政治・経済

農業体験のほか、農園で婚活パーティーも実施

  農業とは最も遠い存在といわれる東京で、農地に親しみ農業を楽しむ生活スタイルが広がっている。家庭菜園でプチ農業を楽しんでいた退職者が体験農園で本格的な農作業を始めたり、若い女性が平日に仲間と野菜づくりに精を出したり、農園内で地場野菜の料理パーティーを開いたりと、農を生かした暮らしがブームとなる様相だ。農業への都民の関心が高まる中で、農のあるまちづくりに乗り出す自治体まで現れている。

 JR南武線の谷保駅から車で約10分、国立市谷保地区は市街化区域ということもあって、周辺は宅地化が進み、物流施設なども立地して農地がどんどん減っている。ここでナシ園を経営していた農家から5年契約で農地を借り、2013年3月に新しい農園を開いたのが「くにたち市民協働型農園の会」だ。

 農園の名前は「はたけんぼ」。約800平方㍍の農地には区分けした畑や水田に広場、炊事場などが備わる。野菜づくりなど農作業だけに特化するのではなく、収穫祭や農家との交流会、料理教室、婚活パーティーなど多種多様な企画を都市生活者に提案、都民が気楽に参加し交流できる新手の居場所づくりに役立てるのが、目指す姿だ。

 農家や事業家など4人で設立した農園の会のメンバー、小野淳さん(39歳)はこう言う。「野菜を作って売るだけが農地ではない。イベントを開くなど、市民参加の農園を作り新しい都市農業の在り方を模索したい」。

「はたけんぼ」が取り組んでいる活動は4つ。第1は年3回開く農園祭だ。ジャガイモの植え付けや野菜の種まきなど春の行事と、秋の収穫祭などが中心で、会費制だが、都民なら自由に参加できる。市民が農家と交流したり農地に触れたりする機会を作り、東京の農業の実態を知ってもらうのが目的だ。

 第2が畑会員の活動だ。農地を8坪ごとに区分けし年6万円で貸す事業で、対象は法人や市民団体に限定。大塚製薬や市内のパン工房など7件の契約が決まっており、社員の家族を招いた食育教室や農作業を通じた新人社員の研修会、婚活パーティーなどに活用されている。

農園を核に市民が交流

「はたけんぼ」が取り組む3つ目は「田んぼ会員」の募集だ。会員は小学生以下の子どもがいる家族が対象で、年会費は1万円。13年度は20家族の募集に対し、22組が応募した。

 会員になると、稲作作業を1年間、体験できる。代かきや畦塗り、田植え、草取りと家族そろってお米作りに参加し、秋には脱穀して収穫を祝うという趣向。レク気分で稲作が体験できると喜ぶ会員が多いようだ。

 第4が農園マスターの養成講座。市民参加型農園の開設を目指す人や就農希望者を対象に講座を開き、都市農業を守る人材を育成するのが狙い。講座数は年10回、受講料は年5千円で、受講生は8人ほどだ。

 このほか、農園の広場を借りて各種イベントを催す市民が尻上がりに増え出した。環境教室を行う幼稚園、小麦を作って自前のパンやうどんに加工する市民団体、外国人留学生が交流するバーべキュー大会など、16件の催しが広場で実現した。

「はたけんぼ」への参加数は13年度で1千人に上る見通し。「農業への都民の関心は高い」と小野さんらは手応えを感じており、14年度の参加目標を倍の2千人に設定している。こうした状況に刺激を受け、国立市も「農業、農地を生かしたまちづくり」事業と取り組み出した。

 まずは市内城山地区に14年12月、建築面積132平方㍍の交流施設「城山さとの家」を完成。その周辺5千平方㍍を農業公園とし、体験農園やモデル農園を整備して農地の減少を食い止めたり、市農業の付加価値を高めたり、農園を核に市民が交流したりする農園ライフを、市民に提案していく考えだ。

自治体も後押しする農業体験農園

  都市部の住民に非常に人気があるのが農業体験農園だ。1996年に東京都練馬区で最初に誕生したといわれるが、市民のニーズに合致してその後、東京だけでなく大阪や名古屋などに伝播して行った。誕生からほぼ20年たった今なお、東京では体験農園の開設意欲が衰えていない。東京都東久留米市で14年春から本格的に動き出す体験農園もそんな1つだ。

 農園の名前は「グリーンファーム東久留米」。市内南町の10㌃ほどの畑に29区画(1区画30平方㍍)の耕地を確保し、野菜の本格栽培に興味のある市民に、農体験の場と機会を提供している。利用料金は年4万3千円。2回行った利用者募集で全区画がほぼ埋まる人気ぶりだ。

 ここで注意を要するのは、体験農園と市民農園とでは仕組みが異なるという点だ。市民農園は一種の貸し農園で、市民が好みの野菜を自由に栽培できるのに対し、体験農園では勝手に耕作したり栽培したりできない。

 体験農園はあくまで農園主が土づくりをし、種や苗、肥料、農機具などをすべて揃え、年間の作付け計画も作成する。それに沿った品目を栽培するわけだ。要は体験が眼目なのだ。手ぶらで行ける気楽さも魅力だが、農家が随時、講習会を開き、実地で指導もしてくれるので、栽培技術を磨けるのがミソである。

 グリーンファーム東久留米でも25品目の作付け計画を策定済みで、ここで1年間体験すれば、大抵の野菜の栽培技術を身に付けることが可能という。

 日本人の生活は豊かになり、市民の嗜好の変化は大きく変化している。消費や余暇への関心はモノからコトへシフトしているのが現実だ。都民が農のある生活に興味を示すのも、そうした嗜好の変化を物語るものだ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
この夏飲みたい日本の酒

  • ・総論 量から質へ“こだわり”が求められる時代へ
  • ・埼玉・秩父から世界一へ イチローズモルトの奇跡
  • ・家庭でも酒場でもレモンサワーが飲まれる理由
  • ・幕末からよみがえった都心の酒蔵 東京港酒造
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・伊豆で愉しむ野趣なワインと夏の富士
  • ・トップが薦めるこの夏のビール

[Special Interview]

 宮内義彦(オリックス シニア・チェアマン)

 「トップの器以上に会社は大きくならない」

[NEWS REPORT]

◆ヨーロッパに続け! 動き始めた日本の再エネ事業

◆東芝のPC事業を買収し8年ぶりに参入するシャープの勝算

◆日産―ルノー経営統合問題に苦慮するカルロス・ゴーン

◆大阪がエンタメで仕掛けるインバウンドと夜の経済

働きがいのある会社を総力取材

 人材育成企業20

 企業の成長戦略をクローズアップ

ページ上部へ戻る