政治・経済

消費増税対策に動かず

 「企業・家計の両部門で所得から支出へという前向きな循環メカニズムが働いている。設備投資は持ち直している。公共・住宅投資も改善しており、消費は底堅く推移している」

 来年4月の消費税率の8%への引き上げ決定から3日後に行われた政策決定会合の会見で、黒田東彦日銀総裁は最近の景況をそう総括した。法案どおりに消費増税が行われるのは想定済みであり、現状の金融政策の〝異次元緩和〟を継続すると表明した。

 だが、明るい景気の未来を語るのは時期尚早。増税の決断も「日本経済はデフレと景気低迷に逆戻りするのではないか」と安倍晋三首相自身も悩んだ末のもので、消費増税による消費の冷え込みによる景気の腰折れ懸念はもちろんある。それに、金融の〝異次元緩和〟により日銀から供給されたマネーがまだ、設備投資には本格的に向かっていない危惧があるからだ。

 インフレ期待を高めて経済成長を促す政策により景況がじわじわと改善しているものの、この点は無視できない。

 今回の政策決定会合では、金融政策に大きな変更はなかったが、黒田総裁の〝異次元緩和〟で供給されているマネーの量は飛躍的に増大しており、各銀行が日銀に預けている当座預金残高をみればそれがよく分かる。

 具体的には、黒田総裁の就任翌日の3月21日の当座預金残高は、50兆7200億円。異次元緩和開始により、4月末で66兆1800億円に急増。当座預金残高の上昇はその後も続き、8月末には88兆6100億円にまで膨らんだ。さらに、9月26日には日銀当座預金残高は100兆円を上回る水準まで拡大し、9月末時点では、97兆4100億円となった。黒田総裁就任直後と比較すると2倍近くまで増えた計算となるが、同時に貸出などとして企業の資金となるべきお金がまだ、実際には供給されていないことも意味している。

 ほかにも、企業の動向は改善してきているが、パートタイム就労者増に頼った雇用改善で「名目賃金が伸びずまだ成長につながっていないのは事実」(黒田総裁)。さらには、米政府の債務上限問題など不確実な海外リスク要因もある。

 甘利明経済再生担当大臣も認めるとおり、日本経済のデフレからの脱却もまだ道半ば。当面は静観の構えを表明した日銀だが、果たしてこのままでいいのかという懸念は残る。黒田総裁は消費増税について「大変意義ある決断をされた」と評価してみせたが、増税実施までに追加的金融緩和に迫られる可能性も出てくるかもしれない。

(本誌/宮崎二郎)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

永田町ウォッチング

一覧へ

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年6月号
[特集]
なぜ、あの人についていくのか 求心力の秘密

  • ・松本 晃(カルビー会長兼CEO)
  • ・木股昌俊(クボタ社長)
  • ・迫本淳一(松竹社長)
  • ・水田正道(パーソルホールディングス社長CEO)
  • ・辻 発彦(埼玉西武ライオンズ監督)

[Special Interview]

 永守重信(日本電産会長兼社長CEO)

 売り上げ10兆円を目指す 働き方改革と人材育成の在り方

[NEWS REPORT]

◆不祥事続出でも企業が仮想通貨に群がる理由

◆通信事業親子上場に踏み切るソフトバンクの思惑

◆コーポレートガバナンスの呪縛〜お家騒動はなぜ繰り返されるのか〜

◆欧米名門大学への登竜門 ボーディングスクールが注目される理由

[特集2]

 働き方改革の闇

ページ上部へ戻る