マネジメント

筆者プロフィール

松嶋洋(まつしま・よう) 元国税調査官・税理士。2002年東京大学卒業後、金融機関勤務を経て東京国税局に入局。07年退官後は税理士として活動する傍ら、国税調査官の経験を生かし、税務調査対策のコンサルタントや執筆活動も行う。

税務調査手続きの法制化があまり守られない現状

 平成25年から、税務調査手続きの法制化という画期的な改正が実現していますが、私は税務調査の専門家という立場上、非常に多くの方から「法律に書かれたというのに、あまり守られていないのではないか?」という指摘を頂戴します。

 事実、私が以前立ち会った税務調査においては、調査が実施される1日前に、税務署から「税務調査の担当者を追加する」、という連絡が入りました。税務調査の担当者については、納税者が余裕をもって税務調査の準備ができるよう、あらかじめ連絡をしておかなければならないとされていますが、これでは全く余裕がないことになります。

 このあたりの法律を、税務調査官は重要視していないのではないか、と言わざるを得ない対応です。

 この点について、税務当局は「きちんと研修を行い、職員に内容を周知させていますので手続きを守らないなどということは決してありません」と説明しています。しかし、現実問題として上記のような対応がなされているわけで、本当に大丈夫か疑問が残ります。

 税務署で行われる研修について、現職時代の経験を申しますと、一般の職員が真剣に内容を聞くことは基本的にはない、というのが正直なところです。日常業務に追われる税務職員にとって、その業務を中断してまで研修を受けるのは非常に億劫ですし、何より税に関する法律の勉強は彼らが最も嫌うところです。

 以上を踏まえると、研修を実施しているから大丈夫、というのは上層部の思い込みにすぎず、法律を守るためのきちんとした業務手続きが内部で整備されない限り、今後ともこの法制化が厳密に守られない事態はむしろ散見されるのではないか、と考えています。

 困ったことに、上層部の足取りは遅く、大きな問題が起こるまで必要な整備がなされないことが通例です。クレーム担当部署に苦情を申し出ても、税務当局の対応が大きく変わることは基本的にはありません。

 こういうわけで、先の税務調査手続きの法制化の内容は、私たちがきちんと勉強し、相手に納得してもらえるよう主張していかざるを得ない、というのが正直なところです。税務調査を受ける私たちの権利として、法制化が有益であることは相違ないわけですから、税理士に相談するなどして有効に活用したいところです。

 非常に残念なことですが、税務当局が税金の計算が正しいか否かを判断し、法律に則って是正させるのではなく、納税者が税務当局のやることが正しいか否かを判断し、不当な面があれば抗議しなければならないのが税務調査の真実、と言えるのです。

税務調査官への権利主張で押さえるべきポイント

 ところで、税務調査官に権利主張する上で押さえていただきたいのは、以下の2つです。

 ひとつは、できるだけ上職の職員と直接交渉することです。すべての税務調査官がそうではありませんが、税務調査官の中には、事を荒立てて自分の立場が悪くなったり、余計な手間がかかったりしないよう、自分に都合の悪い、軽微と判断できる事実は敢えて上司に報告しない、と考える職員もいます。

 このようなことのないよう、責任のある上司に事実関係と不当性をきちんと直接説明するように努めましょう。

 もうひとつは、単に口頭で主張するのではなく、事実関係と法律の根拠を記載した書面を活用して主張を行うことです。税務署は提出される文書について、受け取りを拒否することは基本的にはできません(面倒な書面を提出させないように説得することはありますが)。提出の際、控えの書面があれば、受付印を押して返却することとなっています。

 このため、文書が提出されれば、税務署としては真剣に内容を吟味せざるを得ず、結果として論理的な主張が確実に税務署の担当者に到達しますから、税務調査でよく見られる、「記録の残らない会話で穏便に済ませる」事態を排除することができます。

 

筆者の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

立志財団

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る