マネジメント

ワークライフバランスを重視したさまざまな施策によって「ホワイト企業」としての評価が高いランクアップ。新型コロナウイルスへの対応でも、周囲が驚くスピードでさまざまな制度を導入した。その背景と実際の効果、新たな制度を導入するにあたって必要なことなどについて岩崎裕美子社長に聞いた。(取材、文=吉田浩)

 

岩崎裕美子・ランクアップ社長プロフィール

岩崎裕美子・ランクアップ社長

(いわさき・ゆみこ)1968年生まれ。北海道出身。藤女子短期大学卒業後、大手旅行代理店に入社。その後、複数の広告代理店を経て独立し、2005年ランクアップを設立。オリジナルブランド「マナラ化粧品」の開発・販売で業績を伸ばす一方、社員が働きやすい制度を数多く導入するホワイト企業としても注目されている。

 

ランクアップの新型コロナ対策とは

 

早期に対策を打ち出した背景

 日本人の多くが、まだ新型コロナウイルスの脅威を実感していなかった2月3日、化粧品の開発・販売を手掛ける株式会社ランクアップは、テレワークや時差通勤の推進、出張の自粛、イベントの中止、従業員のマスク着用といった施策を打ち出した。上場企業でさえ、その多くが対策を練っていなかった時期に、矢継ぎ早に制度を導入した理由について岩崎裕美子社長はこう語る。

 「ウチは約40人いる女性社員の半分がワーキングマザーなので、家族を守る意識が高い人が多いんです。テレワークの実施は、1月に大阪府のバスガイドさんが新型コロナに感染したニュースを見てすぐに決めました」

 以前からテレワークができる環境は整えていたという。キッカケは2011年の東日本大震災。当時、社員全員を自宅待機にせざるを得なかった経験から、平時でも在宅で仕事ができる仕組みに少しずつ変えていった。今回、制度導入の決断からすぐ実行に移せたのは、そうした下地があったからだ。

ワーキングマザーの悩みに応える制度

 その後も事態の長期化を鑑み、勤務時間を5~22時の間で自由に調整できるように変更。出勤する場合、オフィスにいる時間はできるだけ短くし、残りの勤務時間は在宅で消化できるハイブリッド勤務ができるようにした。例えば1時間だけ出社して、あとは帰宅してから在宅で仕事するといった働き方も可能だ。

 「基本的に社員を電車に乗せたくなかったんです。ただ、ワーキングマザーの場合、朝の時間帯と夕方以降は家庭の仕事があるので、昼間の限られた時間しか出社できません。そこで勤務可能な時間帯を幅広く取ることで上手く回りました」

 ランクアップでは以前から、子供の預け先がどうしても見つからない場合の子連れ出社を認めたり、子供が病気になった際のベビーシッター代をほぼ全額会社が負担したりする制度を導入している。今回、病児の看病で仕事に集中できなくなるケースを想定し、ベビーシッター代の会社負担制度をテレワーク中にも適用できるようにした。こうした様々なやり方で社員をサポートする。

子連れ出勤を認めるなどワーキングマザー支援の制度が充実している

 

 「今はほぼ全員がテレワークに移行しています。郵便物の当番として、会社の近くに住む社員が週に1、2回会社に立ち寄るのみです」と岩崎社長は話す。

テレワーク導入で見えたメリット

 全社的なテレワークへの移行による発見もあった。

 「たとえば毎朝8時半から行う朝礼も、以前は時短勤務の社員は出席できなかったんですが、今はオンラインでほぼ全員出るようになり、みんなで顔を合わせる機会はむしろ増えた気がします。オンラインでみんな揃ってラジオ体操もやっていますよ」(笑)。

 一方、難しいのが新卒採用の社員や社歴が浅い中途採用社員とのコミュニケーションだ。組織の中には、わざわざビデオ会議ツールを立ち上げて聞くまでもない細かな慣習も多い。

 そこで活躍しているのが、以前から導入している社員専用のコミュニケーションクラウドツールだ。組織図や就業規則、社員のインタビューなどさまざまな情報が蓄積されており、テレワークに移行してからはさらに使用頻度が増えているという。

 岩崎社長は、新制度によって明らかになったメリットを今後も生かしていく考えだ。

「在宅でかなり仕事できることが判明したので、新型コロナが収束した後も毎日出社することはないと考えています。ただ、4月以降一度も出社していない新卒社員などもいるので、そこは先輩社員が出社して指導する必要があると思います」

オンラインで行う全社朝礼

ランクアップのホワイト企業としての土台はどう築かれたか

 

制度よりも大切な「社員のやりがい」

 定時退社を徹底しながら業績を伸ばして続けているランクアップは、ホワイト企業としてメディアに取り上げられる回数も多い。労働環境が過酷な広告会社勤務を経て独立した岩崎社長は、創業時からワークライフバランス重視の会社を目指していた。

 ただ、働きやすい制度をいくら導入しても、一向に社員のモチベーションが上がらない時期があった。その時に得た気付きが「制度をいくら充実させても、やりがいがなければ社員は満足しない」ということだった。

 「私も共同創業者の日高(由紀子副社長)も、社員の意見を引き出したり目標設定したりするのが苦手だったんです。でも、社員にしてみると、私たちが一方的に何でも決めるので、仕事が面白くなくなっていったんですね」

価値観の共有で社風が変わる

 「最先端だけど不安定なサービスと、古いけど安定的なサービスのどちらを取るかといった議論になった場合、迷わず挑戦する方を選ぶようになりました。挑戦が好きな人は新しい企画に挑戦し、そうでない人も挑戦する人を応援する側にまわるようになり、新しい施策がどんどん生まれるようになりました」

 社員に価値観が浸透してからは、岩崎社長自身の権限移譲もしやすくなったという。

 「“お客様のための挑戦”というゴールが見えることで信頼関係が生まれ、ゴールに着くためにはどんな方法でもいいと考えられるようになりました。だから予算以外は口出ししなくなりましたね」

柔軟に対応できる企業とできない企業の違い

 日本社会の現実として、女性社員はどうしてもライフステージの変化に就業スタイルが影響されやすい。だが、単に働きやすい環境を整えても、社員のベースにあるやりがいを引き出すことができなければ、「仏作って魂入れず」になってしまう。それを早くから自覚していたことが、新型コロナ対策にも役立っている。

 会社にとって、就業スタイルの変革は1つの挑戦だ。ランクアップの場合も、共通の価値観が根付いていなかったり、制度導入だけが先走っていたりすれば、混乱を引きおこしていたかもしれない。実際、慌ててテレワークなどの制度を導入しようとして、上手くいかずに悩む経営者は多い。

 「“たった一人の悩みを解決することで、世界中の人たちの幸せに貢献する”というのが私たちのミッション。メインは化粧品事業ですが、これからは悩みの数だけ会社を作るという目標を掲げて、ジャンルを問わず新規事業をどんどん生み出していきたいです」

 この時期にあって、新たな事業への挑戦にも貪欲な姿勢を見せる岩崎社長。新型コロナ騒動によって社会全体が変化を余儀なくされる中、企業の本質も否応なくあぶり出されている。

 

 

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