マネジメント

 イノベーションや組織の意思決定を社会心理学から考える〜「自信」の魔力について〜

 

 最近、社会心理学的なアプローチが経営学の研究にも多く見られるようになってきている。今回と次回では、イノベーションや組織の意思決定を社会心理学の観点から考えてみよう。まずは、今回は「自信」の魔力について見ていこう。

 イノベーションは、経済的な価値を生み出す新しいモノゴトの結び付き(ニューコンビネーション)である。「新しい」からこそ、不確実性が伴う。これまでにやったことがある既存のものであれば、どの程度の投資でどの程度のリターンがあるかは予想できる(あくまでも「概ね」であるが)。しかし、新しいチャレンジであるほど、必要となる投資額やそのリターンを見積もるのは難しい。しかし、イノベーションを生み出すためには、経営資源の動員が必要である。経営資源にはもちろん限りがあるため、どこかに資源を動員しようとすれば、他の資源が削られる。だからこそ、組織の中で経営資源を動員するための正当性の確保が問題となる。

 そこで重要な役割を担うのがイノベーションを遂行しようとするアントレプレナーのリーダーシップである。人々を説得して、イノベーションのための資源動員を行うことがアントレプレナーの重要な機能である。

 想像してもらいたい。あなたの目の前に新しいビジネスの提案をしている2人がいる。1人は自信たっぷりにプランを説明している一方で、もう一方の話しぶりは自信がなさそうだ。このような場合には、多くの人は自信たっぷりに話す人のビジネスの提案を支持しやすい。当たり前の話であるが、「自信」は人を説得するのに非常に重要な要素である。医師の自信と患者の満足度について調べたロチェスター大学のグループの実験では、自信に満ちた医師の言葉を信じ、高い満足度も得ることが分かっている。自信がないアントレプレナーは、資源動員のためのリーダーシップを発揮できず、うまく機能しない。

 これだけであれば、「自信を持つことが重要である」という単純なメッセージになる。しかし、困ったことが2つある。

 第1は、能力が低い人のほうが「自信」を持ちやすいということが明らかになってきているのである。われわれは子どもの頃から常に「自信を持て」と教えられてきた。しかし、自分の知識や能力、ビジネスの提案などに対して大きな自信を持つ傾向があるのは、能力の低い人のほうなのである。コーネル大学の研究グループは、ユーモアに関する実験を通じて、能力が低い人のほうが自分の実力を過大評価して「自信」を持ちやすいことを明らかにしている。また、チェスでもランキングが低い人のほうが、自分の実力について過大に評価する傾向が高い。能力が高いほど客観的に自分の能力を判断できるため、「過大」な評価をしなくなる。

 第2に(これは繰り返しになるが)、人は「自信ある態度」を信用する。上記のロチェスター大学の実験でも、患者たちは、自信のある態度で接する医者に高い信頼を置いていることが分かっている。その診療の正確性にかかわりなくである。人は「能力」や「プランの妥当性」を判断する時に話し手の「自信」を大きな手がかりにしている。自信を持って話しているのだから、その内容も正しいに違いないと判断しているのである。人々は「自信たっぷり」に話す人の話をより信じてしまう。能力の低い人のほうが自信過剰になりやすいのにもかかわらずだ。

 

イノベーションや組織の意思決定を社会心理学から考える〜能力が高い人ほど慎重〜

 

 これまでのイノベーションの研究によって、イノベーターはビジネスチャンスを追求する際に、自分のチャレンジの成功の確率を実際よりもかなり高く見積もっていることが分かっている。つまり、「楽観主義」なのである。楽観的だからこそ、新しいチャレンジを好むのである。そして、多くのチャレンジをして、そのほとんどが失敗に終わる。その結果、わずかな成功で多くの失敗をカバーする「数を打てば当たる」ゲームが展開されるようになった。

 しかし、社会心理学の研究によって明らかになったように、能力の低い人のほうが自信を持ちやすい(楽観的になりやすい)とすれば、イノベーションの成功の確率を上げられる可能性がある。例えば、シリアルアントレプレナーと呼ばれている次々と新しい企業をつくってビジネスを起こしていくイノベーターは、「たまたま1回当たった」のではなく、新しいビジネスを興す能力が高い。彼らの社会的な重要性は高い。能力の高い人がチャレンジしやすい環境を創ることも重要である。能力が高い人ほど慎重であり、過度の自信を持たない。そのため、彼らがチャレンジしようと思うためには、失敗した時のしっかりとした受け皿やチャレンジへの高い評価(金銭的にも非金銭的なものも含めて)を用意する必要がある。これができていれば、自分の能力を過信しているわけではない人も、多くチャレンジする。

合理的に考えれば「チャレンジ」するほうが得というインセンティブの設計を創らなければ、自信過剰な人だけがチャレンジし、「数を打てば当たる」ゲームの確率はなかなか上がらない。

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