マネジメント

制約・規制とイノベーション

 先日、経済産業省の試算で、「全国で電気をうまくやりとりすれば、年間で約1700億円の発電費用を減らせること」が分かった。内容的には、全国の発電所のうち、石炭火力など低コストの電源を優先して使い、電力各社で融通できれば、高止まりしている火力用の石油や液化天然ガス(LNG)の調達を減らし、電気料金は全体で1%程度安くなるという試算だ。

 そのためには、懸案である東日本と西日本地域で異なっている周波数を整える「変換設備」と、北海道と本州をつなぐ太い送電網の増強などで1兆円を超える設備投資が必要と試算されている。しかし、こうしたインフラ関係の設備投資は、前向きな公共事業を形成し雇用の増大を生むばかりか、その上で多様な経済活動が活性化されるため、日本経済にはプラスだ。

 さらに、融通をコントロールする「賢い電力網」すなわち「スマートグリッド」が普及するには、機械と機械が会話するインダストリアル・インターネットあるいは「internet of things」がどうしても必要となる。この導入にも多額の設備投資が必要であり、また最新の技術開発が前提となる。日本のモノづくり力と産業用ソフトウェア開発力、すなわち日本に眠っているさまざまな知的資産の総動員が惹起されることになるだろう。日本におけるさらなる省エネルギー活動は、日本を変える新しい産業政策と言えるのである。

 われわれが脱原発を提言、推進する理由はここにある。電力が不足することを前提にすれば、既存の枠組みを超えてさまざまなイノベーションが起き、それが日本の競争力をさらに向上させるからだ。

 1970年米国のマスキー上院議員が、車の排ガスに含まれる一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物の規制値をいきなり10分の1に強化する規制案(マスキー法)を提案した。米国の自動車メーカーは初めから「不可能」として真剣に取り合わなかったが、本気で対応したのが日本メーカーであった。日本車が世界で抜群の競争力を発揮したのは、この規制に真剣に対応したからであり、この対応が73年のオイルショック後の燃費の向上を加速させた。

オリンピックを新しい日本の契機へ

新しいパラダイムを阻む可能性がある新国立競技場

新しいパラダイムを阻む可能性がある新国立競技場

 2020年のオリンピックを迎えるに当たって、もし日本が全く新しいエネルギー革命を起こし、先端的な暮らしをしていても地球環境と共存できることを証明すれば、それは人類の新しい希望となるだろう。

 気になるのはこうした新しいパラダイムを阻む事象が散見されることだ。まず、建設される新国立競技場の建設費が高騰しているだけでなく、周辺の環境維持にも目配りが足りないことだ。また、財政赤字が深刻化し少子高齢化が進む日本の未来像へ逆行するデザインであることも問題である。高さ80㍍の複雑な巨大建築物を可動式の屋根で覆うというのは、オリンピック後にもかなり多額の維持管理費が必要となる。世紀の祭典が終わった後に、縮小する未来の日本国民・東京都民が長期にわたって本当に負担し続けることができるのだろうか。

 確かに、オリンピックの主催は国の威信や名誉をかけた一大イベントである。そこに世界を「あっ」といわせるシンボリックな建物を創りたい気持ちも理解できないではない。しかし、21世紀の世界が「あっ」というのは仰々しい建築物なのだろうか。むしろ、シンプルで環境調和や経済的永続性を備えた日本らしい建築物やライフスタイルの在り方なのではないだろうか。

 もうひとつに気なるのは、大会組織委員長に決まった森喜朗前首相が、「五輪のためにはもっと電気が必要だ。今から(原発)ゼロなら五輪を返上するしかなくなる」と20世紀的な発言をしていることだ。今回のオリンピックを遂行するに当たっては、「いかにエネルギーを使わずに、世界からやって来る人々を笑顔と満足で満たすことができるか」、それが日本のチャレンジだと思う。それを忘れて、かつてのようなエネルギー多消費型のイベントを想定しているならば、歴史に逆行している。

 逆に、日本が省エネで環境配慮型のイベントを演出できれば、かつての日本車と同様、世界がそのシステムを渇望するに違いないのだ。

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