政治・経済

東京五輪決定が後押し

(Photo:時事通信フォト)

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特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案成立後の工程表(イメージ)

 海外で展開されているようなカジノの形態は日本の現行法では賭博罪に当たるため、特別法の制定が必要となる。この法制定の壁が、これまで日本におけるカジノ導入を阻んできた。

 日本におけるカジノ導入への大きな動きとしては、1990年代末、石原慎太郎東京都知事(当時)が「お台場カジノ構想」をぶち上げ、話題となったことが思い出される。2000年代初めには、当時の小泉純一郎内閣が打ち出した経済特区構想の一環として沖縄にカジノ特区を設立する話が持ち上がったこともある。

 近年では、民主党政権時代にもカジノ構想が大きな盛り上がりを見せ、一時は関連法案の国会提出間近までいった。しかし、党内で意見が集約できず結局見送られ、次第に経済界も及び腰になった。さらに、大王製紙の井川意高元会長がカジノで会社の金を100億円近く使い込む事件が発覚し、庶民の〝カジノアレルギー〟を増幅するというオマケまで付いた。このように、カジノ導入の構想は何度も浮上しながら、その都度日の目を見ることがなかった。

 それがここに来て、大きく前進しようとしている。

 アベノミクスの成長戦略の柱の1つである「国家戦略特区」でのカジノ設立を目指して、超党派による国際観光産業振興議員連盟(IR議連)は、昨年12月にカジノを含む特定複合観光施設(IR)整備の推進に関する法案を国会に提出。早ければ現在開かれている通常国会での成立を目指している。自民党と連立内閣を組む公明党は法案提出に加わらなかったものの、いよいよ実現が見えてきた格好だ。

 カジノには相変わらず慎重論もある中、解禁に向けた動きを後押ししたのが2020年の東京オリンピック・パラリンピックの招致決定だ。今から法案を成立させ、建設に着手すれば6年後には何とか間に合わせることができる。五輪観戦に絡む観光収入をさらに増加させる起爆剤として、カジノ付きIRに掛かる期待は大きい。

 東京での五輪開催を考慮すれば、当然のことながら建設候補地として真っ先に挙がるのは東京・お台場地区だ。お台場に本社を構えるフジ・メディア・ホールディングスは13年9月、三井不動産、鹿島、日本財団と共同で「東京臨海副都心における国際観光拠点の整備〜エンターテインメント・リゾート戦略特区〜」と銘打った提案を、産業競争力会議のワーキンググループに提出。カジノ建設の旗振り役として名乗りを上げた。一方で、巻頭のエイチ・アイ・エス澤田会長のインタビューにもあるとおり、首都圏にカジノを建設することには強い反対論もあるなどさまざまな意見が入り乱れている。

 IR議連として目指しているのは、基本的に都市型と地方型の2つのカテゴリーの同時並行でカジノ建設を進めるという方向だ。

 都市型のほうはお台場が最有力候補ではあるが、立地面積の広さなどで大阪の臨海部も有力視されている。実際に大阪府と大阪市は庁内組織を立ち上げ、候補地の選定や誘致に向けた課題などを協議する動きに入った。横浜市も同様に、検討チームを発足させる見込みとなっている。

 一方で、地方型のカジノをめぐっても激しい招致合戦が展開されそうだ。長崎ハウステンボス(HTB)や宮崎市のフェニックス・シーガイア・リゾートなどが有力候補として挙げられるが、最終的にどれだけの事業体にライセンスの発行が行われるかはまだ分からない。

 カジノビジネスを専門に研究している国際カジノ研究所の木曽崇所長は、「非公式だが、IR議連の中では全国で2カ所か3カ所の施設をつくってはどうかという方向で話が進んでいる。現段階では手を挙げさえすれば、全国どこの都市にも可能性はある」と、語る。

虎視眈々と参入を狙う外資系運営会社

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 世界的には、カジノビジネスはマカオ、ラスベガスを筆頭に、マレーシア、シンガポール、韓国、さらに欧州各国にも広がっている。

 年間のゲーミング収入(顧客の掛け金から払い出し金額を差し引いた金額)で言えば、マカオが約4兆円で世界トップ。次いでラスベガスが約5千億円となっているが、ラスベガスの場合はアミューズメントなど、ゲーミング収入以外の部分が大きく、これを加えると1・2兆円程度になるという。欧州系については小規模な施設が点在するケースが多く、ホテルやナイトクラブの中などにひっそりとカジノを設置している例が頻繁にみられる。

 実際に、日本にカジノが建設されると1兆円規模の経済効果が見込めるともいわれるが、施設の場所や数がどうなるか分かるまでは、はっきりとした試算は出しづらい。

 有力なカジノ運営会社としては、米系ビッグ4と呼ばれるラスベガス・サンズ、MGMリゾーツ・インターナショナル、シーザース・エンターテインメント、ウィン・リゾーツ、そしてアジア系のゲンティン(マレーシア)、メルコ・クラウン・エンターテインメント(香港)などが挙げられる。これらのいくつかは、日本のカジノ構想に高い関心を示しており、参入の機会を虎視眈々と狙っている。

 推進法案には、カジノ施設は統合型リゾートでなければならないという内容が明記してある。最近よく使われるようになった「MICE」という言葉があるが、これはMeeting(会議)、Incentive(招待、視察)、Convention(学会、国際会議)、 Exhibition(展示会)の頭文字を取ったもので、ギャンブルだけでなく、これらの機能を含んだ施設というのが、日本が目指す方向性になる。

 IRがつくられれば、遊技機メーカーなど個々の企業のビジネスチャンスは増えるだろうが、現実問題として、日本企業単独でこうした施設運営を手掛けるのは難しい。リゾート運営のノウハウに長けた米系やアジア系企業が、チャンスととらえているのもそのためだ。

 したがって、IR運営まで関与することを狙う日本企業にとっては、外資運営会社とパートナーシップを組むのが最も現実的な策となりそうだが、「外資が一番組みたいのは不動産デベロッパー。場所さえ確保できれば、収益は独り占めしたいというのが本音としてある」(遊技機メーカー関係者)という声も聞かれる。

世界のカジノビジネスの市場規模

 また、一方では、「外資系メーカーだけだと恐らく日本の厳しい規制や法律に対応しきれず、すぐに音を上げるだろう」(カジノビジネスに詳しいメディア関係者)との見方もある。既に水面下では運営ライセンスの取得をめぐって、さまざまな思惑が飛び交っている状況だ。

 日本におけるIRのモデルケースとしてよく取り上げられるのが、シンガポールの事例だ。10年にマリーナベイサンズとリゾート・ワールド・セントーサの2つのIRを開業し、以前は1千万人前後だった観光客数が今では1400万人以上まで増加。同じく、昨年ようやくインバウンド1千万人を達成した日本の関係者も参考例として注目している。

 しかし、「シンガポールスタイルが日本で定着するとは限らない」と指摘するのは電通のIR・観光プロジェクト部長の岡部智氏だ。同氏は、

「観光資源の少ないシンガポールと日本では事情が違う。確かに、日本でやる時はシンガポールを参考にするような空気になっているが、シンガポールのような大規模なものは日本では大都市でしか実現できないし、日本にとって一番ふさわしいIRはどんなものか考える必要がある。これまでカジノの建設候補地として、東京、大阪、沖縄のような場所が挙がってきた背景には、シンガポールというベンチマークがあったからだが、推進法は日本での設置を考えて、大都市型と地方型の両タイプをつくることが盛り込まれたのは大きな成果だ」と、語る。

気になるパチンコ業界への影響は

 現在、カジノビジネスに興味を抱いているとみられるのは、遊技機やリゾート施設で展開するセガサミーホールディングス、コナミ、パチンコホールのダイナムといった企業だ。

 機器メーカーなどの中には、既に海外のカジノ市場に進出している日本企業がいくつかある。例えば、コナミは米国34州、カナダ8州でカジノ機器製造と販売のライセンスを取得済み。オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、南アフリカでもライセンスを取っている。スロットマシンや顧客情報管理、会計管理のシステムといった製品で展開中だ。

 パチンコ・パチスロ機器大手のユニバーサルエンターテインメントも、カジノ関連で注目される企業の1つだ。同社は現地企業のロビンソングループと提携し、カジノとホテルの複合施設であるマニラベイリゾーツ(フィリピン)の運営計画を進めている。

 他のパチンコ・パチスロ機器やゲーム機メーカーも、技術的にはカジノ関連事業へ参入することは十分可能だ。ただし、日本の新たな市場だけを狙って新規開発を行っても、市場規模が限られるため大きなビジネスにはなりにくい。カジノ用機器はパチンコ・パチスロ機器と比べて新台入れ替えなどの更新頻度が少なく、定期的に稼ぐのが難しいという問題もある。最近では、カジノ解禁を睨んだ関連銘柄として複数の機器メーカーの名前が上がるが、期待外れに終わる可能性もある。

 もう1つ気になるのはパチンコホールの動きだ。カジノが導入されれば、ホールは顧客を奪われる可能性もあるが、むしろ大手のいくつかは新規事業参入の機会として前向きにとらえている。

 例えば、ホール最大手のマルハンは、昨年までマカオのカジノ施設に投資していた。また、12年に香港証券取引所に上場したダイナムホールディングスは、現地子会社を通じてマカオのカジノ運営会社の株式を取得。同社の佐藤洋治取締会議長は、

「当社としては、今後カジノの大衆部門に参入できるきっかけができた」と、公言している。当然、日本でのカジノ解禁も視野に入っているだろう。

 一方で、カジノ事業に参入する資金とノウハウがない中小のホールにとっては、強力なライバルの出現は大きな脅威になるだろう。ただでさえパチンコ市場の縮小で廃業するホールが増える中、仮に周辺地域にカジノができてしまえば死活問題にもなりかねない。

 カジノ解禁によって、わが国の娯楽産業の在り方そのものが、大きく変わっていくのかもしれない。

負のイメージをいかに払拭していくか

 ここまでカジノ解禁を前提に述べてきたわけだが、何しろ10年以上にわたって浮上しては消えてきた構想である。肝心の法案成立がズルズルと延期され、またしても〝エア構想〟になってしまう可能性もゼロというわけではない。

 カジノ導入に反対する社民党と共産党のほか、自民党と連立与党を組む公明党の態度が今のところハッキリしないのも気掛かりだ。IR議連の幹事長を務める岩屋毅衆議院議員は、「100%成立すると断定はできないが、法案を共同提出した自民党、維新の会、生活の党以外の政党に対しても、働き掛けを丁寧にやっていきたい」と、語る。

 大型リゾート開発をめぐっては、かつて日本には苦い経験がある。87年に施行された総合保養地域整備法(リゾート法)がそれだ。

 同法は、もともと地域活性化を目的として整備されたものだが、補助金などを目当てに不要な施設建設が全国で続発。そこにバブル崩壊が重なって、多くの計画が頓挫する羽目になった。IR建設に反対する陣営からは、今回も同じ轍を踏むことを危惧する声が多い。その失敗を繰り返さないためにも、民間の力を最大限に活用するための制度設計が求められよう。

 反対派がもう1つ指摘するのが、カジノ解禁によるギャンブル依存症などの社会問題の発生や、売春、ヤミ金といった裏社会の温床になりやすいということだ。日本共産党の大門実紀史議員は、

「カジノ解禁は、現実のドロドロとした部分を見ない素人の発想」と、手厳しい。

 カジノだけが前面に打ち出されることによって、IRというものに対して、世間に負のイメージが定着してしまうのは推進派としては最も避けたいところである。

 前出の電通、岡部氏は、「目的はあくまでも観光振興であり、地域活性化であって、カジノはその手段の1つにすぎない」と、強調する。

 仮に推進法案が成立しても、その後も実施法の策定と国民的合意形成を経なければ、成功は覚束ない。IRを真に地方活性化の起爆剤とするには、越えなければならない山が、まだいくつもそびえている。

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