
経済的価値を生み出さないゆるキャラのほうが多い
前回は、規制とイノベーションの関係を考えた。規制のあり方はイノベーションの生成に大きな影響を与える。また、新規参入企業を促進するような規制のあり方がインパクトの大きなイノベーションのためには重要になるという話をした。
今回は、最近どうしても気になる地域振興についての〝ゆるい〟話である。近頃の地域振興で、どこにいっても目にするのが「ゆるキャラ」である。その生息は日本全国に広がっている。最初のゆるキャラグランプリには、169体のエントリーがあった。それが、第2回には349体と、わずか1年で2倍に増加した。第2回である2011年大会では、今やすっかり有名になった熊本の「くまモン」が1位に選ばれた。13年の第3回のゆるキャラグランプリには、なんと865体ものエントリーがあったという。
ここで少し考えてもらいたい。くまモンが1位に選ばれた第2回のゆるキャラグランプリの2位と3位を知っているだろうか。第2位は今治のタオル地の「バリィさん」、第3位は西国分寺の「にしこくん」である。即答できた人はかなりのゆるキャラマニアだろう。それでは4位と5位はどうだろう。栃木県大田原市の「与一くん」、名古屋市の「はち丸・だなも・エビザベス」なのだが、こうなってくるとイメージすら湧いてこない。
それでは、くまモンの賞味期限はどうだろう。ここで言う賞味期限とは、くまモンが生み出す経済的な価値である。例えば、普通のポケットティッシュでも、くまモンがプリントされていると人々が好んでそれを買うかどうかである。くまモンは全国的にも有名になったためその経済的な賞味期限はそれほど短くない。しかし、それでも恐らく数年だろう。次のブームがくると大きくその経済的な価値は下がってしまう。2位以下のバリィさんやにしこくんなどに関してはその減損のスピードはさらに早い。ほとんど経済的な価値を生み出していないゆるキャラのほうが多いはずである。
安易な横並び思考は最悪の意思決定
300や800ものエントリーがある競争の中で、経済的な価値を生み出せるのはトップの1つか2つである。これを普通の市場に置き換えて考えてほしい。300や800もの企業が同じ土俵で競争する市場は、確実にレッドオーシャンである。レッドオーシャンでは高い付加価値は作れない(その土俵を創った側は儲かるのだが)。ジャック・ウェルチではないが、そのマーケットで1位か2位になれないのならば、早くに撤退し、貴重な経営資源をより有効に活用するほうが良い。しかし、なぜ、レッドオーシャンに正面から突っ込んでしまうのだろう。
先日、技術力の高い中小企業が集積する地方に招待していただいた。そこでもゆるキャラがウロウロしていたので、担当者に聞いてみた。そうすると「まわりの市ではどこでもやっている。うちではなぜやらないのか?と聞かれるとやらざるを得ないのですよ(笑)」という。これは競争戦略論的には、大きく間違っている。他と違うことをやるからこそ、付加価値が生み出せるのだ。「他がみんなやってるから、うちも…」というのはイノベーションという観点からしても最悪の意思決定である。これは、ゆるキャラグランプリに限った話ではない。日本企業の意思決定を見ても、「他がやっているから」「技術のロードマップにそって、ライバル企業もやっているから・・・」などという話はいたるところで耳にする。
日本の地方がどこも温泉とゆるキャラとB級グルメで地域振興をすればするほど、顧客は飽きてくる。また、海外からの訪問者は、ゆるキャラの着ぐるみがウロウロしていても意味が分からない。海外の富裕層が楽しみたいのは、B級グルメではなく、レベルの高い日本人のシェフが創る和食やフレンチだろう。
そのような顧客をしっかりと掴み高い価値づくりをしている良い例が、香川県の直島だろう。直島は、ベネッセが中心となって、近代美術の島になっている。美術館と一体になっているホテルにはテレビもない。ゆっくりと瀬戸内海と近代美術が融合するのを楽しめるようにである。もちろん、ゆるキャラやB級グルメはない。直島のように、しっかりとその地域の特色の本質と新しさを融合させることが、持続可能性の高いイノベーションには必要である。ゆるキャラグランプリに参加するほど簡単なことはない。しかし、それでは本当の高い価値は生み出せない。自分でしっかりと創り出したい価値を考える必要がある。イノベーションはお手軽には生み出せない。あなたの会社の意思決定も振り返ってほしい。
「他社がやっているからうちも……」というのは競争戦略論的にもイノベーションの観点からしてもまずい。
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