マネジメント

デューデリジェンスでは打ち合わせと計画が重要

 デューデリジェンス(DD)とは、買収対象について行う詳細な調査を言い、買い主にとって重要なプロセスです。主な目的として①買収を実行すべきか否かを判断する(場合によって条件やストラクチャーを変更する)②買収契約において対応すべき事項を把握する③対象となる会社や事業の詳細を把握し買収後の統合作業や事業計画を検討する︱︱が挙げられ、外部の専門家やアドバイザーに依頼するか、買い主自身で、ビジネス、法務、会計、税務その他の観点から調査します。

 DDを無計画に行うと作業量が膨大になり、コストも時間もかかります。この点はクロスボーダーM&A案件で特に留意する必要があり、買収対象や重要性に応じた絞り込みが重要になります。例えば、買収対象が小規模であればDDの範囲を限定しやすくなりますし、事業の一部しか買収しない場合には、当該事業を中心にDDを行うことで範囲を限定できます。特に重要な資産・契約を重点的に調査したり、事業上の重要性の低い国の調査を簡略化したりすることや、対象となる契約が多い場合、一定の金額以上か上位何社といった限定を加えることもよくあります。

 弁護士による法務DDでは取引に対する法的規制の調査も必要で、クロスボーダー案件では競争法と外資規制が特に重要です。競争法は、日本の独占禁止法のように市場での競争を制限することになる取引を規制します。大型案件も多いクロスボーダー案件では、国ごとの届出の要否、競争制限的な効果が問題となる可能性やその対処法、待機期間の長さや延長の可能性などについて早めに検討する必要があります。外資規制では、当該取引について当局の承認が必要とされたり、事前の届出と待機期間が課されていたりする場合はスケジュールに影響することから、国ごとに個別に検討する必要があります。

 DDでは買い主自身が多くの人員を割くとともに、外部の専門家も多数関与しますが、クロスボーダー案件ではその数も大きくなりがちなため、効率的に進めることが求められます。特に、事前に十分に打ち合わせをして、報告の形式についても合意しておくことが重要です。

買収契約は項目ごとの重要性を意識して交渉

 DDが進むと契約交渉が始まります。資産買収、株式買収、合併といったストラクチャーごとに買収契約の種類も異なりますが、基本的な構造はあまり変わらないので、特に区別せずに説明します。

 買収契約は一般的に、買収対象や対価などに関する条項、表明保証、誓約、取引完了の前提条件、補償、解除、その他の条項から成り立っています。ここでは特に問題となることが多い項目について解説します。

 表明保証条項は、一定の事項が真実であることを保証する条項です。当該事項が正しいことを取引完了の前提条件にしたり、誤りがあった場合に解除権や補償請求権を認めたりすることで、当該事項を信頼した相手方を保護する効果があるほか、買主としては、未確認の事項について表明保証をさせることでDDの補完にもなります。対象とする事項やその範囲に加え、内容面での限定や除外事由について、しばしば激しいやり取りが行われる条項です。

 誓約条項は、契約の当事者に一定の事項を行う義務を課したり、逆に行うことを禁止したりする条項です。契約締結から取引完了までの期間に対象会社や事業をこれまでどおり運営させ、その価値を損なう行為を禁止する条項が一般的ですが、DDで判明した問題点を取引完了までに解決する義務を売り主側に課すこともあります。

 取引完了前に限らず、売り主に対して取引完了後に役職員の引き抜き・勧誘や競合する事業を行うことを禁止することもあります。売り主の事業の一部のみを買収するクロスボーダー案件では、売り主が引き続き行う事業について、地理的・期間的にどこまで競業を禁止するかが、大きな議論の対象になることがあります。

 補償条項とは、買収契約の当事者が買収契約に違反した場合、相手方が損害の補償を受けるための条項です。クロスボーダー案件に限りませんが、補償額の上限や下限、補償を求めることができる期間などについて交渉の対象となります。

 その他の条項として、紛争解決手段や手数料などに関する規定にも注意が必要です。紛争解決手段には大別して裁判と仲裁とがあり、一長一短があるため案件ごとの検討が必要ですが、特にクロスボーダー案件では、訴訟や仲裁をどこで行うかという管轄地の規定が準拠法とともに交渉の対象になりやすいと言えます。また、米国における競争法上の届出にかかる手数料や英国での印紙税などは相応の負担になることもありますが、そのような手数料や税金について当事者間でどのように負担するかという規定も重要です。

 クロスボーダー案件の契約書は、多くの場合英文で作成され長くなりがちな上、多数のコメントがやり取りされます。慣れないと読むだけでも骨が折れますが、当事者それぞれにとって重要な点を意識しつつ、弁護士やその他のアドバイザーとも相談しながら粘り強く交渉を行っていく必要があります。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る