政治・経済

自転車を楽しみ、まちづくりに生かすイベント

JR宇都宮駅西口にある「宮サイクルステーション」は自転車のまちをPRする拠点施設だ

JR宇都宮駅西口にある「宮サイクルステーション」は自転車のまちをPRする拠点施設だ

 自転車を活用したまちづくりの波が、首都圏の主要都市に急速に広がってきた。先頭を走るのが栃木県宇都宮市だ。2010年末にまとめた「自転車のまち推進計画」に基づき、15年までの5カ年間に環境に優しく街の魅力を高める多様な自転車政策を次々と展開している。千葉市、さいたま市もそれぞれ「ちばチャリ、すいすいプラン」、「さいたま自転車ネットワーク構想」を打ち出し、その輪に加わる。共通するのは地域活性化の手段を自転車に求める発想である。

 JR宇都宮駅西口から材木町までの中心市街地を東西に結ぶ大通り。ここで13年10月、アジア最高位の自転車ロードレース「アジアカップ」が開かれた。世界で活躍する選手たちの迫力を目の当たりに見ることができるとあって、3日間で約10万人のファンが押し寄せる盛況ぶりだ。

 2日目に行われたクリテリウムをのぞいてみた。大通りの中間地点、二荒山神社を発着点にした1・55㌔の特設コースを20回周回して勝敗を決する自転車競技だ。ツール・ド・フランスの覇者を含め、国内外の18チームが参戦し、スピードと駆け引きを競うのがミソである。

 交通規制された車道を色鮮やかなユニフォーム姿の選手が駆け抜け、歩道を埋め尽くしたファンからあちこちで歓声が上がる。ビルやオフィスの高層階から観戦する人もおり、沿道の商店街は赤いノボリやTシャツで、食堂は赤い餃子で盛り上げる。

 主催者によると、このレースだけで4万人ものファンが来場した。横浜から来たという親子連れは、「時速60㌔近いスピードでなだれ込んでくる姿に圧倒される。細かいルールが分からなくとも、この迫力に接するだけで楽しくなる」と話す。

 アジアカップの開催は今回で22回目。名のある国際レースを誘致するのも、自転車に乗りたくなる雰囲気をつくり、自転車の魅力を引き出して自転車の普及に役立てようという狙いによるものだ。

 宇都宮市を拠点に活動するわが国初のプロチーム「宇都宮ブリッツェン」も、自転車教室やサイクルピクニックを開くなど、自転車の普及に取り組んでいる。これも自転車を楽しむまちづくりの一環である。

宇都宮市が打ち出した自転車を役立てるまちづくり総合計画

 同市が打ち出した「自転車のまち推進計画」は、自転車を交通手段として重視し、自転車を健康やエコ、都市観光の推進などに役立てることを狙ったまちづくりの総合計画だ。交通政策課の芳賀教人課長は「①安全②快適③楽しく④健康とエコという4つの柱を掲げて多様な政策を打っている」と説明する。

「安全」というのは、自転車を安全に使える環境を整えること。整備すべき75の自転車ネットワーク路線のうち、自転車の交通量の多さや事故の多発性などを基に16路線16㌔を特に優先路線と位置付け、自転車道や自転車専用通行帯などの整備を急いでいる。13年3月時点で優先路線の約7割を整備した。

「健康とエコ」は自転車の利用がCO2の削減やメタボ予防に役立つと見て、エコ通勤実施企業を増やすなどして通勤、通学に自転車を使うライフスタイルの定着を市民に促している。

 4つの柱のうち、宇都宮らしさを特色づけているのが「快適」と「楽しく」だ。それを象徴する施設が自転車の駅と宮サイクルステーションである。

 自転車の駅はベンチを置き、修理用工具や空気入れを配備して、自転車に乗る人が休憩したり修理工具を無料で使えたりするようにした拠点だ。市内のコンビニを主体に11年秋から2カ年で37駅を設置した。

 一方、サイクルステーションは自転車を使う人のサポート施設で10年秋、宇都宮駅西口に開設した。シャワーやロッカーを利用して休憩したりできるほか、自転車関連イベントやスポーツバイクの各種講座、補給食の物品販売などを通じて、自転車の愛好家の育成に努めている。

さいたま、千葉も自転車のまちづくりに乗り出す

 自転車の利用を買い物や観光にも広げようと宇都宮は目を配る。買い物対策としては、中心商店街のオリオン通りの空き店舗に駐輪場を設ける実験を試みている。商店が店先に短期間の駐輪場を設ける場合、市が補助する制度も実施中だ。これまでに2店舗が補助金を活用した。

 観光客が評価しているのがコミュニティサイクルだ。市内にレンタサイクルの貸出し拠点が7カ所あり、放置自転車を165台プールし、観光客などに1日100円で貸している。利便性を高めるため、11年度には電動アシスト自転車55台も追加、1日300円で利用できる。

「市内の6ホテルと連携して、宿泊者に自転車を貸し出す〝おもてなしレンタサイクル〟も実施中だ」と芳賀課長。観光レンタサイクルの導入で「自転車のまち宇都宮」が口コミで広がる効果も期待しているようだ。

 コミュニティサイクルと言えば、さいたま市も導入している。大宮地区に20カ所の貸し出し拠点を整備、200台の車両を24時間無休で借りたり返したりできる。14年度には浦和地区にも同様のサービスを広げる。

 そのさいたま市だが、13年度中に策定する「自転車ネットワーク構想」の中で、全道路の5%に当たる200㌔に自転車通行帯を整備する方針で臨んでいる。ツール・ド・フランスを冠した自転車レースを13年秋に誘致するなど、イベントにも力を入れ出し、自転車によるまちづくりに強い関心を寄せている。

 千葉市の「ちばチャリ、すいすいプラン」は14年度から5年間に新たに30㌔の自転車レーンを整備しようというもの。自転車によるまちづくりが各地で進めば、自動車に過度に依存しない社会の構築に役立つ。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年4月号
[特集] 僕らが宇宙をめざす理由
  • ・岩本裕之(JAXA新事業促進部長)
  • ・松尾剛彦(内閣府宇宙開発戦略推進事務局長)
  • ・岡島礼奈(ALE社長)
  • ・永崎将利(Space BD社長)
  • ・並木文春(IHI理事 宇宙開発事業推進部長)
  • ・宇宙視点で新ビジネス!
  • ・月面農場も夢じゃない キリンのジャガイモ大量増殖技術が宇宙の食を支える
  • ・スタートアップが切り拓く宇宙農業の未来
  • ・20万ドルで飛び立つ 丸い地球と満天の星空へ
  • ・宇宙旅行の前に、宇宙を感じる旅へ
  • ・新薬実現のきぼうは地上400キロの実験場にあり
[Special Interview]

 酒巻 久(キヤノン電子社長)

 宇宙事業に必要なことは「成功を信じてやるしかない」

[NEWS REPORT]

◆いよいよ始まる携帯5G 膨らむ期待と直面する課題

◆23年の長期政権に幕を引く イオン・岡田元也社長の残したもの

◆打倒アマゾンへ 楽天の送料無料化は吉と出るか

◆連続加入者増に赤信号 WOWOWを脅かす定額配信

[総力特集]

 2020年注目企業38

ページ上部へ戻る