マネジメント

1948年創業のホッピービバレッジを継いだ3代目の石渡美奈社長は、江戸っ子風情を漂わせ、廊下で社員とすれ違うと、「よっ!」とばかりに威勢よく「おはよう」と声を掛ける。2003年に副社長、10年には社長に就任し、同社の年間売り上げを約5倍に成長させた石渡社長が考えるリーダーシップとは何か。聞き手=唐島明子 Photo=山内信也(『経済界』2020年3月号より転載

 

石渡美奈氏プロフィール

石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)

いしわたり・みな 1968年生まれ、東京出身。立教大学卒業後、日清製粉(現・日清製粉グループ本社)に入社。93年に退社し、広告代理店を経て、97年に祖父・石渡秀が創業したホッピービバレッジ(旧・コクカ飲料)に入社する。2003年に副社長就任、10年には社長に就任した。

 

ホッピー3代目社長として受け継ぐものと革新するものとは

 

社員との結びつきが濃い会社

―― ホッピービバレッジは、ロングセラーの「ホッピー」に代表される老舗企業です。石渡社長は3代目ですが、どのようなものを継承してきていますか。

石渡 創業者である祖父の代から現在まで流れているのは、いい意味での家族的経営の文化ですね。祖父が植え付けてくれて、父が育てて、私が受け継いで。万が一、社員がギャンブルにはまっているとかお金の使い方に問題があれば、そこにも介入してしまうくらい、社員との結び付きがものすごく濃ゆいです(笑)。

 江戸時代の従業員は丁稚で住み込みで働き、読み書きそろばんなどの教育をしたりしていました。そこから連綿と続いている日本の中小企業の強みのようなところは、ホッピービバレッジの企業文化の根っこにあります。ただし家族ではないので社長と社員、上司と部下、先輩と後輩、親しき中にも礼儀ありの線引きは必要ですよね。

今なお大学院で学び新しい情報をアップデート

―― 継承するものがある一方で、変化させてきたものはありますか。

石渡 市場の移り変わりに合わせて、組織やチーム、そして商品をどう売るかを変化させてきました。私たちは70年間、「ホッピー」を主力商品としてやってきていますが、ホッピーのどの側面にスポットライトを当てるのがいいかは、時代によって変わってきます。ですから、同じものを作っているようで同じものは作っていないような感覚があります。

―― 確かに、少し前にホッピーは「古臭い」「ダサい」というイメージから脱却し、今は低カロリー・低糖質・プリン体ゼロと健康的な印象です。売り上げは、01年の8億円から18年には42億円まで伸びたそうですね。そう変化させていくためには、リーダーはどのような役割を担いますか。

石渡 目利きのように、風を読むことではないでしょうか。そのためにはいろいろな経験を積み、そして学んで、自分の中にデータを蓄積しておかなければなりません。

 私は最近、大学院へ行って学んでいますが、学校へ行かないと自分が好きな話以外は見聞きしなくなってしまいます。しかし学校へ行くと、否が応でも新しい情報が入ってきます。それが蓄積されて自分のデータベースになり、そのデータベースを作動させて風を読むんだと思います。

 トップリーダーって繊細さと大胆さを持ち合わせていますよね。バンバンバーンと大胆に突き進んでいるように見えるけれども、裏ではデータベースをグルグル回して、繊細にシミュレーションを繰り返しています。

―― 今なお学んで、データベースをアップデートしているんですね。

石渡 私は学ぶことで得られる刺激がとにかく好きなんです。そもそも自分が同じ状態でいることは退化だと感じていますし、学びを通して自分の視点や思考が変わることで、自分の可能性を一つでも多く開花させたいというのもあります。

 日本や世界を背負って立つリーダーの方々で、学ばない人は一人もいません。これは持論ですが、やはりリーダーはアウトプットが多いので、その倍以上のインプットをしなければ間に合わないのだと思います。

社長として決断する場面で決めていること

―― 風を読んだ後は、経営者として重要な決断を迫られます。

石渡 社長の決定がすべてですから責任重大ですよね。だから社員によく言っているのは、「社員の失敗では会社はつぶれないから大丈夫」ということです。実はこれは3段構成になっていて、「命は取られないから大丈夫。転ぶときは前向きに。骨だけは拾ってやるから安心しろ」と続きます(笑)。

 他方で経営者としての決断は大変ですが、私は迷いません。ただ、私も人の子なので間違えることはあると思っています。そこで1つ決めていることがあって、それは「銀行がNOと言ったら止めておこう」ということです。

 銀行のNOを突っぱねてしまって、もし会社に何かがあってもお金を借りられないじゃないですか。お金は最高の道具ですが、それが続かなくなれば会社は存続できません。だから、もし銀行がNOと言ったら、今それは私たちの身の丈ではないんだと理解して、ダウンサイジングしたり、見送ったりするのではないでしょうか。

―― 最後に、石渡社長にとって、リーダーとはどのような存在ですか。

石渡 「リーダーとは」と聞かれて、すぐにパーンと思い浮かぶのは、松下幸之助さん、本田宗一郎さん、稲盛和夫さんですね。3人の著書は今でも読めば心が震えますし、そこで語られている人づくりや組織づくり、社会の役に立つ生きがいや働きがいのようなものは、とても勉強になります。

 また、19年8月に他界した父からは常々「情熱を持って生きろ」と言われてきました。トップリーダーとして大きな夢と情熱を持ち、それを口にしたからには絶対に実行するんだという覚悟が大切になると考えています。 

 
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