マネジメント

クロスボーダーM&A取引の注意点①―初期段階の書類作成について

 

秘密保持契約(NDA)を締結する際の注意点

 M&A取引を検討中の当事者が初期段階で締結する契約の1つに秘密保持契約(NDA)があります。

 古いNDAを使用したり、内容について注意を払わなかったりするケースが多く見られますが、取引が合意に至らず協議が終了した場合、突如としてNDAとそこに定められた義務に各当事者の注目が集まることになります。

 例えば、電子コピーなどのバックアップを保管する法令上やコンプライアンス上の義務を負う場合であっても、受領した情報はすべて削除することに同意していたか、証券取引所に情報を開示する義務が生じた場合に第三者への情報開示が認められるのは法律上要求される場合に限られるのか、などが問題となり得ます。

 多くの場合、NDAではこのような問題への対応が十分ではありません。

 さらに、必要な場合に関係会社や外部の専門家、資金調達先と秘密情報を共有する権利が適切に認められているか、また当該NDAが対象事業の従業員や顧客の勧誘、雇用の制限を含んでいるか、といった問題もあります。

 自らが同意しようとしている内容や義務を理解し、かつ取引に沿う内容にすることが重要なポイントとなります。

基本合意書(LOI)作成の注意点

 協議が順調に進んだ場合、次に当事者間で取り交わす可能性のある重要な書類は基本合意書(LOI)です。

 取引の初期段階であるため、LOIの作成にあたっては当事者双方が取引やその条件に拘束されないよう留意することが重要です。

 しかしながら、LOIに法的拘束力がないからといって、定められている事項が重要ではないという訳ではありません。LOIで定められたことを後の交渉で変更しようとすれば不誠実とみなされます。

 したがって、十分に検討されていない事項はLOIに記載するべきでなく、事前に弁護士と協議することが重要です。

 LOIでは、ストラクチャー、提案価格、クロージング後の価格調整、スケジュール、重要な前提条件や当該取引に固有の特別な検討事項など、法的拘束力を有しない取引の基本条件を定めますが、その他にも売り主との独占交渉権--多くの場合デューデリジェンスに相当な時間と費用を費やすことになる買い主へのインセンティブとして付与される--や、取引が完了しなかった場合に問題となり得る人材の引き抜きから売り主のビジネスを守るため、売り主や対象会社の従業員や顧客の勧誘を禁止すること等の法的拘束力を有する条項を定める場合もあります。

 

クロスボーダーM&A取引の注意点②―非公開情報の共有リスク

 

判断が難しい場合は弁護士に相談を

 M&A取引の当事者は、現在や将来の競合会社同士であることも多く、デューデリジェンスの一環として非公開情報を共有しなければならないことも一定のリスクを生じさせます。

 1つは競争法関連のリスクです。競争上センシティブな情報を共有することによって、取引の完了前に価格やその他の競争にかかる行為の調整が可能となること、また取引が進まない場合でも、そのような情報の共有により同じく価格や競争にかかる行為の調整が可能になることに起因してリスクが発生します。

 そのため、売り主は製品や顧客に固有の費用、数量や価格に関する情報を共有しないようにします。とはいえ、一度情報が共有されれば元に戻すことは不可能ですので、事前に弁護士のアドバイスを求めることが肝要です。

 秘密情報の共有に関するもう1つのリスクは、買い主の知的財産権が「汚染」される可能性があるという点です。案件が前進しない状況で買い主が対象会社の知的財産権に関する情報を取得していた場合、後で侵害請求の申立てを受けるリスクにさらされる可能性があります。

 これらのリスクはいずれも、一元的な情報管理システムを設けてどの情報に誰がアクセスしたか監視する、一定の情報へのアクセスを重要な従業員のみに制限する、競争上センシティブな情報へのアクセスを営業やマーケティング部門に認めない、知的財産に関する情報へのアクセスを技術やR&D部門に認めない、といった一定の予防措置を講じることで緩和できます。

 その他の措置としては、当該情報の検討を外部の弁護士などの専門家に依頼し、過度に具体的な情報の開示を避けた要約を作成させる方法があります。

競争法上の届け出にも注意

 最後に、交渉の初期段階で考慮すべきもう1つの事項として、競争法上の届け出の必要性が挙げられます。

 統合後の市場シェアについて競争法上の実質的な懸念がない場合でも、多くの法域で、一定の基準に該当する場合には、取引の詳細について関係官庁に届け出を行い、取引完了前に承認を受けなければならないとされています。

 米国などのように手続きが整備され承認までの期間が決まっているところの場合、当局は当該期間中に取引を承認するか、または実質的な懸念がある場合はさらに調査するため追加情報の提出を両当事者に求めるかのいずれかを行わなければなりません。

 その一方で、手続きが確立されていない法域の場合、承認の取得までに長い期間を必要としたり、必要な期間が不確かになりかねません。

 インドや中国、ブラジルは後者で、承認までに6カ月以上の期間を要する場合もあります。したがって、競争法上の届け出を要する場合について手続きの初期段階で把握しておくことが重要です。

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