政治・経済

 株式市場のダイナミズムを表す動きの1つとしてマネジメント・バイアウト(MBO)がある。経営陣が株式を取得しオーナー経営者として独立し、迅速な意思決定と長期的視野で経営を行う。10年以上前に作家として法律経済小説(ビジネス・ロー・ノベル)『取締役会決議』(文庫化に際し「MBO」に改題)を執筆し、MBO時代の到来を予言した弁護士の牛島信氏にMBOの動向について話を聞いた。

 

株高によってMBOした企業の再上場が増加?

 

 MBOについては、すかいらーくの再上場が大きな話題です。マクドナルドより時価総額が大きくなるのではないかと言われて注目されています。

 しかし近年、MBOの件数自体は、急激に減っているというほどではないにせよ、最もMBOが多かった時期に比べると減ってきています。

 その要因として、株価の上昇が挙げられます。すなわち株価が上昇していくと、PBR(株価純資産倍率)が低い状態が解消され、MBO価格も上昇するので、MBOは増えるよりは減る可能性のほうが大きいことが考えられます。

 東証が再上場に際しての審査項目から再上場申請までの期間の制限に関する記載を削除したこともあり、株高になると、すかいらーくのように一度MBOをした会社の再上場が増えてくる可能性があります。

 MBOの目的は、意思決定を早めて機動力を高めることと、長期的な視点で経営ができることです。会社は上場している以上は常に市場の反応を気にしながら経営しなければなりませんが、MBOではそれがなくなります。つまり経営者が自分のイニシアチブで、創造性を生かせることが一番の理由だと思います。それだけに経営者にやる気がなければ、そもそもMBOはできません。

 MBOが買収防衛策の切り札だと言われたのは過去の話です。今はそれほど敵対的買収の脅威があるようには思われません。むしろ今、MBOをするのは、意欲的な経営者がマーケットと向き合う以上に自らのビジョンで長期的経営をしたいからだと思います。

 例えば、しばらく利益を削ってでも中期経営計画を達成したい時に、その計画を遂行すると言っても、それで株価が下がるならマーケットには通用しません。資金を調達できている限りにおいては、MBOをすれば、経営者は自由にその中期経営計画を遂行できます。

 それから最近の傾向としてはファンドと組まずに、自分で資金を引っ張ってくるMBOが増えています。

 その理由はファンドが退潮してきていることと、銀行によるMBOに対する融資姿勢が積極的になっているからです。金利は下がり、銀行は貸し出し先を探していて、安倍内閣もそれを推奨しています。銀行主導のMBOは経営者が自ら買収資金を調達し、全面的に自分の会社として経営できるため、大いに腕を振るえると思います。

 米国ではデルのような巨大な会社のMBO(買収総額約249億㌦)が行われるという意味で、日本よりはダイナミックです。それはファンドの規模をはじめMBOのインフラが異なることが1つの要因と考えられます。日本でもファンドが付加価値を提供できる存在であるとの理解が進めば、巨大な会社のMBOが出てくる可能性はあります。

 ただし巨大な会社のMBOとなると株式取得の資金は巨額となるので、リスクテーキングができるファンドの関与は必須になってくると思います。

 今、日本のファンドは元気がないですが、いずれは日本でもファンドが巨額のMBOをリードする形になると思います。より大きなMBOでは、株式市場のダイナミズムが重要になります。

 

MBO企業の再上場で株式市場の厚みが増す

 

 私が『取締役会決議』を書いた2000年頃と比べると一番変わってきたのは、MBOが当たり前になったことです。

 この間の変化として、これまで事例から見れば、経営陣にMBOを実施されてひどい目に遭ったと感じている株主は結構いますし、裁判例も多々あります。基本的にMBOは、MBOをする経営側と、MBOをされる株主側に利害の抵触があり、対立があります。

 その多くは株式取得価格の値付けの問題ですが、裁判所は、価格については一定の歯止めをかけています。例えば、11年のカルチュア・コンビニエンス・クラブのMBOでは、経営側は株価を600円で取得しようとしたのに対し、大阪地裁は公正な取得価格を600円ではなく649円だと決定しました。

 これらの裁判所の判断やMBO指針に従ってMBOが行われるようになっていて、過去に起きていた混乱は収束していくと思います。

 俗的な見方をすると、経営者がMBOをする理由は、MBOをすると儲かるからだという考え方もあるように思われます。すなわち、マーケットでの株価が、その会社の経営者が思っている以上に安いため、お金を借りてきてプレミアムを付けて株を買い占めても儲かるはずだという思いがあるからです。

 儲かるというのは俗な言い方であって、経営者にとってみれば、マーケットが株をあまりに安く放置していてけしからんという憤りがあります。

 例えば、ある会社の株価が600円だとして、その経営者にしてみれば株価が1千円でも1500円でもおかしくないという思いがありますが、叫んでも株価は上がりません。それなら600円にプレミアムを付けて結構なので自分が株を全部買ってMBOを実行し、そして会社をもっと良くして、株価を1500円にできるという強い意欲、確信をもってMBOをする経営者もいます。

 MBOは、トップがリスクをとって会社をプライベート化し、拡大していく意欲の表れであり、そういう意欲は経営者のアニマルスピリットの1つでもあります。

 すかいらーくのように、MBOをした会社が再上場で株式市場に戻ってくることは今後も大いにありえます。株式市場が厚みを増すので、私は再上場で戻ってくることは良いことだと思います。 (談)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る