政治・経済

ブナ林探訪に札幌から観光客かんじきウォッチングが人気

ブナの原生林が広がる「歌才ブナ林」は、まちづくりの中心に据えられている(黒松内町)

ブナの原生林が広がる「歌才ブナ林」は、まちづくりの中心に据えられている(黒松内町)

  ブナが自生する北限の町、北海道黒松内町が地域の森林資源を活用した新しい田舎(まち)づくりに拍車を掛けている。名付けて「ブナ北限の里づくり」。目指すのはブナ林に囲まれた豊かな自然環境を生かし、小さな農村でも住んでいる人が生き生きと暮らす田舎(まち)をつくること。交流人口16万人、移住誘致100人、ブナ林再生などといった戦略プロジェクトを軸に、数値目標を掲げ官民連携で実現に取り組んでいる。

 北海道南西部にある黒松内町は、札幌と函館のほぼ中間点にある人口3149人の町だ。人の手が入らないブナの森があちこちにあり、ブナが自生する北限地として学術的に重視されてきた。市街地からわずか2㌔の場所にある「歌才ブナ林」は全域92㌶に原生林が広がり、国の天然記念物に指定されている。そんなブナ林を見て回るフットパスや体験ツアー、ウオーキングが同町で盛り上がっている。

 2013年秋、JR北海道が主催する「くろまつないヘルシー・ウォーキング」に加わってみた。参加者は札幌や小樽から集まった家族連れや若者、カップルなど総勢15人。

 コースの起点は1日に上下各7本しか停車しない黒松内駅。駅からブナセンター(自然体験情報センター)、歌才森林公園、歌才ブナ林、ふれあいの森などを訪ねる内容で、売りはもちろん、歌才ブナ林だ。行程8・5㌔を3時間かけて歩く小旅行である。

 ブナ林の木陰は明るく、樹齢150年の巨木から野鳥の声が落ちてくる。先々で「ブナはもう色づき、黄葉は始まっているね」とか、「空気が本当にうまい」、「これ、アキノキリンソウだよ」といった声が上がる。

 体験ツアーとなると、実に多彩だ。四季折々の美しさを味わうブナウオッチングはブナセンターが主催するが、人気の的が冬のかんじきブナウオッチング。森や川を教室にした自然体験を提供するぶなの森自然学校、環境学習を行う添別ブナ林農村自然公園、家具作り教室を開く民間工房など、各施設が体験メニューを競う。民間企業が夏に行った秘境ツアーには、町内外から観光客が21人も加わった。

フットパスなどで誘客増やす移住者誘致へお試しハウス

  町内でよく見掛けるようになったのが、英国発祥のフットパス愛好者。森林や田園、街並みなど、ありのままの風景を楽しみながら歩くというのがフットパスで、町も特に力を入れ出した。既にチョポシナイ(約10㌔)、森林公園(4㌔)、寺の沢川(2㌔)など4コースを整え、13年中にもう1つ増やす。

 フットパスの運営を支えているのが、町民の有志20人でつくる「黒松内フットパスボランティア」だ。コースの維持管理やイベントの開催、客の応対などを一手に引き受けている。年3回開くボランティア主催のフットパスには毎回、40〜50人の愛好者が押し寄せる盛況ぶり。ボランティアが同行し、所々でガイドよろしく解説してくれるので、町に親しみを感じると町外からの観光客に好評だ。

 フットパスは財政の弱い町にとっても好都合だ。「ありのまま」が基本なので、施設や交通網など大規模な整備はいらず、マップや案内板だけで済む。おもてなしさえ気を付ければ、観光客が増え、町が活気づく。

 フットパスにしろ、体験ツアーにしろ、都市住民との交流拡大が町の狙い。過去の積み上げで年14万7千人もの観光客が訪れるようになったが、「14年度に15万人超、19年度に16万人へ増やすのが目標」と、鈴木雄二企画調整課長は話す。

 町づくりの第1の柱が交流人口の拡大とすれば、第2の柱が町への移住者誘致である。

 移住者を受け入れるために、町はお試し移住体験ハウスを4戸整備し、道外からの体験移住を進めている。1カ月単位で居住し肌で実感してもらい、自分との相性を探ってもらおうという狙い。本格定住への誘導策だ。

移住者受け入れの団地を計画保全・再生でブナ林5㌶増加

  お試しハウスは生活に必要な家具や食器、電気・ガスなどがすべて揃い、家賃が月12万円。11年度には25家族が、12年度には18家族がお試しハウスを利用している。本格移住に結び付いた実例もあるそうで、「お試しハウスで〝ちょっと移住〟を楽しむ家族が首都圏や関西圏からも現れてきた」(鈴木課長)。

 同町には移住者と地元町民とで作る支援組織「ブナ里交流町内ネットワーク」が活動し、土地柄や風習、先輩移住者の体験などを移住希望者に情報提供する仕組みができている。また、移住者受け入れのための宅地分譲団地も計画、14年度中に7区画を整える方針だ。

 こうした施策によって、過去5年間の移住者数14家族32人を、19年度には50家族100人に増やそうと狙っている。

 交流人口を拡大し移住者を増やすといっても、町に魅力がなければ実現は難しい。その意味で興味深いのが景観づくりだ。

 1990年にごみ収納庫(クリーンボックス)を赤と緑の牛舎風に統一して街角に配備したのが景観づくりの第一歩。96年に町独自の景観条例を制定し屋根や外壁の色彩を指定するとともに、08年には景観法に基づく景観行政団体になるなど体制を整備してきた。住宅や施設の修景費用、廃屋撤去費を補助する制度も導入、自然に優しい黒松内型街並みを創出しつつある。

 ブナ林を保護しブナ林を再生する事業にも熱が入り出した。

 優良なブナ民有林を取得して保全したり、ブナの苗畑で苗木を作り伐採跡地に植栽したり、住民有志が進める黒松内岳ブナ林再生プロジェクトを支援したりと、保全・再生の輪が広がる。19年度までに5㌶のブナ林を増やすのが官民共通の目標だ。

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