政治・経済

10月1日から3日間、スペインのマリアノ・ラホイ首相が、日本からスペインへの直接投資を呼び掛けることを主な目的に来日した。そのミッションにはスペイン原子力委員会委員長も同行、都内で「スペイン原子力セミナー」を開催し話題となった。 (本誌/大和賢治)

日本をしのぐ原発知識

 10月3日、スペイン大使館経済商務部が主催する「スペイン原子力セミナー」が都内ホテルで開催。予想を大きく上回る来場者を集めることとなった。

 背景にあるのは言うまでもなく、発生から2年半を経過した現在でも収束に向かわない福島原発事故の処理問題である。

 そもそもスペインの電力事情は、化石燃料の輸入依存という点で日本と共通した課題を有している。エネルギー資源に乏しい両国は、自国で安定供給が可能となるエネルギー源として原子力発電の導入に早い段階から取り組んできた点も共通する。両国とも将来にわたり、持続的発展を遂げていく前提となるのは、エネルギーの安定供給であり、そういう意味では、原子力発電が今後も重要な役割を担わざるを得ない。

 日本が軽水炉式の原発の運転を開始したのは1970年の敦賀原発1号機だが、スペインでは、その1年前にホセ・カブレラ原発を稼働。同原発は既に老朽化により廃炉となっていることから低・中レベルの放射性廃棄物の処理実績もある。そんな状況からスペインは、福島の放射能汚染除去や原発の廃炉等、日本が直面している喫緊の課題を解決する上で格好なお手本とも言えよう。

 ラホイ首相の最大の訪日目的はスペインへの直接投資だが、同国としては、原子力分野でもこれまで培ってきたノウハウを武器にビジネスを積極化したい意向もあり、福島原発はその橋頭堡ともなる。

 今回スペイン側は講演者として、スペイン原子力安全委員会委員長のフェルナンド・マルティ・シャファウセン氏を筆頭に原子力関連における官民のエキスパートを揃えた。講演内容は、安全規制、放射性廃棄物処分、使用済み燃料の処理や中間貯蔵、原子炉施設の解体や除染の分野など多岐にわたり、スペインの原発における深い造詣を垣間見るに十分な内容となっていた。

 さらには、ラホイ首相と共に来日したカルメン・ベラ、スペイン研究・開発イノベーション担当長官が過密スケジュールをぬって飛び入りで参加。

 「われわれは原発の安全性を守るという意味では多くのノウハウを身に着けている。イノベーション担当の大臣として原発の安全性をさらに改善・除染・廃炉に至るまで日本と協力していきたい。この機会に日本とスペインの間に原発分野での協定を結ぶなど協力関係を構築できることを望んでいます」とスピーチするなどスペイン側の意気込みは相当なものだった。

技術の輸出も視野

 前述したように、原発分野に関してスペインは日本に比べ一日の長がある。

 しかし、一方で、実はスペインは国策として再生可能エネルギーにも注力しており、今や再生可能エネルギーの発電量は原子力を抜いているという現実もある。とはいえ現在でも、総発電量の約20%を原子力に依存しており、スペイン政府も既存の原発は維持していく方針だが、新設となると難しい。

 そのためスペイン政府としては、これまで培った原子力技術で、海外に活路を見いだしたいという狙いも垣間見える。

 今セミナーを後援、閉会の挨拶に立った日本原子力産業協会の服部拓也理事長は、「福島事故の教訓を共有し世界の原子力発電システムの安全性について抜本的に見直し改善するべきです。既にIAEAにおいて福島事故の包括的安全評価レポートの作成作業が開始されておりますが、これらの評価結果を反映して自国の既存の原子力発電所の安全性のみならず、今後、新興国で新たに建設される原子力発電所の安全性を一層向上させていく必要があります。これら一連の作業では日本、スペイン両国の関係者が積極的に参画し、国際的な議論をリードするなど原子力先進国として世界に貢献していくことが求められます」と原発の必要性を説く。

 福島原発は今後、数十年にわたる廃炉事業を敢行していくことになる。その過程では、溶融燃料の取り出し、汚染水対策など課題が山積しているのも事実。これらの一連の作業は、日本では、これまでに経験したことのない非常に難しい問題でありノウハウの取得も急務だ。

前述、服部氏は、「これら課題は、日本1国で解決できるものではありません。福島原発の廃炉は世界の英知を結集して国際基準として取り組んでいく必要があります。その具体策として今年8月、日本に国際廃炉研究開発機構が新たに設立され、国際社会で協力して取り組む体制が整備されました。国際協力の枠組みの中でスペインで蓄積された廃炉関連技術が出されることを期待したい」と今後の方向性を述べた。

 安全性という面では確かに再生可能エネルギーに軍配が上がるが、今後のデジタル社会のさらなる拡大等、国内で使用される電力量のさらなる増加は避けられない以上、ただ、やみくもに原発ゼロというのは現実的ではない。あくまで個人的見解だが、福島の教訓を生かした上でさらなる安全性を追求することこそが肝要ではないか。

 そういう意味では、今回のセミナーを好機に、日本とスペインが原子力分野で連携協力していくことも、将来の原子力界にとって大変意義深いことになると思われる。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る