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成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

 

小林剛氏プロフィール

小林剛1

(こばやし・ごう)1979年米ニューヨーク生まれ。青山学院大学文学部(考古学専攻)卒業後、チューレーン大学法科大学大学院卒業。その後ハワイ最大級の法律事務所、Goodsill Anderson Quinn & Stifelにてシニアアソシエイツ弁護士として経験を積む。2013年にGO法律事務所を設立

 

小林剛氏の生い立ちとこれまでの歩み

 

イゲット 剛先生はハワイで生まれたんですか?

小林 ニューヨークです。父親が大日本印刷勤務でニューヨークに駐在に行って、その時に生まれました。

イゲット:ニューヨークには何年くらいいらっしゃったんですか?

小林 5歳までいました。そこから父親がLAのオフィスに異動になって、5歳から9歳までLAで育ちました。

 でも、9歳の時に父親が「日本に帰りたい、このままアメリカにいたら子供達がアメリカ人になってしまう」と言い出しまして、家族4人で帰国しました。うちの両親は、どちらかというと子どもを日本人として育てたいという思いが強かったようで、その後は大学を卒業するまでは日本で暮らしました。小学校は公立、中学校、高校は私立。帰国子女ではなく、一般の学生として学校に通いました。

イゲット 日本にいきなり戻って全く問題がなかったんでしょうか。浦島太郎みたいな感じではなかったですか?

小林 小学校3年生だったので、吸収力は結構あったと思います。まあ、1、2年くらいでやっと、みんなと同じレベルについていけるようになりました。

 そして、高校1年生の時に英語の勉強をしたいと親に伝えて、1年間だけ交換留学プログラムでミシガンに行ったんです。この時は英語で苦労しましたね。人口900人のミシガンのオスコダという小さな町で1年間英語の勉強をして、日本に帰ってきて大学受験をしました。

 

米国のロースクールに入学した理由

 

イゲット 大学では何学部だったんですか?

小林 青山学院大学では文学部史学科、考古学専修でした。大学卒業後は、就職よりもアメリカの学校にまた行きたいと考えました。英語が不完全で、ネイティブレベルの英語ではないのがコンプレックスだったんです。

 大学4年の時、皆が就職活動している一方でどうしようかなと思っていた時、父親がまだ現役で、「留学したいんだったら今しかないぞ」と言ってくれました。ビジネスの世界に興味があったので本当はMBAとか行きたかったんですが、大学卒業したてでキャリア経験も無く、MBAに行くのもどうなんだろうと思って。

 その次に考えたのが国際機関です。日本語も英語もある程度はできるし、世界を股にかけていろんな人を手伝うのも良いなと。

 青学の目の前に国連大学があるんですが、いろんな国連組織が入っていて、大学在学中にインターンで雇って頂いたんです。ボランティア精神が凄く強く、お金とか関係なしに人類を救いたい、世界を救いたい、そういうモチベーションの高い人たちが集まっていたのですが、そこに合わない自分がいてこれも違うなと。ビジネス系、営利目的系の方が興味があったんですね。

 それで、3つ目に思いついたのがロースクールでした。うちの姉が、ロースクールを出ていたので話を聞くと、「絶対やめろ。ただでさえ大変なのに、他の人たちよりスタートが遅れてるから相当苦労する」と。

イゲット アメリカのロースクールのことですか?

小林 アメリカのロースクールです。僕はただ英語を完璧にしたかったので、逆に良い試練だと思ったんですよ。3年間みっちり修行できるのは素晴らしい。めちゃめちゃ本を読んで書いて人前で喋らなければならないなら完璧だ、と。

 それで大学4年生の時に、ロースクールに入るための塾で試験を受けたのですが、全然駄目でした。そこで英語を基礎から勉強をするために、大学卒業後に単身でニューヨークに渡り、コロンビア大学へ1年間通ってだいぶ自信がつきました。

 その後、ルイジアナ州ニューオリンズ市にあるチューレーン大学というロースクールに受かったので、ニューヨークから引っ越して3年間勉強しました。ただ、勉強しても全然追いつけず、そこで初めて挫折みたいな感じを味わいました。

 その後就職のためにいろんな法律事務所を受けたんですが、ハワイはそのうちの1つでした。

 グットシル・アンダーソンという事務所があるんですが、一応ハワイでは最大級で、当時は弁護士が90人くらい、スタッフがその倍いて、大体180人位規模の事務所でした。ロースクールでトップクラスでないと、採ってくれないような事務所だったんですが、日本語が出来るというだけで、目をつけていただいて、もし興味があったら来いと。ロースクールの成績はそれほどではなかったのですが、オファーをいただきました。

 それが12年前、2007年です。フジモト先生と2人3脚で、日本の主に大手企業のハワイ進出をお手伝いして、M&Aや商業不動産買収について勉強させていただきました。

小林剛2

「英語を完璧にしたい」という理由でロースクールに入ったのが弁護士となるきっかけだった

 

無職の時期を経て自ら法律事務所を開く

 

小林 6年間実践で学んで、このまま弁護士でやっていくのか、それともキャリアチェンジするのかを考え始めたんですね。ビジネス関係にすごく興味があって、その時に西のコーリナリゾートを開発した、ジェフ・ストーンという方に声を掛けていただいたので、事務所を辞めてそっちに行ったんです。でも実は6か月でクビになったんですよ。

イゲット なぜですか?

小林 仕事はコーリナリゾートの不動産開発がメインで、僕は事務所で不動産もやっていたんですけど、開発じゃなくて買収が主だったんです。開発は全く経験が無い事は言っていたんですが「いくらでも教えてやる」と。それならという事で行ったんですが、みなさんすごく忙しくてそういう余裕が無く、やっぱ即戦力じゃないと厳しいという事になりました。1人目の子供が生まれて、約6か月で無職になってしまいました。

 ただ、不思議にもあんまり焦りは無かったですね。初めて仕事が無い時期が生まれて、あ、僕は今、何やっても良いんだと。どんなキャリアを選んでも良いんだっていう、ちょっとワクワク感があったんですよ。

イゲット え~、ポジティブですね。

小林 ポジティブは良い言い方で、悪い言い方だとおそらくアホですね。それでネットで普通の仕事を探していたんですけど。

イゲット 弁護士は嫌だったんですか?

小林 嫌というより、やはりビジネスをやりたかったんです。法律の資格はあったので、例えばインベストメントバンカーなどで、弁護士と一緒にM&Aのお手伝いをしたりすれば、役に立つかなとか考えていました。

 そしたらある日、以前働いていたグッドシルの事務所でお手伝いしたお客様から、ケータイに電話を頂いて「前の事務所に連絡したらもう辞めたと聞いたけど、何しているんだ」と。僕が「プータローです」と答えたら、「もしよければリーガルの手伝いが必要なんで、手伝ってくれないか?」と言われました。

 僕も所得が無かったので、「全然良いですよ」と。それでインカムが入るようになって、安いフィーでやっていたので、話が少しづつ広がっていろんな方からご依頼をいただくようになりました。

 それで、自分の事務所を開いてみて、やってみるのも面白いかもしれないと。もし駄目だったら畳んでまた職を探せば良いし、設備投資もかからないし失うものは無いという事ですね。当時住んでいた小さいコンドミニアムの部屋の一角を仕事場にし、半年後くらいにアラモアナビルの家賃1500ドルくらいの小さなスペースを借りて正式に事務所を始めました。

イゲット それが2013年でしたよね。

小林 もう7年目ですね。それから仕事が広がり、人も増えていき、弁護士も追加し、だんだん形になっていきました。今は弁護士4人、スタッフ5人の計9人。去年、ニューヨークのオフィスも始めて、そちらはパートナーの弁護士1人と、パラリーガルが1人という感じです。

 

ハワイでの法人設立、M&Aの注意点とは

 

イゲット ハワイで法人を設立する時の注意点や、法律的に抑えておくべきポイントはありますか。

小林 リスクの高いビジネスに関しては、現地法人を作る事をお勧めします。日本法人でハワイ州に支店登記する方法もあるんですけど。

 例えばレストランで事故があって過失の場合は損害賠償が発生する訳で、責任・賠償はすべて会社が負担しなければいけない。日本の会社の支店だと、日本の会社が責任を負わなければいけなくなります。アメリカは訴訟大国なので、日本の会社を関与させたくない場合、ハワイに別法人、現地法人を作って、切り分けた方が良いですね。リスクが低い事業になると、日本の法人でも良い場合もあります。

 主に現地法人で利用されるのが、株式会社かLLCという法人形態なんですが、2つとも法人としてのプロテクションはあるので、法的にはさほど変わりありません。

 ただ税務的には株式会社だと法人税が発生します。LLCの場合、ワンオーナーだと、法人税が無く(法人税が課税されるよう選択することは可能ですが)、事業の所得がオーナーの個人的な所得としてみなされるので、オーナーが個人的に確定申告するという税務的な違いが出てきます。リーガルプロテクション的にはオーナーや取締役、執行役員は個人的な責任を負う事が基本的には無いので、そのようにアドバイスはさせていただいています。

イゲット 日本企業が現地企業をM&Aするときの注意点や、見るべきポイントについては。

小林 まず初めに、どう値段をつけるかが最初の方の課題だと思います。例えば利益ベース、資産価値ベースでやるのか。全く資産価値の無い、利益も出てない会社を高い値段で買われる方もいるので。そういった所は会計士やビジネスコンサルタントや法律事務所で相談して決めた方が良いんじゃないかなと。

 M&Aで会社ごと買う場合、ターゲット会社の資産、負債、全部ついてくるのでちゃんと何を引き継ぐのか全て理解しなければいけません。大体1、2か月でパパっと買いたいという方が多く、可能であればそれで良いんですが結構時間がかかることもあります。

 M&Aを行う際に、どこかにリースしてて、その地主の同意が必要だというケースがよくあります。対応が遅い地主もいるので、すると結構クロージングが遅れることもありますね。飲食でリカーライセンスがある場合は、リカーコミッションから予め承認を貰わなくてはいけません。

 後は、他のライセンス・パーミットを持っている事業や政府機関が絡んだりすると、時間のコントロールが効かないこともあります。なので、あらかじめどこの同意・承認が必要なのかを確認して、現実的にどのくらいの時間が掛かりそうかを頭に入れて、のちのビザの申請なども計算した方が良いと思います。

小林剛PHOTO3

ハワイでM&Aをする際の注意点について説く小林氏

ハワイ独特のビジネス慣習の理解と事前調査が鍵

 

イゲット ハワイでビジネスを成功させるための秘訣はありますか?

小林 ビジネスを始める前に、どれだけ下調べをするかが大事です。ハワイの独特なビジネス慣習、法慣習は、実際に人とか土地に触れないと解りません。時間をかけてハワイの事を勉強して、知って貰うのが凄く大事かなと。

 不動産を買ったり、オプショナルツアーに参加したり、飲食店に行ったりして、消費者として自分が思う事もあるでしょうし、自分だったら嫌だとか、勉強してから僕はこうしようとか、こういうのが無いからこういうのを提供するというのが、一番成功の近道じゃないでしょうか。

 ただ、弁護士としてビジネスのアドバイスは基本しないんです。成功例と失敗例は共有できますが、成功例と同じ事をやって必ずしも成功する訳では無いですから。あくまでもご参考にしていただく程度で、来る前のデユーデリジェンスが秘訣かなと思います。

イゲット 確かにそうですね、あと感覚的にセンスのある人っていますよね。

小林:すごい細かく論理的に攻めていける方は強いですね。数字、事業計画的にもそうですし、もちろんパッションも大事なんですが、パッションもありながら論理的に考えられる方は成功されているケースが多いような気がします。小林剛PHOTO4

 

日本人顧客にワンストップで応える総合法律事務所に

 

イゲット 今後の剛先生の夢は、ローデパートメントみたいな事務所にすることですよね。

小林 日本から来ている日本人で、ハワイ州資格を持っている弁護士はご存知の通り何人かいます。弊事務所の場合、日本語と英語はスタッフ全員が話せて書けますし、そこを売りにしていますが、それ以上に日本人顧客対応の総合事務所、ワンストップでお手伝いできますよというのを目指しています。

 おっしゃる通り、日本人のための、アメリカ法の総合デパートみたいな感じです。アメリカ全体を見ても、全員日本人で、日本人対応のアメリカの総合事務所は多分無いと思います。どうせやるなら、誰もやっていないことをやりたいですね。

イゲット 1つのローデパートメント、ロービジネスとして、ご自身が本来やりたかったことが達成できますね。

小林 何かしらビジネスにも関わりたいという原点に戻っているんですよ。法律事務所でもあり、ビジネス的な事も考えながらやっていきたいという思いが、こういう結果につながっているんだと思います。

イゲット千恵子氏

(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

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