政治・経済

幕引きにはほど遠く

 医療界と製薬業界の信用を失墜させた降圧剤「ディオバン」をめぐるノバルティスファーマの論文捏造疑惑。同社は10月、スイス本社社長のデビッド・エプスタイン氏ら幹部4人による釈明会見を行った。

 ディオバンの臨床研究論文作成にノバルティスの社員が関与していたとして、問題となったこの事件。事態を重く見た日本製薬工業協会はノバルティスの会員資格を停止。厚生労働省の検討委員会も引き続き調査を行っている。

 エプスタイン社長は「日本は当社にとって現在もこれからも重要な市場。調査には全面的に協力する」と語り謝罪したが、事件が起こった詳しい経緯などについては明言を避けたため、幕引きには程遠い印象が残った。

 医師主導臨床試験は、既に承認されている製品に対して他の製品と効果の比較を行ったり、承認されている効果以外の作用を調べたりする目的で行われることが多いため、薬事承認取得が主目的の治験とは異なり、直接的に薬事法の縛りは受けない。そのため、仮に不正があったとしても、基本的にそれ自体が法的処罰の対象となるわけではない。ノバルティス側も、今回の件は「ディオバンの安全性と有効性には全く関係がない」(エプスタイン社長)と、強調する。

 ただし、試験を通じて得たデータを使ってノバルティスが製品のPRを行ったことなどが、誇大広告に当たる疑いがあるとして調査は続いている。この点についてエプスタイン社長は「コメントするには時期尚早。厚労省の検討委員会の結論を待つ」と、言葉を濁した。

 ディオバンはノバルティスの国内売上高3200億円の約3分の1を占める主力製品。業績への影響は必至だが、「売り上げ減少より当社全体に対する評判の低下を心配している」とエプスタイン社長は言う。

 だが、イメージの低下はノバルティス1社にとどまらず、製薬業界全体に広がる可能性もある。以前より縮小の動きがあるとはいえ、奨学寄付金の名目で研究者を支援するケースは今でも製薬業界では珍しい話ではない。「ディオバン事件は氷山の一角。医療界と製薬業界の癒着は今に始まったことではない」と、指摘する医療関係者もいる。

 今後、ノバルティスは奨学寄付金の中止や管理体制の強化を行い、再発防止に努めるとしている。こうした動きは他の製薬会社にも広がるのは必至で、製薬工業会も各社にさらなる情報開示を促していく方針だ。

 現在、日本では医療を成長分野と位置付け、新薬開発の治験などに関する規制を緩める方向に向かっている。今回はあくまで臨床研究で起きた不正だが、日本ではいい加減な試験が横行しているという不本意なメッセージを発信しないためにも、早期の全容解明が求められる。

(本誌/吉田浩)

 
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