政治・経済

昨年の就任以来、再建を進めてきた平井一夫・ソニー社長。その成果は着実に積み上がっており、懸案のエレクトロニクス事業も今年度には黒字化を達成できる見込みだ。その一方で、ソニーの今後の成長を揺るがす状況が生じている。 (本誌/村田晋一郎)

着実に成果を上げ 13年度は攻勢に

 ソニーの平井一夫社長が就任2年目を迎えた。先日行われた経営方針説明会において、平井社長はこの1年を次のように振り返った。

 「昨年の就任時に課された最大の使命はソニーを変革しエレクトロニクス事業を再生すること。就任以来、ソニー再建の土台となる地道な仕込みを着実に行ってきた。また、財務体質強化のための施策も実行した」

 その結果、12年度の連結業績は5年振りに純損益の黒字化を達成。グループの中核事業であるエンターテインメント事業と金融事業は多くのヒット作品や顧客満足の高いサービスを生み出したことで、売り上げ、営業利益ともに前年度の業績を上回る成長となり、グループ全体の業績に大きく貢献した。

 一方で、目標として掲げたエレクトロニクス事業の黒字化は未達に終わり、懸案のテレビ事業は9年連続赤字となった。しかし、改革の成果は着実に積み上がってきており、「全体の進捗は予定どおり第1フェーズを終了し、今年度は変革の7合目、8合目に進める状況」だという。

 テレビ事業の再建は、当初の計画に従って12年度はいたずらに数を追うのではなく、固定費の削減とオペレーションの効率化に注力し、経営体質の強化に努めた。具体的には高付加価値モデルへのシフトを徹底。日本市場全体で薄型テレビの販売台数は減っているが、46インチ以上の大型サイズの金額ベースの構成比は11年度の16%から12年度は36%に大きく伸び、大型サイズのニーズが強まっている。こうした中で、ソニーは大型サイズの上位機種で年間1位のヒット製品を出すことができ、収益改善に大きく寄与した。その結果、12年度のテレビ事業の赤字額は前年度比で半分以上減少し、13年度の黒字化に向けた収益改善計画が想定以上に進んでいるという。

 13年度からテレビ事業は攻めの体勢にシフトする方針。高付加価値モデルのラインアップ拡充や販売台数の強化を狙いながら、引き続き固定費やオペレーションコストの低減を継続的に進め、黒字化を目指す。

 エレクトロニクス事業の成長に向けては、モバイル、イメージング関連、ゲームの3つのコア事業を牽引役と位置付けている。12年度のコア事業は、厳しい市場環境も影響して、スマートフォンを除く多くの主要製品の売り上げが当初の計画を大幅に下回る結果となった。その中でもスマホではフラッグシップとなる「Xperia Z」を投入したほか、成長分野であるミラーレス一眼カメラではシェア1位を堅持。今年の年末には次世代ゲーム機「プレイステーション4」を投入する予定で、13年度以降もコア事業の強化を加速する方針。この3つの事業で14年度のエレクトロニクス事業の売り上げの約65%、営業利益の約80%の創出を目指す。

米投資ファンドが事業分離提案の揺さぶり

 経営説明会で平井社長は、「景気回復の追い風の中でいかにモメンタムをつかみ、攻めの体勢に転じるかが今年の課題」と今後の抱負を語った。1年目の経営改革の成果を基に2年目は攻勢を掛けたいところだが、ここに来て水を差す事態が生じている。

 持ち株比率6%の大株主である米投資ファンド・サードポイントが経営改善を要求し、事業分割を提案している。サードポイントとしては、映像や音楽などのエンターテインメント事業とエレクトロニクス事業との連動が薄いと判断。サードポイントCEOのダニエル・ローブ氏が平井社長に宛てた5月14日付書簡では、エンターテインメント事業の約15~20%をIPOさせ、その上場益でエレクトロニクス事業の再建を進めるよう求めていることが明らかとなった。

 経営説明会でもサードポイントの件は話題に挙がり、平井社長は次のように語った。

 「ソニーグループの中核事業もしくは、ソニーグループのこれからの運営の方法にかかわってくる大事な案件であるため、取締役会で十分な議論をして、回答したいと考えている。また、株主から提案された非常に重要な案件でもある。常々、株主とはプラス志向の対話を期待しているため、取締役会を中心に議論していきたい」

 これから議論をスタートしていく段階であり、平井社長も現時点では否定も肯定も明らかにしていない。また、ソニーとサードポイントの関係も現時点で敵対的な状況ではない。「十分に議論する」との発言も大株主を立ててのものなのか、前向きな姿勢の表れなのかは分からない。

 サードポイントによると、エンターテインメント事業が上場することで外部の目にさらされ利益率が競合他社並みになれば、6250億円の価値が生み出されるという。しかし現実的には、ソニーが映像および音楽事業を手放すことは考えにくい。ハードウエアとコンテンツの融合が進む中、豊富かつ優良なコンテンツ部門を抱えることが、他の電機メーカーにはないソニーの強みだからだ。投資ファンドは現在の相乗効果が薄いと判断するかもしれないが、エレクトロニクス事業を再生するならば、コンテンツ事業を自社で抱え続ける必要がある。しかも自社の成長の牽引役を果たすような優良なコンテンツならなおさらだ。

 IPOは株式の約15~20%で、残りの80%以上はソニーが保有するため、エンターテインメント事業とエレクトロニクス事業の融合を阻害することにはならないというのがサードポイント側の主張だが、その15~20%を突破口に将来的には切り崩される可能性がある。ソニー経営陣の決断次第では、「ソニーの終わりの始まり」になるかもしれない。

 提案を否定するにせよ肯定するにせよ、これから成長軌道に載せようかという段階で、株主対応に時間と労力を割かれることはソニー経営陣にとって好ましい状況ではない。業績好転の裏で、平井体制の2年目のスタートは大きな不安材料を抱えることになった。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

永田町ウォッチング

一覧へ

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る