テクノロジー

サイバー攻撃者に対抗できる技術力を持つ正義のハッカーを育てたい

 

宮本久仁男氏

宮本久仁男氏

 2013年暮れのことだが、サイバー攻撃問題に関して重大な出来事があった。

 11年8月に起きた三菱重工業(東京都港区)に対するサイバー攻撃(標的型メール攻撃)事件が、犯人の特定に至らず、時効を迎えてしまったのだ。

 この間、攻撃に使われたサーバーは北米で中国籍の女性が開設したことが分かり、公安部は中国当局に照会したが、回答はなかった。このことは外国からサイバー攻撃を受けた際の捜査の難しさを如実に示している。 

 さて今回は、株式会社NTTデータ(東京都江東区)品質保証部情報セキュリティ推進室の「NTTDATA-CERT(Computer Emergency Response Team)」シニアエキスパートである宮本久仁男氏の最終回。

-- 前回、宮本さんはコンピューターの「キーパーツ」であるソフトウエアには脆弱性が付き物だと言いました。ソフトウエアの作り手側は、脆弱性があることに気付いていながら知らんふりをしていた?

宮本 少なくともサポートを実施する必要があるソフトウエアについては、そういうことはないでしょう。作り手側も「どういう形で作ればバグを少なく、つまり脆弱性を少なくすることができるか」「仮に脆弱性があっても別のところでカバーできないか」などと日々考えながらプログラムなり、システムを作っていると思います。

 しかし悪い人は、そのような作り手の思考を出し抜こうとします。結局は、脆弱性を悪用しようとする悪い人との知恵くらべということになりますね。

-- われわれ消費者は欠陥商品としてのソフトウエアを買わされているわけですか。

宮本 極論を言えば、確かにそうとも言えますが、バグのない状態でソフトウエアを世に出そうとすると、物すごくコストが掛かるともいわれています。

 今、私たちはウインドウズ1つを数万円で購入することができます。ところが脆弱性が完全になくなるまで世に出さないということになると、そのコストが製品価格に転嫁されて2万円のものが200万円ぐらいになる、という見方もあります。

サイバー攻撃に対するセキュリティー対策構築のための人材発掘と育成

 

-- 宮本さんはかねがねサイバー攻撃に対するセキュリティー対策を構築するために人材の発掘・育成が重要だと主張していますが。

宮本 独立行政法人・情報処理推進機構(IPA)が12年に実施した調査によりますと、現在、情報セキュリティーに携わっている人は日本国内に約23万人いると言われています。

 彼らは官庁や企業、大学の研究機関に所属しています。しかし、まだ不足しており、あと2・2万人は必要だと見られています。

 その上、既存の23万人のうち13・7万人は、残念ながら「腕のほうはまだ万全ではない」と言われている人たちです。ということは2・2万人に13・7万人をプラスした15・9万人を育成・強化する必要があるということです。

-- そうした中で宮本さんたちが取り組んでいるのが、若者を対象にした「セキュリティ・キャンプ」なんですね。

宮本 04年から始めたもので、当初は経済産業省からの委託事業でした。今は、IPAと民間団体である「セキュリティ・キャンプ実施協議会」で共催して毎年夏に開いています。

 私はそこで企画・実行委員および講師を務めていますが、この10年間で合計400人以上が参加し、この中からIT企業に就職した人や学術方面に進んだ人も出ています。

サイバー攻撃からの防御には「悪いハッカー」にならないための指導も必要

 

-- キャンプの目標は「攻撃を仕掛けてくるハッカーに対抗できるだけの飛び抜けた力を持つ正義の技術者を発掘・育成する」ことにあるとか。この「正義の技術者」とは、「ホワイト・ハッカー」のことですね。

宮本 そうです。キャンプを立ち上げる前のことですが、その当時は「ホワイト」といえどもハッカーの発掘事業について悪いイメージが一般社会に広がっていました。経産省の委託を受けた事業だったことからでしょう、ある全国紙から「国民の税金を使ってハッカーを育てるなんてとんでもない」と批判されたこともありました。

 また同じ頃、セキュリティー系コミュニティーで活動して人物が、不正アクセス行為禁止法違反で逮捕されるという事件があり、それがハッカーに対するネガティブ・イメージに拍車を掛けました。

-- どういうことですか。

宮本 事件は、その人物がある著作権にかかわる業界団体のウェブサイトに不正にアクセスし、一部の個人情報を入手した、というものでした。その人物は「警告のためであり、その業界団体にも内容は通知していた」と釈明しましたが、だめでした。

-- 「ネガティブ・イメージが広がった」とは?

宮本 セキュリティー関係者の間での情報交換そのものが下火になった、ということです。

 例えば、あるソフトウエアについて脆弱性を見つけたとします。ソフトウエア会社に「こんなセキュリティー・ホールがありましたよ」と連絡したところ「ハッカーにハッキングされた」と通報され、逮捕されてしまいかねない--。そんな懸念が広がりました。

 よかれと思っての善意の連絡が悪い方向に向かってしまうわけですから、情報交換もトーンダウンせざるを得なかったですね。

-- それでも04年、仲間の皆さんと「セキュリティ・キャンプ」を始めたわけですね

宮本 「やめろ」と言われて「分かりました。やめます」では、実際に起きたサイバー攻撃の実態を見て、それに対する防御を考える人がいなくなってしまいます。

 「そうなってはいけない」と考えてキャンプを始めました。キャンプでは、参加した若者が道を踏みはずしてダークサイドに墜ち、「悪いハッカー」にならないように、という指導も徹底しています。

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