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政府機関の閉鎖で難問が山積 オバマ、レームダック大統領に

FRB議長候補に逃げられるなど政治力低下を露呈

「(今や)ホワイトハウスには、レームダック大統領が住んでいる」と、英テレグラフ紙の軍事ジャーナリスト、コン・コフリン氏が断じた。9月10日夜、オバマ米大統領が、冴えないテレビ演説をした直後だ。

同日のテレビ演説は、シリアに対して米国がどういう方針を取るのか、大統領が米国民に知らせるためのものだった。

この中で、大統領は、先だって連邦議会に求めていた武力行使に関する投票の延期を求めた。さらに、シリアの化学兵器を国際管理下におく交渉をするというロシアの提案を支持する姿勢をも示した。

8月下旬に、シリアの市民1400人超が、化学兵器で殺害されてから、オバマ大統領は、武力行使の方針→議会の承認を得る方針→議会の投票延期を要請と、「フリップフロップ(行ったり来たりすること)」を続けている。

さらに、コフリン氏が懸念するのは、大統領の外交に対する「レッド・ヘリング(赤いニシン、転じて気をそらせること)」と言える態度だ。大統領が、シリアに対し、化学兵器の試用禁止と国際査察だけを求めるのか、その上で内戦の解決を求めるのか、態度をはっきりさせなかったことで、米英同盟の敵であるロシアやイランが介入しやすくなると指摘する。

オバマ大統領には、この後、コフリン氏が宣言した「レームダック」にふさわしいニュースが続いている。

まず、来年1月に任期満了となる米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の後任人事だ。

人事をめぐって、ジャネット・イエレンFRB副議長と、ローレンス・サマーズ元国務長官の名が上がり、マーケットはいずれに白羽の矢が立つのかやきもきしていた。

ところが、9月16日、サマーズ氏は大統領に書簡を送り、FRB議長候補を辞退した。

サマーズ氏の辞退理由はこうだ。

「自分の議長就任承認のプロセスは厳しく、FRBや政権の利益、ひいては景気回復の利益に貢献しないだろう、という結論を不本意ながら下した」

議長は、大統領が指名し、上院の承認で任命される。サマーズ氏が、上院の承認が厳しいと判断したのは、ほかならぬオバマ大統領の議会掌握に対する不信だ。言い換えれば、オバマ大統領は、サマーズ氏に逃げられたと言える。そして、政府高官指名候補が「逃げた」のは、国務長官職に次いで2度目だ。

さらには、10月1日、米政府機関が一斉に閉鎖され、最大100万人の職員が自宅で無給の休暇に入るという異常事態に突入した。同日から発効する連邦暫定予算案で、与野党の合意が得られなかったためだ。省庁のほか、国立公園やニューヨークの「自由の女神」といった観光名所も閉園。米連邦通信委員会(FCC)、米航空宇宙局(NASA)のウェブサイトもシャットダウンされている。

日本経済新聞のインタビューに応じたデビッド・ストックトン元FRB調査統計局長によると、政府機関閉鎖は、1カ月続けば国内総生産(GDP)を0・7ポイント押し下げるという。そうなれば、景気回復の速度に弾みをつけたい米経済には大きな後退だ。

このほか、米経済の最大の指標である月間の新規雇用者数と失業率が明らかになる雇用統計の発表も延期された。担当部署となる労働統計局の機能が停止状態に陥っているためだ。

この原稿執筆の6日時点で、政府機関閉鎖を解決するめどはたっていない。

政府機関閉鎖で市民は大統領よりも共和党を批判

ニューヨーク証券取引所のダウ平均は、債務上限引き上げ問題への懸念から下落した(写真:津山恵子)

ニューヨーク証券取引所のダウ平均は、債務上限引き上げ問題への懸念から下落した(写真:津山恵子)

さらなる難関も控えている。10月中旬までに、米国債の債務上限の引き上げが議会で承認されなければ、債務不履行という重大な事態にも陥る。

財務省は、「債務上限問題をめぐる行き詰まりから債務不履行に陥れば、金融市場だけでなく雇用創出や消費支出、経済成長にも破壊的な影響を与える恐れがある」と、強く警告する報告書を発表した。

オバマ氏にとっての救いは、政府機関閉鎖で、市民からは大統領よりも共和党に批判が集まっていることだ。

米ネットワークテレビ局CBSの世論調査によると、回答者の44%が政府閉鎖は共和党のせいとし、次いで35%が大統領で、17%が大統領と共和党双方を批判している。

そもそも、与野党の合意が得られなかったのは、両党ともに中道派が減り、党利党則だけで投票の意志を決定しているためだ。しかし、暫定予算案をめぐる攻防では、共和党の「ティーパーティー(茶会)」と呼ばれる保守強硬派が、頑なな態度を続けた。

いずれにせよ、シリア問題、政府高官指名候補の辞退、政府機関の閉鎖と、世界から見て、米国を「弱く」見せる事態が連発している。オバマ大統領の指導力が問われているのは間違いない。

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