政治・経済

シャープは奥田隆司社長が退任し、髙橋興三副社長が社長に昇格する人事を発表した。任期1年余りでの退陣は異例だが、経営再建にある程度のめどが付いたタイミングで経営体制を刷新し、過去と決別することで再び成長軌道に乗せていくという。(本誌/村田晋一郎)

旧経営陣の影響を一掃し過去との決別を図る

 「今日が新生シャープのスタートの日だ」

 シャープの奥田隆司社長は自らの退任会見でこう語った。

 シャープは、中期経営計画の発表に先立ち、奥田社長と片山幹雄会長の退任を発表。6月25日付で奥田社長は代表権のない会長に、片山会長はフェローに退き、後任の社長には髙橋興三副社長が就任する。奥田社長は昨年4月に就任してからわずか1年余りでの退任となる。

 奥田社長は退任理由として、主力銀行から融資の必達条件だった2013年3月期下期の営業黒字化を達成したこと、さらに主力銀行から追加融資の内諾を受け、最大の懸案であった資金繰りにめどが付き、14年3月期の黒字化など経営再建の道筋が立ったことを挙げ、1つの区切りと考えたという。また、奥田社長は退任にあたって、「経営再建の指揮を執る社長として最低限の責任は果たした」と語った。その経営再建の過程で、昨年は62年ぶりに早期希望退職を実施したほか、給与および賞与の削減などで従業員に痛みを強いたことを重く受け止めており、自ら退任することでけじめを付ける格好だ。

 しかし社長退任でシャープが生まれ変わるということを奥田社長自身が語るのは、自虐的で自己否定そのもの。そして、奥田社長は会見で「過去との決別」を何度も口にした。それが今のシャープの異常な状況を物語っている。

 奥田社長の在任中、前会長の町田勝彦相談役や片山会長の影響が大きく、リーダーシップを発揮できたとは言いがたい。昨年は外部との提携に活路を見いだそうとしたが、俎上に載った他社との提携の話も、台湾・鴻海精密工業は町田相談役、米クアルコムおよび韓国サムスン電子は片山会長の主導によるもの。奥田社長の対外的な存在感は薄く、ガバナンス上の問題になっていた。今回シャープが決別する過去とは社長経験者の経営への関与なのだろう。このガバナンス上の問題を一掃すべく、奥田社長自ら身を引くことで社長経験者の退陣を促し、過去との決別を図る。新体制では、現行12人の取締役を9人に減らすなどスリムな役員構成で、髙橋次期社長へ権限を集中させる。

 髙橋次期社長は、事業本部の技術部門を皮切りに営業、海外事業本部などさまざまな部門を経験。昨年4月に副社長に就任するまでは米国に本部長として赴任、米国のビジネスをまとめてきた。

 「昨年4月に米国から帰ってきて、当社の置かれている非常に厳しい状況と社員の必死の頑張りを見てきた。4月下旬に社長就任の話があった時に、もう全力でやるしかないと考えた」と顔を紅潮させながら、自社への想いと今後の意気込みを語った。

液晶事業の復活を期すが、厳しい事業環境

 12年度決算は売上高が2兆4785億円で、1462億円の営業赤字、5453億円の純損失を計上。これを中期計画初年度となる13年度には売上高2兆7千億円、営業利益800億円、純利益50億円まで回復させる。14年度からは再成長ステージと位置付け、計画最終年度の15年度には売上高3兆円、営業利益1500億円、純利益800億円の目標を掲げている。そのための重点施策の1つとして、液晶事業の収益改善を進める。近年のシャープの不振の元凶は液晶事業の投資失敗だが、髙橋次期社長は「液晶は今後も柱の1つ」と位置付ける。

 その液晶事業に関連して、就任会見の翌週、同社は新製品発表会を行った。ひとつは液晶テレビで、4K対応液晶テレビ「AQUOS UD1」シリーズを発表した。テレビ事業については、高付加価値の70~80型の大型テレビを主戦場ととらえ、次世代の4Kテレビを展開する。同社の4Kテレビは、既に「ICC PURIOS」を発表しているが、ハイエンドユーザーを対象としたホームシアター向け製品だった。現在4Kテレビは各社が普及価格帯の製品を投入しており、今回、シャープも一般家庭向けとしてAQUOSシリーズで4Kテレビを発表した。価格は70V型が約85万円、60V型が約65万円を想定しており、1インチ当たり1万円を超えている。4Kテレビはまだ十分なコンテンツが揃っていないが、既に中国メーカーも4Kテレビを発売し、その価格は1インチ3千円を切っている。既存の薄型テレビと同様に4Kテレビでもコモディティー化が進もうとしており、4Kテレビだからシャープが復活できるという状況にはない。

 もうひとつはスマートフォンで、シャープが期待する新型液晶「IGZO」の搭載製品だ。昨年末に発売したNTTドコモ向け「AQUOS PHONE ZETA」は発売5カ月で約60万台を販売し、家電量販店の販売ランキングで8週連続1位を獲得。12年度下期の携帯電話シェアを大きく引き上げた。今後はNTTドコモ向け以外にもIGZO搭載製品のラインアップを拡充し、14年度にはスマートフォンの全機種をIGZO製品とする方針。しかし、IGZO頼みでも見通しは決して明るくない。

 IGZO搭載製品の先鞭を付けたドコモは、米アップルの「iPhone」を扱う他のキャリアへの対抗手段として、「ツートップ戦略」を打ち出した。サムスンの「Galaxy」、ソニーの「Xperia」の2機種の販売を強化するというもの。携帯キャリアがこうした戦略を公にするのは異例だが、そこにシャープ製IGZO搭載製品は含まれていない。確かにIGZOの低消費電力は最大のセールスポイントだが、スマートフォンに求められる機能はそれだけではないということだろう。いずれにせよ、ツートップ戦略の影響は避けられない。

 髙橋次期社長は、「シャープには良い技術があるが、それを生かせる企業風土ではなかった」と近年の状況を振り返る。新体制では、まさに技術の生かし方が問われることになる。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩) 草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール   測量とアートが結び付…

草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る