文化・ライフ

Jリーグを発足させ、サッカーのプロ化を進めた川渕三郎

 開幕から20年を迎えたJリーグ。記念パーティーの主役は初代チェアマンの川淵三郎(現日本サッカー協会最高顧問)だった。

 「1993年(の5月)にスタートして、ちょうど20年になるんですが、正直言って、これだけ発展するとは夢にも思っていませんでした」

 10クラブでスタートしたJリーグだが、昨季からJ1、J2合わせて40クラブでシーズンを戦っている。

 プロ化するまで一度も出場できなかったワールドカップも、日本代表は98年フランス大会以降、4大会連続出場。2014年のブラジル大会出場にも王手をかけている。代表の躍進はJリーグなしにはあり得なかった。

 しかし、サッカープロ化への道のりは、決して平坦ではなかった。

 91年11月のJリーグ発足直前、ある会議で協会幹部がこう発言した。

 「サッカーのプロ化というがバブルもはじけ、景気も悪くなってきた。企業もサッカーには投資しにくいのではないか。時期尚早と思われる」

 もうひとりの幹部が続けた。

 「日本にはプロ野球がある。サッカーがプロ化で成功した例はない。前例がないことを急いでやる必要があるのか。もっと落ち着いて考えるべきだ」

 やにわに川淵は席を立ち、反論をぶった。

 「時期尚早という人間は100年たっても時期尚早という。前例がないという人間は200年たっても前例がないという」

 この一言がプロ化への流れを一気に加速させたのである。

Jリーグは「地域密着」の理念を貫く

 Jリーグがスタートしてからも、順風満帆というわけにはいかなかった。

 98年の10月には横浜フリューゲルスと横浜マリノスが合併を発表した。フリューゲルスの出資会社である佐藤工業が経営不振に陥り、もうひとつの出資会社の全日空がマリノスの親会社・日産自動車に働き掛けたものだといわれているが、「地域密着」を旗印に掲げるJリーグは、深い傷を負った。

 同年末には読売新聞社も名門・ヴェルディ川崎の経営から手を引いた。

 長年に渡って川淵と対立してきた読売新聞社の渡邉恒雄社長(当時)は、撤退にあたって次のような声明文を発表した。

 「Jリーグは今年、6シーズン目を迎えましたが、所属する18チームのすべてが莫大な赤字に苦しんでいる状態です。これは地域密着主義という理念ばかりを先行させ、企業が本気で支援できるような環境作りを一切怠ってきた、川淵チェアマンの誤ったリーグ運営の結果であります」

 「しかし、川淵チェアマンはそうした声に一切耳を貸さず、各クラブを支える親会社の苦しい状況を見て見ぬふりをして極めて独断的なリーグ運営を続けてきました。その結果、チーム数だけは増え、観客動員数は激減してしまいました」

 マスコミのドンに、ここまで名指しで批判されても、川淵は少しもひるまなかった。

次のように反論した。

 「物語は何でも理念があって続いていくわけでね。理念がないのなら、単なるカネ儲けですよ。Jリーグという社団法人をつくるとき、理念に賛同する人が集まり、同じ仲間としてスタートしたわけでしょう。それを批判するほうがどうかしている。

〝Jクラブに企業名を入れろ〟という要求にしたって、じゃあ企業の名前を出したらお客さんが増えるんですか? と逆に問いたい。われわれは27年間の日本サッカーリーグの歴史を通じて、企業スポーツの限界を肌で感じている。われわれがJリーグを創設したのは、ヨーロッパや南米にあるような地域に密着したスポーツクラブを目指さない限り、プロスポーツの発展はないという認識からなんです。ここを理解していない人が多過ぎる」

日本サッカーの成長とJリーグ100年構想

 どちらの言い分が正しかったかについては、今さら検証する必要もあるまい。

 最近ではプロ野球の球団も「地域密着」を標榜している。本拠地を東京から札幌に移した北海道日本ハムファイターズしかり、この10年間で2回、日本一になった千葉ロッテマリーンズしかり、05年に新規参入を果たした東北楽天ゴールデンイーグルスしかり。

 Jリーグが誕生する前、日本のスポーツは「学校」と「企業」が中心だったが、誕生以降、まだ道半ばとはいえ「地域密着」へとシフトチェンジがはかられているのは、誰の目にも明らかだろう。

 冒頭の記念パーティー。未来を見つめて、川淵はこう締めくくった。

 「ここで開幕当時の初心に立ち返り、世界のリーグのトップ10入りを目指すとともに、Jリーグ100年構想の実現に向けて、さらなる一歩を踏み出すことを期待します」

 さらなる日本サッカー成長のカギは、これまでの20年同様、進取の気性を持ち続けることができるかどうか、そこにかかっている。 (文中敬称略)

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

過密日程の高校サッカー選手権に必要な「戦い方改革」

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

上位進出を狙う高い壁はW杯初戦のコロンビア戦

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

日馬富士の暴行事件で自らの手で首を絞めた相撲界

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

“ティア1”の強豪を相手に日本ラグビーは白星を挙げられるか

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

ハリルジャパンは「弱者の戦術」でどこまでブラッシュアップできるか

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第19回)

壮大な目標を立てると努力しない人材になる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る