マネジメント

経営と社会心理学の考察①経営資源動員に必要な「自信」と「リーダーシップ」

 

イノベーションに不可欠な経営資源の動員

 最近、社会心理学的なアプローチが経営学の研究にも多く見られるようになってきている。今回と次回では、イノベーションや組織の意思決定を社会心理学の観点から考えてみよう。

 まずは、今回は「自信」の魔力について見ていこう。

 イノベーションは、経済的な価値を生み出す新しいモノゴトの結び付き(ニューコンビネーション)である。「新しい」からこそ、不確実性が伴う。

 これまでにやったことがある既存のものであれば、どの程度の投資でどの程度のリターンがあるかは予想できる(あくまでも「概ね」であるが)。

 しかし、新しいチャレンジであるほど、必要となる投資額やそのリターンを見積もるのは難しい。

 しかし、イノベーションを生み出すためには、経営資源の動員が必要である。経営資源にはもちろん限りがあるため、どこかに資源を動員しようとすれば、他の資源が削られる。

 だからこそ、組織の中で経営資源を動員するための正当性の確保が問題となる。

自信がなければリーダーシップは発揮できない

 そこで重要な役割を担うのがイノベーションを遂行しようとするアントレプレナーのリーダーシップである。人々を説得して、イノベーションのための資源動員を行うことがアントレプレナーの重要な機能である。

 想像してもらいたい。あなたの目の前に新しいビジネスの提案をしている2人がいる。

 1人は自信たっぷりにプランを説明している一方で、もう一方の話しぶりは自信がなさそうだ。

 このような場合には、多くの人は自信たっぷりに話す人のビジネスの提案を支持しやすい。当たり前の話であるが、「自信」は人を説得するのに非常に重要な要素である。

 医師の自信と患者の満足度について調べたロチェスター大学のグループの実験では、自信に満ちた医師の言葉を信じ、高い満足度も得ることが分かっている。自信がないアントレプレナーは、資源動員のためのリーダーシップを発揮できず、うまく機能しない。

 

経営と社会心理学の考察②自信を持つことで起きる2つの「困ったこと」

 

能力が低い人ほど自信家という現象

 これだけであれば、「自信を持つことが重要である」という単純なメッセージになる。しかし、困ったことが2つある。

 第1は、能力が低い人のほうが「自信」を持ちやすいということが明らかになってきているのである。

 われわれは子どもの頃から常に「自信を持て」と教えられてきた。しかし、自分の知識や能力、ビジネスの提案などに対して大きな自信を持つ傾向があるのは、能力の低い人のほうなのである。

 コーネル大学の研究グループは、ユーモアに関する実験を通じて、能力が低い人のほうが自分の実力を過大評価して「自信」を持ちやすいことを明らかにしている。また、チェスでもランキングが低い人のほうが、自分の実力について過大に評価する傾向が高い。能力が高いほど客観的に自分の能力を判断できるため、「過大」な評価をしなくなる。

 第2に(これは繰り返しになるが)、人は「自信ある態度」を信用する。上記のロチェスター大学の実験でも、患者たちは、自信のある態度で接する医者に高い信頼を置いていることが分かっている。その診療の正確性にかかわりなくである。

 人は「能力」や「プランの妥当性」を判断する時に話し手の「自信」を大きな手がかりにしている。自信を持って話しているのだから、その内容も正しいに違いないと判断しているのである。

 人々は「自信たっぷり」に話す人の話をより信じてしまう。能力の低い人のほうが自信過剰になりやすいのにもかかわらずだ。

能力が高く慎重な人がチャレンジできる環境づくりを

 これまでのイノベーションの研究によって、イノベーターはビジネスチャンスを追求する際に、自分のチャレンジの成功の確率を実際よりもかなり高く見積もっていることが分かっている。

 つまり、「楽観主義」なのである。楽観的だからこそ、新しいチャレンジを好むのである。そして、多くのチャレンジをして、そのほとんどが失敗に終わる。

 その結果、わずかな成功で多くの失敗をカバーする「数を打てば当たる」ゲームが展開されるようになった。

 しかし、社会心理学の研究によって明らかになったように、能力の低い人のほうが自信を持ちやすい(楽観的になりやすい)とすれば、イノベーションの成功の確率を上げられる可能性がある。

 例えば、シリアルアントレプレナーと呼ばれている次々と新しい企業をつくってビジネスを起こしていくイノベーターは、「たまたま1回当たった」のではなく、新しいビジネスを興す能力が高い。

 彼らの社会的な重要性は高い。能力の高い人がチャレンジしやすい環境を創ることも重要である。

 能力が高い人ほど慎重であり、過度の自信を持たない。そのため、彼らがチャレンジしようと思うためには、失敗した時のしっかりとした受け皿やチャレンジへの高い評価(金銭的にも非金銭的なものも含めて)を用意する必要がある。これができていれば、自分の能力を過信しているわけではない人も、多くチャレンジする。

 合理的に考えれば「チャレンジ」するほうが得というインセンティブの設計を創らなければ、自信過剰な人だけがチャレンジし、「数を打てば当たる」ゲームの確率はなかなか上がらない。

 

[連載] 世界で勝つためのイノベーション経営論 米倉誠一郎氏 & 清水洋氏の記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る