マネジメント

2019年、創業100周年を迎えたヤマトホールディングス。宅急便もサービス開始から45年がたち、取り巻く環境の変化はヤマトにさまざまな課題を突きつけている。この1月末には経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表。ホールディングス制を改めるなどヤマトは変わろうとしている。何が変わるのか長尾裕社長に聞く。(聞き手=古賀寛明、Photo=山内信也)【『経済界』2020年6月号より加筆の上転載】
長尾 裕・ヤマトホールディングス社長

ながお・ゆたか 1965年兵庫県生まれ。高崎経済大学卒業後ヤマト運輸に入社。執行役員関東支社長、常務執行役員を経て2015年社長兼ホールディングス執行役員。19年4月よりホールディングス社長に就任。

ヤマトホールディングスの構造改革の背景

 

今までのビジネスが時代に合わなくなった

―― 新型コロナウイルスの影響は出ていますか。

長尾 世界経済自体が毀損していますが当社にも大きな影響があります。世界を見渡してもサプライチェーンは壊れ、近年日本を引っ張ってきた観光業も大打撃です。また消費への影響が出ています。業界問わずさまざまな経営者と話しましたが、上半期は企業業績の見通しは明るくないと一致しています。

―― 1月末に新しく経営構造改革を発表しました。なぜ中期経営計画ではなく経営構造改革だったのでしょうか。

長尾 現在進行中の中計「KAIKAKU2019 for NEXT100」がこの3月で終わりを迎えますので、4月以降の中計を出すということも考えました。しかし、それよりもわれわれのビジネススタンスをきちんと見定めた方が良いという結論に達し、経営のグランドデザインである「YAMATO NEXT100」を策定するに至りました。

 当社は2019年に創業100周年を迎えました。ビジネスを100年続け、宅急便を始めてからも45年目を迎えます。そのなかで現行ビジネスが結果として時代に合わなくなっているのではないだろうか、お客さまにフィットしなくなっているのではないか、という問題意識を感じていたのです。

 そこで、「もう一度お客さまの立場に立って考える」「今の時代にあったお客さまに向き合える会社にしていく」。そういう改革を行うためのプラン策定に着手しました。

―― いつ頃から中計ではなく抜本改革にしようと考えたのですか。

長尾19年4月に社長に就任して以降、執行部とずっと問題点の協議を続けてきました。

 「今、会社がどういう状況なのか」「どんな問題を抱えているのか」といった事実を抽出しながら、「われわれは何をすべきか」という問いを立てた結果、取り組むべき経営上の課題が13項目見えてきました。

 今回発表させていただいた中身は、検討してきたやるべきことをまとめたグランドデザインです。その中身は中計と言えなくもないと思うのですが、1年かけて会社の形を変える準備をしなければいけません。

 一方で、やるべきことは早く始めたい。つまりは中計のゼロ年目の位置付け。1年間やるべきことをやりながら、詳細な実行計画と言えるような中期経営計画を来年の1月をめどに打ち出そうと考えています。

―― では、この1年は助走期間ということですか。

長尾 助走というとウォームアップ感がありますが、今から全力で走らなければ当社が目指す姿には到達しないと思っています。ですからこの1年間は準備ではなく、実行の1年ですね。

長尾 裕氏

新たな経営体制について語る長尾氏

ヤマトホールディングスの経営構造改革の中身とは

 

体制を変え、eコマースがビジネスを新たに生み出す

―― 改革ではホールディングス(HD)制を改めるそうですね。

長尾 本来はスピーディーに対応するためにHD制にするといわれますが、ご承知のようにヤマトホールディングスには売り上げの8割を占めるヤマト運輸という大きな事業会社があります。15年前の05年にHD制を導入した時には、ヤマト運輸以外の事業をいかに育てていくかという意図がありました。しかし結果として他の柱が育ったかと言えばそうではありません。

 宅急便を開始する時には、かつての「大和便」時代の法人アカウントがありながらも、経営資源を大胆に宅急便へシフトさせることで、個人向けビジネスへの大きな業態変更を行いました。その結果、宅急便ビジネスは拡大し、顧客もはじめは個人だけでしたが、その後小口の法人、さらには大口企業のお客さまへと拡大していきました。45年という月日によって年間18億個の取り扱い荷物にまで成長したのです。

 しかし、その裏で大量生産、大量消費の時代は終わり、ニーズの多様化は物流を小口多頻度化へと変化させつつあります。宅急便は、これまで時代に合っていたから成長し続けてきましたが、時代は変わっています。これから先も成長性がないとは言いませんが、もっと早く宅急便とは別のビジネスを送り出すべきだったと考えています。ですからこの考えを加速させ、具体化させる取り組みを今進めているところです。

 同時にもっとお客さまに向いた組織形態に変更しなければ行動も変わらない。だから組織体制も改革していきます。

 今回の変更では、リテール事業本部で個人のお客さまと小口のビジネス需要に応えます。法人のお客さまにはグローバル法人と地域法人事業本部の2つ。そして今後の「産業のEC化」に対応するサービスを創造していくためにEC事業本部を立ち上げます。この4つの事業本部がそれぞれのお客さまに向き合う形をつくろうと進めています。

 ただ、事業本部がお客さまに優位性をもった提案をできなければいけません。そこで、輸送機能やITといった4つの機能本部を立ち上げ、事業本部の競争優位の源泉となる機能の開発と運営にあたる役割を担います。

―― EC事業本部も立ち上げています。既存のビジネスモデルの変更を促したECですが、今後どうなると予想していますか。

長尾 確かに数年前にeコマース、通販の荷物が大量に増えていったことでそのボリュームに耐え切れなくなりました。そういう意味で仕組みを変えないといけないということもありますが、eコマースの浸透は時代の流れですから、この流れにしっかりと対応できなければ、淘汰されてしまうという覚悟をもっています。

 かつての百貨店やGMSの栄枯盛衰を見れば明らかです。時代によってビジネスモデルは変わります。私がよく社内で話しているのがカーシェアリングの例です。

 誰とも話さずに空き状況や予約ができ、誰とも会うことなく車を借りることができる。まさにあらゆる産業がサービスをeコマース化しつつあると言っていいでしょう。このカーシェアリングで走行キロがゼロの使い方があるのだそうです。

 ある記事を読んでなるほどと思ったのですが、一人で過ごすスペースを確保するのが目的なのだそうです。外回りの営業マンでしょうか、エンジンをかければエアコンも使え、シートを倒せば昼寝もできる。しかも駐車スペースもあります。他にも荷物を置くために使う人もいるのだとか。最初に聞いたときには良く考えるなぁと思いましたが、いろんな使い方を利用者が編み出していくという事例です。

 宅急便でもわれわれが想定しない使われ方がありました。単身赴任のお父さんに向けて奥さんが料理をつくり冷凍してクール宅急便で送るとか、宅配クリーニングもわれわれではなくお客さま発のアイデアです。

 カーシェアリングや宅急便のようにさまざまな使われ方がeコマースから新たに生まれてくると考えています。そのためにわれわれもサービスをブラッシュアップしていき、世の中の要請に、要望についていきたい。EC事業本部創設にはそういう期待を込めています。

デジタルデータがアナログを強化する

―― 時代の要請といえばデジタル化にも力を入れています。

長尾 もともと宅急便は翌日配達が基本で1日の単位で動いていました。それが「時間帯お届け」のはじまりで時間の概念が入ってきた。基本の情報システムで何とかやり繰りを行っていましたが、今のeコマースの利便性に慣れたお客さまの期待には必ずしも応えられていませんでした。

 近年はクロネコメンバーズなどでデジタル武装をしていますが、本質的な問題を抱えたままだったのです。そこで、お客さまの要望に応えるために基幹システムから変えていきます。外注もありますが、これからの当社のデジタル環境をつくっていくには内製部隊も必要だと考えています。こうした部隊も含めデジタル人材は、現在はまだ50人体制ですが最終的には300人規模の組織にしていく予定です。

―― 物流システムもデータによって変わるとか。

長尾 現在、荷物の7割がデジタル化された伝票で残り3割が手書きのアナログ伝票です。

 極論ですが集荷の段階でデジタル化できればその後のオペレーションも最適な設計が可能になるのです。どういうことかというと、これまでターミナルの仕分けでは、ターミナルに荷物が到着してはじめて荷物量が分かりました。

 しかし、デジタル化ができていれば数時間前、あるいは受注までさかのぼって、荷物量やどういう荷物が来るのかを知ることができます。仕分け側も到着量が事前に分かれば、適正な作業体制が見えてきます。

 また、同じ宛先の荷物でも、セールスドライバーが素早く届ける必要性があるものもあれば、そうでないものもあります。アナログ伝票では、荷物それぞれに対するお客さまのニーズを到着するまで知ることができませんが、デジタルデータは違います。これを、前もってデータとして把握することができれば、運行や配達を、これまでの発想をはるかに超えて最適化することができると考えています。

 仕分けは今も荷物が定型化していないことから人が深く関わっています。全国70カ所あるターミナルと3700あるラストワンマイルの拠点で現在は1日2回の仕分けを行っていますが、これもソーティング・システムの導入で、1回で済ますことができるのではないかと考えています。既に2年前から実験を行い、想定していた省人化の理論値に近づいてきました。

 この経営構造改革では、新しいテクノロジーやデジタル化を通じて、人力に頼る仕分けをどうなくしていくかを徹底的に追求していきます。仕分けが変革すればラストワンマイルの最適化も見えてきます。

 ラストワンマイルの問題は、配達だけで解決するものではありません。運び方、輸送、仕分けといったトータルの最適化がなければ全体最適は生まれないのです。

―― これまで働き方改革を進めてきましたが、今改革での変化は。

長尾 これまで働く環境の整備を行い確実に働く時間は短縮し、働き方も変わってきたと思います。でもこれは会社主導で進めた話です。これからは社員の働きがいをどうつくっていくかが重要です。働く環境の変化がお客さまのサービスや社員のモチベーション向上につながらなければ意味がありません。

 現場がこれまで以上にお客さまと向き合い、ビジネスを行えるようにマネジャー、経営層こそが、この経営構造改革を通じて変わっていかなければなりません。お客さまのことを理解せずに良いサービスが生まれるはずはありませんからね。  

 

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