証に左右されない施設整備については、各空港で着々と進められている。

 それが関西国際空港が2つ目の課題として挙げた「礼拝」施設だ。ムスリムにとってその重要性はよく知られているが、これまでは、施設の整備が追い付いていなかったという。

 関西国際空港の担当者はこれまでの祈祷施設について、「お祈りをする前に、手足を洗いお清めをするが、そのための場所がなかった。中にはトイレの洗面台に乗ってお清めをする人までいた」と既存の祈祷施設の不備を指摘した。

 この点を改善するため、同空港は、礼拝前に身体を清めるための「小浄施設」の設置を推進。その効果か、祈祷室の利用は活況らしい。

「祈祷室の前に設置した電話からの利用者の報告によれば、利用は年間で約1千件。ただ肌感覚では、全体の利用者数は報告件数の約3倍ある」(担当者)と積極的に利用されている現状を説明した。

 成田国際空港も祈祷室の拡充に乗り出した。これまで礼拝や瞑想で利用するための部屋として、サイレントルームを設置していたが、12月1日より「礼拝室」へ名称を変更。身体のお清めをするための水場も近く整備する予定だ。さらに、来年夏までに出国審査後のエリアにも新たに礼拝室の準備を進めているという。

 外国人観光客の誘致と接遇体制強化の取り組みは、政府の成長戦略を含めたオール・ジャパンで推進するプロジェクトだ。新たな集客策が今後も次々と出てくることだろう。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る