マネジメント

変更の際のリスク・マネジメントが求められる

 スルガ銀行事件東京高裁判決は、最終合意締結以降、ベンダーには「本件システム開発過程において、適宜得られた情報を集約・分析して、ベンダーとして通常求められる専門的知見を用いてシステム構築を進め、ユーザーに必要な説明を行い、その了解を得ながら、適宜必要とされる修正、調整などを行いつつ、本件システム完成に向けた作業を行うこと(プロジェクト・マネジメント義務)」が求められると判断しました。この一般論自体は、目新しいものではありません。

 しかし、契約書締結後でも開発の遂行過程で計画を変更しなければならない場合があることを認めた点、その場合ベンダーは、具体的な局面に応じて顧客(ユーザー)側のメリット・デメリットを考慮し、適時適切に開発状況の分析、開発計画の変更の要否とその内容、開発計画の中止の要否とその影響などについても顧客に対して説明する義務を負う、と判断した点は、新しい側面であると言えます。東京高裁の判断からすれば、当初想定されていた開発計画を変更せざるを得なくなった場合に、このような説明義務を果たしていただけで直ちにベンダーが債務不履行責任を免れるのではなく、説明義務を果たしたことを前提に、顧客との間で適切な協議を行い、その了解を得ながら適宜必要とされる修正や調整などを行いつつ、本件システム完成に向けた作業を行うことが求められることになります。

 もっとも、システム開発の実情を見るとこのような場合、顧客はベンダーが約束した開発計画と異なることを主たる理由として、協議そのものや「必要とされる修正、調整」に応じることを拒み、プロジェクトが頓挫、遅延することが少なくありません。他方、ベンダーの現場担当者は、このような場合でも、安易に開発中止を提案せず、種々の対応策を検討して何とか完成させようと試みるのが一般的です。したがって、このように誠実な対応をした結果の責任の公平な分担については、後知恵の弊に陥ることがないよう慎重に判断することが裁判所には求められます。その意味では①顧客が不合理に協議に応じなかった場合に発生した損害の公平な分担の枠組みや、②ベンダーが開発計画や開発手法の変更に関し顧客に対して説明をすべき時期と内容については、今後の事例の積み重ねによってさらに検討されるべき課題となるでしょう。

 ただ、そのような枠組みなどが裁判上明らかになるまでは、ベンダー側は開発計画に変更の必要性が生じた場合には、適切に議事録または電子メールなどで必要な説明をするとともに、顧客の承認を取得するよう努め、顧客が「必要とされる修正、調整」に応じなかった場合には、その事実や理由も含めて記録を残しておくこと、またベンダーと顧客との間の責任の公平な分担の枠組みについても、できる限り詳細かつ明示的に契約書または提案書に落とし込んでおくことが、リスク・マネジメントの観点から必要になるでしょう。

免責・責任限定条項の適用範囲と「重過失」の意味

 免責条項または責任限定条項の適用範囲は、みずほ証券誤発注事件、スルガ銀行事件とも重要な争点となりました。免責条項、責任限定条項は、企業間取引の場合であれば公序良俗に反するとか、故意か「重過失」がある場合を除き、当事者を有効に拘束するというのがこれまでの裁判例です。スルガ銀行事件では、当事者間の最終合意書に「契約違反、不法行為などの請求原因を問わず、現実に発生した通常かつ直接の損害に対してのみ、損害発生の直接原因となった各関連する個別将来契約の代金相当額を限度とし、また、いかなる場合にも予見の有無を問わず特別の事情から生じた損害や第三者からの損害賠償請求に基づくスルガ銀行の損害については責任を負わない」旨の規定がありました。

 しかし同事件の控訴審判決は、スルガ銀行がIBM以外の第三者との契約に基づいて最終合意以降に支払ったソフトウエア開発費用などについては「各関連する個別将来契約の代金相当額を限度」という規定は適用されず、これらの代金相当額を超える部分について免責されない、と判断しました。この契約解釈には疑問がありますが、今後契約書を作成する際には、裁判所がこのような契約解釈をする可能性があるということを認識しつつ、たとえ文言的には重複しても、第三者とのソフトウエア開発などに関する契約に基づく支払額まで当然に免責されるような明示的規定を置くことも検討する必要がありそうです。

 みずほ銀行誤発注事件では「重過失」の意味が争われ、東京高裁は、「重過失」とは結果予見可能性および容易性を前提として、注意義務違反の程度が「顕著」である場合をいう、と判断しました。みずほ銀行誤発注事件では「重過失」の意味が一審と控訴審で若干異なってとらえられたことからも明らかな通り、今後、裁判所でも判断が分かれる可能性があります。また裁判所による「顕著」のあてはめによっては、後知恵でベンダーやシステム提供者にバグ回避の可能性と容易性が認定され、利用者にばく大な損害が認定されてしまう可能性も否定できません。実務的には「重過失」の意味を当事者間で合意しておくなどの措置も、今後検討に値するものと思われます。

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