マネジメント

宇宙産業の市場規模拡大は異業種やスタートアップ企業の新規参入に負うところが大きい。では、これまで産業を支えてきた老舗企業は、どういった動きを見せているのか。日本の宇宙産業の草分けともいえるIHIグループの動きを宇宙開発事業推進部長の並木文春氏に聞いた。聞き手=古賀寛明 Photo=佐々木 伸

 

IHIの宇宙事業の2つの流れ

 

―― IHIの宇宙事業への参入と事業展開を教えてください。

並木 宇宙事業はIHI本体と関連会社のIHIエアロスペース、そして明星電気の3社で行っているのですが、歴史をひもとくと2つの流れがあります。

 1つは旧日産自動車宇宙航空事業部の流れで、日本の宇宙開発の草創期といえる1950年代半ばの糸川英夫博士のペンシルロケットの開発にも携わっています。そしてもう1つがIHIの事業で、宇宙開発事業団のNロケットでエンジンの開発を行っていました。その2つが合流し、今に至ります。

 現在、手掛けている分野は衛星や観測機を打ち上げるロケット事業、それから打ち上げや衛星に搭載する機器に関する事業、さらにISS(国際宇宙ステーション)の実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームの開発など、多岐にわたります。

―― その中で得意とする分野は。

並木 ロケットの打ち上げなど、宇宙機の加速を行う推進系が強みといえます。現在、日本の基幹ロケットは、H-ⅡA/H-ⅡBロケット、そして小型衛星を効率的に打ち上げることのできるイプシロンロケットの3つがあり、いずれも推進系で深く関わっています。

 例えば前2つのロケットにはエンジンの心臓部となるターボポンプや固体ロケットブースタ(SRB-A)を納めており、そこには当社が長年積み上げてきた回転機械の技術が詰め込まれています。他にもISSへ補給物資を輸送する補給機「こうのとり」の推進装置も私たちが提供しています。

 

IHIが手掛けるイプシロンロケットの特徴

 

―― IHIはイプシロンロケットの推進系だけでなく全体も取りまとめているそうですが、特徴は。

並木 H-ⅡAロケットで打ち上げるのは静止衛星や通信衛星など、かなり大型なものですが、最近では随分小さな衛星も増えてきています。その中小型の衛星を従来よりも安価で速やかに打ち上げることができる、これがイプシロンロケットの特徴です。

 なぜ、速やかなのかといえばイプシロンは固体燃料を使っているからです。液体燃料のロケットに比べると構造はシンプルで、燃料を充填した状態で保管でき、打ち上げまでの準備期間が短くて済むのです。

―― イプシロンロケットの需要は今後高まるとみていますか。

並木 逆に高めなければいけないと思っています。そのためにクリアにしなければならない問題があります。それが、大型ロケットよりは安価であるものの、それでもまだコストが高いという問題です。

 衛星が小型化、軽量化して、大きくてもせいぜい100キロ程度になっているので、一度に複数の衛星を打ち上げると同時に衛星を載せやすくすることなどで、価格を下げる取り組みを行っています。先日打ち上げたイプシロン4号機では7個の衛星を打ち上げました。

 ただ、米国のスペースXのロケットはもっと大きくて、衛星を60基ほどまとめて打ち上げることができます。イプシロンはそんな数を打ちあげることはできませんが、固体燃料ロケットのメリットである速やかな打ち上げで対抗して、将来的には、年3回の打ち上げを目指します。

IHI・並木文春氏

「イプシロンロケットの需要を高めなければいけない」と語る並木氏

―― 年間3回の打ち上げはいつ頃実現しますか。

並木 正直なところ、まだ見えていません。前回の4号機から製造のとりまとめをJAXAさんより引き継ぎ、打ち上げサービスに関しても8号機をめどに引き継ぐ予定です。次の打ち上げは2021年になりますから、もう少し時間がかかりそうです。ただ、引き継げば民間事業としてのサービスになりますから、早いうちに年間3回に持っていきたいですね。

 

老舗メーカーとしての宇宙産業への関り

 

―― 昨今、宇宙産業へ異業種参入が増えていますが、老舗メーカーとしてはどう考えていますか。

並木 喜ばしいことだと思っています。現在、わが国の宇宙産業は5千億円レベルの市場でしかありません。それをさまざまな切り口で上げていかなければならないと思っています。競争は激しくなるでしょうが、同時に新しい領域が開拓されるでしょうからその分野を活用していくことで、より活性化するはずです。

 これから宇宙は利用する場に変わると私は考えています。これまでは宇宙に出て行って、そこにインフラを造ることが主なビジネスでしたが、今後はそのインフラを活用して、生活を豊かにするさまざまなデータを得ていく、そういった方向に軸足が移っていくと思っています。

―― IHIとしても新たな分野への挑戦を考えていますか。

並木 まずは、当社のフラッグシップであるイプシロンロケットの年3回の打ち上げを早期に実現させたいと考えています。

 その上で、データ利用の分野に取り組んでいければと。データプロバイダーとして進出するのでは面白くないので、われわれ自身が宇宙のデータを活用して、生活や事業活動に必要なもの、例えば気象などの分野で新たな事業を構築できればいいですね。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る