
世界経済全体が減速傾向なのに日本は2%前後の成長を維持
去る10月1日、安倍晋三首相は予定通り2014年に消費税を8%に増税することを決定した。15年の10%への引き上げはまだ表明していないが、経済が大きく落ち込まなければ10%への増税も視野に入ってくるのだろう。
いわゆるアベノミクスは今のところ順調に推移している。黒田東彦・日銀総裁による異次元金融緩和などが功を奏し、昨年11月から円は20%前後切り下がり、日経平均は50%以上も上昇している。11年の大震災と津波によるマイナス成長を考えると現在は景気回復局面。12年は2%の成長を達成したが13年も2%を超える成長率を実現することは十分可能だろう。景気回復が至上命題であったことから、12年頃までは消費増税に慎重な見方が強かった。筆者も12年6月の時点では消費増税には必ずしも賛成ではなかった。
しかしここに来て景気は急激に回復し、世界経済全体が減速傾向なのにもかかわらず、日本の経済成長は2%前後の上昇を維持する気配だ。13年7月9日に発表されたIMFの世界経済見通しでも、日本は主要先進国の中でも最も高い成長率を達成すると予測されている。ちなみにIMFの13年の予測は、日本の成長率が2・0%、米国が1・6%、ユーロ圏がマイナス0・6%だ。ユーロ圏の中で最も好調なドイツでも成長率は0・3%にとどまるとされている。また、アベノミクスも今や英語として定着し、海外での評判も高い。久しぶりに日本経済が世界の注目の的になっているのだ。
ただ、景気回復が途上にあるために安倍首相のブレーンたちは消費増税に慎重で、毎年1%ずつの増税など、一気に8%に、さらには10%に引き上げることには慎重だった。しかし、日本経済のこのところの好調な展開が後押しして安倍首相も予定通り増税することを決断するに至ったのだ。
日本にとって増税は不可避、財政再建は至上命題である
13年度の租税および印紙収入は43兆960億円、その他収入を加えても47兆1495億円、他方で歳出は92兆6115億円、差額の45兆4620億円は公債の発行などでファイナンスされている。現在、消費税による税収は10兆円前後、消費税が8%からさらに10%増税されても約10兆円の税収になるだけで、公債発行額の4分の1弱で財政赤字を埋めるにはほど遠い。
13年の政府債務残高は1178兆円とGDPの245%。世界で最も高い債務残高だ。これだけ政府が債務を積み上げても国債市場が正常に維持され、ファイナンスがそこそこ順調に行われているのは、個人の金融資産残高が約1400兆円とGDPの280%に上っているからだ。個人の金融資産の大部分は預貯金と保険。これがまわりまわって国債の購入に向かっているので、国債市場が問題なく機能しているのだ。
債務残高がこれだけ高いのに国債が暴落しないのはいずれ日本政府が消費増税などで財政再建に真剣に取り組むだろうという期待があるからだ。消費増税は野田佳彦内閣が提案し、12年8月10日、民主・自民・公明などの賛成多数で可決したものだ。12年末の政権交代で、この合意が維持されるのかどうか若干の懸念もあったのだが、安倍首相も合意のとおりに増税を実行することを決断したのだ。適切な政策決定だったと言えるのだろう。もし、消費増税が廃止または先送りにされたら、逆に大きな混乱が生じる可能性が高かった。過去にもしばしばヘッジファンドなどが日本の巨大な累積赤字を理由に日本国債の空売りを仕掛けたが、ことごとく失敗している。日本の機関投資家などが若干金利が上がったところで買いに回り、市場を維持したからだ。買い支えの理由はさまざまだろうが、日本政府の財政破綻などはあり得ないという予測が重要なファクターであったことは間違いないだろう。そして今回の消費増税の決定はこうした日本の投資家の行動を側面から支える効果があると言えるのだろう。もし増税が撤回されるようなことがあれば、日本の投資家による国債売りもあり得ないことではなかった。ともかく、増税は不可避、財政再建は至上命題なのである。
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