政治・経済

政府は日本郵政の坂篤郎社長(66歳)を就任から半年で更迭し、後任に東芝相談役の西室泰三氏(77歳)を起用する。日本郵政のトップ人事は公社時代の生田正治氏以来、時の政権に翻弄されてきたが、今回、またしても暗闘が繰り返された。 (ジャーナリスト/高橋昌平)

政権移行期の強行人事に激怒した菅官房長官

 事の発端は昨年12月19日、斎藤次郎日本郵政社長(77歳)が突如辞任を発表、後任に同じ旧大蔵省出身で副社長として斎藤社長を補佐してきた坂篤郎氏の昇格を決めたことだった。

「この会社は株式会社でございまして……」。斎藤前社長はこの日の記者会見で「民間企業の社長が後任を選び、正式に取締役会で正式に承認された」と弁明したが、時は自民党が圧勝した衆院選直後で、安倍政権発足の直前だった。既に官房長官に内定していた菅義偉氏が激怒。石破茂幹事長も「政権移行期の間隙に乗じた財務省出身者のたらい回しだ」と猛反発した。

 日本郵政は5月22日に取締役会を開き、東芝相談役で郵政民営化委員会委員長の西室泰三氏を社長に起用するなどの取締役人事を決めた。6月下旬の株主総会で正式に決定するが、坂篤郎社長ら18人の取締役のうち17人が退任するなど経営陣は一新される。

 2009年10月、日本郵政を支持母体とする国民新党が連立を組んだ民主党政権が誕生。当時の国民新党代表・亀井静香元金融・郵政改革担当相の推薦で大物大蔵次官OBの斎藤氏が日本郵政の社長に就任した。しかし、前回の総選挙で国民新党は消滅し、亀井静香元金融・郵政改革担当相とともに斎藤氏を社長に据えた小沢一郎氏が合流した日本未来の党も大敗北。再び政権は自公に移った。

 政権交代で問題になったのが坂氏の処遇だ。大蔵省主計局次長を経て小泉政権下で内閣府政策統括官、内閣府官房副長官補として竹中平蔵氏に仕えてきた坂氏だが、財務省の介入を封じ込めた当時の竹中平蔵経済財政担当相と対立。農林漁業金融公庫副総裁に出された。

 冷や飯を食った坂氏は民主党の政権奪取で社長に就任した斎藤氏とともに日本郵政副社長に就任。西川善文・日本郵政元社長に近かった役員や、社外取締役だった松原聡東洋大教授など竹中色が強い幹部を次々と切った。この時、西川氏を社長に据えた菅氏をはじめとする自民党の民営化推進派の怒りを買う。

 今回の新体制では副社長には元総務事務次官の鈴木康雄氏と三井不動産特別顧問の曽田立夫氏を充てる。15年秋の上場を目指すための政府主導のシフトだ。東京証券取引所会長、郵政民営化委員会委員長を務めた西室氏の経験、旧郵政省出身の鈴木氏の手腕に期待する声もあるが、郵政関係者は「事業計画はすべて白紙に戻る。これでは改革は一歩も進まない」と嘆く。

 会長ポストは廃止し、会長の西岡喬氏のほか奥田碩・元トヨタ自動車会長(現国際協力銀行総裁)ら13人の社外取締役も全員が退任する。新たに、次期日本商工会議所会頭に就任する新日鉄住金取締役相談役の三村明夫氏、奥田経団連会長の後を継いだキヤノン社長兼会長の御手洗冨士夫氏、そして御手洗経団連会長を支えたJXホールディングス相談役の渡文明氏、三菱地所会長の木村恵司氏ら7人を取締役に起用する。

米国政府とのパイプが頼みの綱の西室新体制

 この政府主導による人事には異論も多い。確かに政府は日本郵政株式の100%を保有したままだが、会社法に基づく委員会設置会社の日本郵政の人事は、奥田氏が委員長を務める指名委員会の決定を経て、株主総会の承認を経て決められるはずだ。「この会社は株式会社」と居直った斎藤前社長の姿勢も問題だが、一応民間会社の体裁をとっている日本郵政のトップを政府がすげ替えるためには、指名委員会委員長の奥田氏ごと総取っ替えするしかなかったと言える。

 「自民政権としては、民主・国民新党色を一掃したかった」(関係者)というが、指名委員会委員長の奥田氏らを切るのは郵政民営化を推し進めてきた自民党の自己矛盾でもある。

 奥田氏は09年の正月から始まった「かんぽの宿」売却をめぐる鳩山邦夫元総務相と西川氏とのバトルで西川氏を擁護した。しかし、同年10月の民主・国民新党政権の誕生で亀井静香金融・郵政改革担当相の下で「小泉?竹中民営化路線」からの転換が鮮明となり、政府の命を受けて社長の座に固執する西川氏に辞任を迫り、斎藤次郎体制でも社外取締役として残った。

 政権交代の間隙を突くような斎藤氏から坂氏への禅譲も「坂を代えたら参院選はもたない」と支持した。菅義偉官房長官とすれば「裏切り者」だろうが、政治に強い影響力を持つ全国郵便局長会(全特)は今年7月に予定されている参院選に前会長の柘植芳文氏を組織内候補として自民党から擁立する。自民党の石破茂幹事長もこれを了承し、自民党候補として公認している。奥田氏は自民党執行部に対し郵政票を取り込むようアドバイスしたのだ。

 奥田氏は経団連会長時代、05年8月の「郵政解散」でトヨタグループが全面的に自民党を支援するよう指示した人物だ。奥田氏と郵政との関係は小泉内閣初期時代の02年にさかのぼる。

 この年に「日本郵政公社設立委員会」が発足し、奥田氏はその座長に就任。翌03年に発足した日本郵政公社の理事就任は辞退したものの、07年10月の日本郵政発足と同時に社外取締役に就任した。奥田氏は自民党が進めてきた郵政民営化路線の中枢にいたのだ。

 郵政にとって一筋の光明は、郵政事業に理解がある西室・鈴木体制の下、親会社と3事業会社との一体経営が進むことだ。傘下の日本郵便社長に就任する高橋亨氏とかんぽ生命保険社長の石井雅実氏、そしてゆうちょ銀行社長を続投する井沢吉幸氏は親会社の取締役を兼務する。 しかし政府のTPP交渉参加で、ゆうちょ銀行が求めている住宅ローンの認可、かんぽ生命の新規事業には暗雲が立ち込めている。米政府関係者との間に太いパイプを持つ西室氏がどうかじ取りするのか、ここが唯一の期待なのかもしれない。

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