国際

問題解決の枠組みが明確に

 4月29日、モスクワのクレムリンで行われた日露首脳会談で、日本側は所期の目標を達成した。同日の共同記者会見で、安倍首相は、訪問の目的について、「①日露関係の将来的可能性を示すこと。②平和条約交渉(北方領土交渉)の再スタート。③プーチン大統領との個人的信頼関係の構築」と述べたが、いずれの目標も達成された。特に、重要なのは、③の「プーチン大統領との個人的信頼関係の構築」である。

 共同会見で、安倍首相が「プーチン大統領との間で今回、平和条約交渉を含めて幅広い問題について胸襟を開いて、じっくり話し合い、個人的信頼関係が生まれたと実感している」と述べた時に、隣席のプーチン大統領が深く頷いた。この映像を通じて、日露両首脳間に信頼関係が確立されたことが広くロシア国民と国際社会に対しても可視化された。

 共同会見で、安倍首相は、領土という言葉を用いなかった。日露平和条約交渉は、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島に関する帰属の問題が解決された上で締結されるということは、最高首脳を含む日露両国間で合意されている。従って、ロシアの国民感情を刺激する「領土問題」という言葉をあえて用いずに、平和条約交渉の再スタートという表現を安倍首相が用いたことは外交的に賢明な判断と思う。

 今後の平和条約(北方領土)の進め方については、29日に両首脳が合意した「日露パートナーシップの発展に関する日本国総理大臣とロシア連邦大統領の共同声明」の第9項が鍵になる。ここで、「両首脳は、日露パートナーシップの新たな未来志向の地平を模索する中で、両首脳の議論に付すため、平和条約問題の双方に受入れ可能な解決策を作成する交渉を加速化させるとの指示を自国の外務省に共同で与えることで合意した」と定められている。これで北方領土問題の解決は首脳間の政治決断で行われるという枠組みが明確になった。これから行われる両国外務省間の交渉は、これまでと質を異にするものになる。「われわれ外交官では、これ以上、いくら誠実に協議してもまとめあげることはできません。後は安倍総理とプーチン大統領の交渉に委ねなくてはなりません」というように、政治決断に向けて問題を絞り込んでいくことが両国外務省の課題になった。

 両国外務省の「交渉担当は次官級になると思う」(29日、世耕弘成内閣官房副長官のブリーフィング)とのことだが、そうなると日本側のキーパーソンは、斎木昭隆外務審議官(ロシアとの関係で次官級という場合、日本では外務審議官がカウンターパートになる)になる。斎木審議官はタフネゴシエーターで、安倍首相の信任も厚い。日本側の態勢については交渉進捗に期待が持てる。

首相側近の危険な発言

 もっとも首相側近の北方領土問題に関する発言が、交渉を攪乱する危険性がある。具体的には、内閣官房参与の本田悦朗氏の発言がクレムリン(露大統領府)で波紋を呼んでいる。露国営ラジオ「ロシアの声」が4月29日にこんな放送をした。

〈内閣官房参与本田悦朗氏は「インターファクス」のインタビューに答え、ロシアとの領土問題について考えを示した。/本田氏によれば、「南クリル岩礁に対し日本が潜在的な主権を持っていることを将来的に認める用意がある」とのシグナルをロシアが送ることを、日本は期待している。/しかし諸島の行政的引渡しを即座に要求するつもりは日本にはない。/本田氏によれば、もしもロシアが「諸島に対する日本の潜在的な主権を将来的に認める用意がある」とのシグナルを出せば、「非常に大きな肯定的印象を日本社会にもたらすだろう」〉

 報道から判断すると本田氏の発言は、1998年4月、当時の橋本龍太郎首相がエリツィン大統領に対して行った「川奈秘密提案」を念頭に置いている。2000年9月に訪日した際にプーチン大統領は川奈提案を拒否した経緯がある。プーチン大統領が明確に否定した提案を、マスメディアを通じて、ロシア側に検討しろと要請するのは常軌を逸している。

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